14話
「でしたらこのクーデターを起こしたのは元老院と言う事ですね」
「あっちにしてみれば俺達の方が起こしたと思っているかもな。元々王家と元老院は拮抗していたから」
なるほど。
もしかしたら私は元老院側から見たらクーデターに手を貸した人になっているかも…
⁈
あら?私更に危険ではなくて⁈
バッと見るとニヤリと笑ったディラン殿下と目が合った。
「気がついた様だな」
私他国のクーデターにどっぷりハマってない?
再び国境付近へ向かい出発をするも今度は大分スピードを落としてくれた。
それでも普通の馬より断然速いのだけれど、キャシーは私的には馬ではないので仕方ない。
日も暮れかかった頃漸く国境の村にたどり着いた。
ただいきなり村には入らず近くにキャシーを残し2人でこっそり村に入る
大雑把な癖に妙に用心深い。
このハイドン村は街道から少し逸れてはいるもののフォリッチとの交易も行われていた様で村と言うより町と言っていい位の規模だった。
だけど町、と言うより町だった名残がある所。と言う有り様だ。
「俺達はここに来るまで小さな諍いだと聞いていたんだ。所が来てみたらこんな有り様だった」
ひどい…
多分メチャクチャに壊された後火を放ったのだろう。石の建物は崩れ木の建物は炭になっていた。
「生き延びた者達は近隣のテアドール村に避難しているが、そっちには魔物が出た」
何て事に…
「俺達は隊を二分して復興する者はハイドンに、逃げ延びた者達の保護と救護にあたった者はテアドール村にいたんだが…」
歩きながら話していると天幕が見えてきた。
離れた所から様子を見ているがまだ夜になったばかりなのに静か過ぎる。
ディラン殿下を見ると同じ事を思ったようで眼光鋭くなっている。
「ここで少し待っていてくれ」
瓦礫の隙間に私を座らせ行ってしまった。
それにしても交易もあった村を何故ここまで破壊したのかしら?
フォリッチは私の記憶では農業が盛んで風光明媚な観光地があった国だったけど、所詮30年以上前の情報だ。
今は違うのかも知れない。
ふと見上げると星が瞬き始めていた。
あぁ温泉に入りたい。
湯船で手足を伸ばして
王宮の外風呂を思い出しそう思った。
決して岩場からチョロチョロの方ではない。
暫くしてディラン殿下が戻ってきた。
「ナディア待たせた。ついてきてくれ」
少し急足でついて行き天幕へ案内される。
「新しい婚約者のナディアだ」
中にいた人達からおぉと感嘆する声が上がった
「初めまして。ナディア・ド・マイヤーズと申します。シャナル王国から参りました」
カーテシーをするが頭には相変わらず綿帽子、服は部屋着の上に一枚羽織っているだけの格好で全く締まりがない。
「ディラン隊長、また懲りずに婚約されたんスね」
天幕に人は3人しかいなかったがその内の1番若そうな人が言った
「こら。ヒューズ。言葉遣い」
年嵩の隊員に窘められ言い直す
「あ、スンマセン。ディラン隊長、再び懲りもせずご婚約なされたんですね」
「ヒューズ…この野郎、言葉遣いが変わっただけだ。言ってる内容は一緒だ」
途端にディラン殿下の言葉遣いが崩れ、笑いが起こる。
仲が良さそうね。
微笑ましく見ていると先程ヒューズと言う若者の言葉遣いを注意していた少し年嵩の男性が
「エランと申します。以後お見知りおきを」
挨拶をしてくれたので私も返す
「こちらこそよろしくお願いしますね」
「私はブルーノです。よろしく」
「オイラヒューズ。よろしくな」
年の順に挨拶をしてくれたようだ。
ただ3人共貴族らしさは全く感じない。
普通皇太子殿下の直接部隊なら貴族が固めていそうなのに
「ねぇナディア様。年いくつなの?オイラ13才。最近この部隊にはいれたんだ」
「まぁそうなのですね。私は17才よ。年も近いから色々と教えて下さいね」
親しげな子だ。
弟がいたらこんな感じかしら?可愛いな
私とヒューズがその場で他愛もない会話をしていると大人3人は難しい顔をして何やら話をしていた。
「何かさテアドール村に避難させていたのに急にバタバタ人が倒れてさ。で、こっちも空ける訳に行かないから俺ら3人だけで待機だったんだよ」
倒れた?魔物でなくて?
