157話
パタパタパタパタ
うるさいわね。一体何?モゾリと動こうとしたら
「!ナディア様!?起きられたのですか!?」
エアリーの声?うっすら目を開けると、私を覗き込む8つの目があった。何事!?
「良かった〜〜」
グレタが耳元で号泣し始めた。いや、だからうるさいって…
「…みんな?何故ここに?」
明日か明後日に来れると聞いていたのに
「何言ってるんですか!?ナディア様丸一日眠り続けてたのですよ!やっと辿り着いたら、こんな事になって!いきなりいなくなったと聞いた時は気が遠くなりましたよ!!」
エアリーが激怒しながら言う。
マズイわ。激怒したエアリーなんて、丸一日寝た後じゃなくても敵う気がしない。
けれど、いきなりいなくなったのは私のせいじゃないのよ。多分ぷっぷちゃんが…そう言いかけていると
「ナディア、いい訳しない方がいい。更に酷い目に合うぞ」
ボソリとアイラさんが言った。そのアイラさんの横からコニーさんが
「そうよ、ナディアちゃん。いきなりいなくなった後、海に落ちて大怪我なんて、どれだけ心配かけるの?」
ヒィ…コニーさんの目が据わってる。でも海に落ちたのだって私のせいじゃない…
「あの…申し訳ありません。私が至らないばかりにこんな事になってしまって…」
声のする方へ目を向けると、マーラが部屋の片隅で小さくなって謝っている。
「マーラさんの責任じゃないですよ!そもそもナディア様に付いていた侍女が1人だけなのが無謀なのです。2人付いていても行方不明になる様なお方なのですから」
…エアリー?
「そうです。そうです。4人付いていても何かしらやらかしたりするのがナディア様なのです」
グレタ!?
「ありがとうございます。殿下に一応は聞いていたので、途中までは鎖で繋いで逸れない様にしていたのですが…」
「まぁ!そこまでしていただけたのですね!」
そう言ってアイラさん以外マーラに駆け寄り慰め始めた。みんな酷い
「ナディア、具合はどう?痛い所とかない?」
「アイラさん…ありがとう。大丈夫よ。まだ少しクラクラするくらいで」
私の味方はアイラさんだけかもしれない。
「チッ…折角力の見せ所だと思ったのに」
アイラさん?
「ナディア…ここだけの話、アタシは聖女になったんだ。だからどっか痛いトコあったらいつでも言って」
アイラさんが何を言っているのかわからない。もしかしたら海に落ちた時に頭でも打ったのかしら?得意気なアイラさんを見てそんな事を考えているとノック音と共に殿下が部屋に入ってきた。だから!
「殿下!返事があってから…」
「あ、悪い…」
全くもって悪く無さそうに言う殿下。気遣う気ないでしょ。あぁ大きな声を出したからクラクラする
「ナディア、体調はどうだ?急ですまないが、本日午後からハイドンに向け出発する。お前の体調が悪化しないよう気をつけるから」
気をつけてはくれるけれど、出発はするのね。
馬車で座っていられるかしら?殿下はその後4人に指示を出し去って行った。
にわかに慌しくなった部屋の中で、1人ベッドで横になっているのは申し訳ない。コッソリベッドから降りようとしたらグンと体が引っ張られた。
「ナディア様!何処へ行かれるのです?」
エアリーが飛んできて問い詰められる
「いえ、ちょっとお水を飲もうかと…」
少しくらい動かないと身体がどうにかなりそうなのよ。すぐ目の前のテーブルに行こうとしただけなのに
「ナディア様、水だろうがトイレだろうが今後私達に一言おっしゃってから動いて下さい。鎖の魔法を施しているので」
「ええぇ…部屋の中なのだし、それくらい…」
「ダメです。先程マーラさんに鎖魔法を学びましたので、これからはちょっとでも離れようとされてもすぐにわかりますからね!」
私のプライバシーはどこに行ってしまったの?
「ナディア様、いきなり消えていなくなったと聞き私達がどれだけ心配したかわかります?」
「うっ」
「私達はその時誓ったのです。もう二度とナディア様から目を離さないと!」
心配してくれているのよね?きっとそうよね?
痛い程わかるのだけれど、せめて部屋の中くらいは自由に動きたい。今はエアリーも頭に血が上っているでしょうから、近いうち折を見て話し合いをしてみましょう。
その後バタバタとした室内でボーっと椅子に腰掛けて過ごした。あまりにも暇なので眠り続けるぷっぷちゃんを眺めて過ごす。
あれ以来ずーっと眠り続けているぷっぷちゃん
監視もされずひたすら眠っていられるぷっぷちゃんが何だか無性に腹が立って、チョロっと生えている髭?触角?変な所から生えているけれどツンツンしてみた。
すると熟睡している筈なのにピクピクしている。可愛い。
しばらくソレで遊んでいたけれどその内ピクリとも動かなくなり、引っ張ってみたらスポンと抜けてしまった。
え、コレは無くても良いものかしら?猫のように重要な役割があったらどうしましょう。
チラッとぷっぷちゃんを見るに何とも無い様に見える。私は周りを見渡し誰もこちらを見ていないのを確認してそっとポケットにしまい込んだ。
ゴメンねぷっぷちゃん、多分寝続けられるのだから大丈夫よね。
しばらくしてヒューズ君が呼びに来て私達は慌しくも出発する事となった。あら?
「陛下、王妃様。この度はご迷惑をおかけして…」
荷物を運び終わり今にも出発せんとする人達の間に、お2人やセルゲイさん、オリビアさんを見かけ早歩きで近寄り声をかけた。とりあえずご迷惑をかけた事を詫びようとして、
ヒィ!振り返った陛下の凶悪な顔に思わず悲鳴を上げそうになる。
「ごめんなさいねナディア。私達もハイドンに急遽行く事になって、その、陛下の機嫌が、ね…」
何だ、良かった。てっきり私が海に落ちて大迷惑と思ったから不機嫌なのかと思ったわ。
…陛下はそんなに行きたくないのね。