「仕方なく3人で瓦礫どかしたりしてたけど全然進まねーの」
「どうして倒れたの?村人だけでなく隊員も?」
「そう。隊員も半分近く寝込んでる。何か井戸の水どうのって言ってたから」
「井戸に毒だと?」
あちらで喋っていたはずのディラン殿下の声が聞こえた
「ほらな。オイラ入ったばかりだから何も教えてもらえないんだ」
「それは入ったばかりだからとかでは無く、みんな混乱していてじゃないかしら?人が亡くなったりとかはしていないの?」
混乱していて情報が伝わらないなんてよくある事だ
「人が亡くなったりはしていないよ。寝込んでるだけ。それにしても混乱しててもちゃんと教えてくれてもいいのに…」
ヒューズはブツブツ言っていたが、私はあちら側の話に興味津々だ。
ハイドン村を焼き払って大隊が来てからテアドール村の井戸に毒ってそれじゃあまるで…
「では明朝全員でテアドールへ出発するぞ」
ディラン殿下の声が響いた
私達はその後皆んなで食事をした。
食事と言っても野営食なのだけど、美食隊はいないのでごく普通の野営食。
けれどどれもシャナルの野営食と比べたら格段に美味しい。
シャナルのアレは間違いなく予算アップの為の虚偽報告に違いない。
食事を済ませた後は幾つか残してあった天幕の一つをあてがわれた。
とは言っても離れた所では危険なのですぐ横に殿下の天幕、反対隣は3人の天幕だったりする。
湯を沸かしタライに溜めてもらい入浴をする。
あぁ温泉に入りたい。湯船で手足を伸ばしたい。
もう私は温泉を知る前の自分に戻れない事を実感した。
タオルで身体を拭き、髪も石鹸は無いけれど湯で流しただけでもちょっとは汚れとか髪に付いてしまった藪とかが落とせるに違いない。
他の隊員が残していった荷物の中に私にも着れそうなサイズを探してきてくれたのでそれに着替える。
が、難しい。
私は自分でボタンを留めた事が無い。
いつも侍女達がやってくれていた。
ボタンを摘み服の穴に通すだけなのに。
悪戦苦闘とはこの事ね…
バスバスッ
何の音⁈
「ナディア今入って大丈夫か?」
何だディラン殿下だったのね。
と言う事は今の音はノック?
「はい。大丈夫です」
「ちょっと話が…って何だ!全然大丈夫じゃないじゃないか」
ボタンはちゃんと留めてありますわよ。
「髪がびしょ濡れじゃないか!」
お母様か口うるさい侍女の様…
「ちゃんと拭きましたわ」
多分拭けているはず
「何故ちゃんと乾かさ…あ。」
そうです。
魔法を使えない者は髪をタオルで拭くしかないのです。
睨んでみたら
「悪かった。今やってやる」
フワリと温かい風が私の髪を揺らしたと思った瞬間、髪は乾いて私の肩や背中に戻った。
やっぱり凄いわ魔法って。
「ありがとうございます」
「シャナルではどうしていたんだ?」
「侍女達が柔らかいタオルで拭いてくれましたよ」
「それだけか?」
「舞踏会等で時間が無い時だけ魔石を利用して温かい風を当ててとかはありましたが、高価な為公爵家でも滅多に使えなかったですね」
魔石とは魔力が込められた石の事で、念じて使う事で火を起こしたり水を出したり出来るけれど物凄く高い。
どのくらい高いかと言うと手のひらサイズの石一つで王都にちょっとした屋敷が建つ位。
市民は勿論普通の貴族でも中々お目にかかれない代物だったりする。しかも使い方によっては10年保たない。
ちょっとしたステータスだ。
公爵家でも大切な時にちょっと使うだけだった。
「不便ではないのか?」
「特に感じた事は無かったですよ。始めから無いと何とかなるものです。冬は少し頭が寒いですけど、暖炉の側で侍女とお喋りしながら髪を拭いてもらう時間も楽しいものでした」
「…そうゆうものか」
「そうゆうものです」
嘘です。
見栄を張りました。
魔法を知ってしまった今、暖炉の側でお喋りしながら髪を拭いて貰うより、髪を乾かしてからソファに座ってお茶を飲みながらお喋りする方が断然良いと思う。
良いとは思っても、この生活が続いても、きっと私はたまには暖炉の側で髪を拭いて欲しいと思う様な気もする。
ただの感傷かも知れないけれど。
「所で何かご用があったのでは?」
「ああ、そうだった」
ディラン殿下は私のズボンの裾を折りだした。
だから、お母様か口うるさい侍女!
ちょっと長いのが気になっただけですよね?決してわたしの脚が短い訳では無いですからね?
裾を折りながら
「明日朝5人全員で隣村へ向かう事になった。聞こえたかもしれないが一応報告に」
「あ、」
忘れていた