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流されて帝国  作者: ギョラニスト
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148話


 昼からお風呂に入り、今は侍女達にマッサージを施されている。あぁなんて気持ちが良いのでしょう。


 香油も今まで嗅いだ事の無い花の香りかしら?新鮮だわ。


 今日はこの後、近隣貴族が集まる晩餐会があるのでその準備中だ。


 殿下とはあの後それぞれの部屋に案内され、それ以来会っていない。良かったわ。あのまま一緒にいたら延々とお茶を淹れさせられていたに違いない。


 そして私はドレナバルに来てからの怒涛の毎日を知った王妃様の計らいで、2日間たっぷりと休んでいた。ちなみにぷっぷちゃんは全く目を覚まさず、籠の中ですやすやと眠っている。


「はぁ〜〜〜〜っ」


 これで温泉に入る事ができたら言う事は何もないのだけれど、贅沢を言ったらバチが当たるわね。


 誰かに追われたり、逃げたり、担がれたり、野宿したり、川に流されたり、パン焼きを手伝う事もない。


 シャナルで当たり前の様に享受していた生活をこんなにありがたく感じるなんて、私も大人になったわ。


 そう。


 シャナルにいる両親にもやっと手紙を書く事ができた。


 この辺りはまだ落ち着いているので、南方経由で遠回りになるが届けてくれるらしい。


 手紙の内容は当たり障りの無い事を書いてみる。


 とりあえずディラン殿下は『男らしい方』と言う風に書いてみた。モノは言い様よね?


 クーデターの事なんてもちろん書かなかった。いずれお父様の耳に入るだろうけれど、シャナルにその情報が入るのはきっと30年後でしょう。クーデターの事を知ったらお父様はシャナルの国王の首を取りに行ってしまうかもしれない。


 あと、ぷっぷちゃんについても触れなかった。万が一聖獣だったらお父様達も無事では済まないかも知れないし。


 結局婚約が無事整った事と、雪深過ぎて手紙が届くのがかなり遅れてしまうかもしれないとか、今は訳あって王都にはいないから再び私からの手紙が届くまで返事はいらないとか嘘ばかり並べる事になってしまった。仕方ないわよね


「ナディア様、本日の髪色はいかがなさいますか?」


メイドの1人が話しかけてきた


「髪色?」


「ええ。この地方ではちょっとした晩餐会でもカラフルな装いをするのが慣例なので」


 慣例と言われてしまっては嫌とも言えない


「そうなのね。よくわからないからお任せするわ」


 よそ者がとやかく言うより、この地に住む人にお任せした方が良いに決まっている。


「そうですね…ドレスにも合わせた方が良いのでまずはドレスから決めて髪色はそれからにしましょう。みんなナディア様のサイズに合うドレスをお持ちして」


 私に着替えなんて当然ないので、この城のフォールダー辺境伯のお嬢様、シエナ嬢の服を借りていた。ドレスも借りる手筈になっている。


けど…


「この中から…選ぶのかしら?」


「ええ。どれもシエナお嬢様の物ですが、最新の物でございます」


 真っ赤なドレスに胸元がガッツリ開いていたり、黒の生地に沢山の宝石があしらわれてギラギラしているドレスだったり…


「ええと…もう少し地味なドレスはないかしら?」


「ナディア様はお顔がシンプルなのでこれくらいの方が見栄えがよろしいかと」


 私の顔を地味だと言いたいのかしら?あら?


「あれも…ドレスなのかしら?」


 色は濃いベージュに…シミ?柄かしら?点々とまだら模様が入っていて袖と腰元には毛皮があしらわれている。


「まぁ!ナディア様お目が高くていらっしゃるわ!これは今年大流行りの豹柄ドレスでございます!」


豹柄?って何かしら?


「ナディア様はこれをお召しになりたいのですね!少々地味でございますが、ナディア様にはお似合いになります。でしたら髪色は紫にしましょう!」


ハッキリ私の事を地味だと言いだしたわ。


「え?いえ、気に入った訳ではなく…あの…」


「まずはコルセットを締めましょう!あのドレスは少々細身なので」


「カ、カハッ…」


 グエェ…し、死んでしまう。いきなり締め上げられ息ができない!


「まっ、待っ…」


「さぁナディア様、もっと息を吐いて下さい」


 な、なんて力持ちなの…なけなしの身体に残っていた空気を吐き出させられ呼吸すらままならない。


「コルセットはこんなモノですね。さぁお足元に気をつけてドレスに足を入れてください」


 違うわ。私はこんな変な柄のドレスが着たい訳ではないのよ!そう言いたいけれどもう声を張る事もできない。囁く様に言っても聞こえてないらしい。


 ズボっと下からドレスを身に纏わされ姿見をみると飾ってあるより珍妙な、胸元は動物の顔をあしらったドレスを着た私がいた


「んま〜!ナディア様!!とても良いですわ。さぁさぁさぁ!次はお髪を整えましょう」


 鏡台の前に座らされ髪の毛にアイロンをあてクルクル巻いていく。呼吸もままならない私は嫌だと反論も許されずされるがままになっていたら、細かいクルクル巻きの頭に、下の方は縦ロールという見た事も聞いた事もない頭になっていた。しかも紫色。


「お化粧は、そうですね…ドレスに負けない様に雌豹風にしましょう!」


 真剣な眼差しで鏡越しに私を見つめたあとメイドは言った。


 雌豹風って何!?またも囁く様にしか言えなかった私は見事な雌豹風メイクを、目にはガッツリアイラインを入れ、つけまつげはバサバサと音がしそうなほどつけられ、真っ赤な口紅。


 これ本当に流行っているの?嫌がらせではないかしら?


 とそこに扉がノックされ殿下が迎えに来たとメイドの1人が言いに来た。もう!?


「ささっ、このドレスにはこの金色のハイヒールさがお似合いですよ」


 有無も言わさず金色のハイヒールを履かされ、殿下の前に連れだされた。


 そこには普段ボサボサの頭は綺麗に整え、髭もなく軍服でも無いタキシードに身を包んだ殿下がいた。あら、キチンとしたらちゃんと皇太子に見えるわ


「…」

「…」


 何か言って欲しい。そんなドレスもメイクもやめろとか…


「んまぁ〜〜殿下は言葉を失う程見惚れていらっしゃるわ」


 横からメイドさんがそう言ってグイグイ押してくる


「さぁ、行ってらっしゃいませ」


 押し出される様に送り出され、殿下の腕にほぼぶら下がるよう歩き出す。久しぶりのハイヒールは足の安定が悪い


「…お前…もしやナディアか?」


「ナディアでございます」


殿下はピタリと足を止めマジマジと私を見る


「…」

「何かおっしゃってください」


 相変わらず囁く様にしか喋れない


「その、お前の…趣味なのか?…そのドレス」


「本気でその様にお思いに?」


 思わずギロリと睨んでしまった


「いや、違うなら…良かった。うん」


 何かを納得させるように頷く殿下に


「私も誤解が解けて良かったです」


 そんな風に思われたら、この靴の踵で踏んづけてそのまま婚約破棄しようかと思いましたわ。


「…まぁ素顔が割れないと言う意味では、良いかもしれないな」


 確かにクーデター最中のこの国で、私の顔が知られないのは良い事だけど、もう少し他の慰めはなかったのかしら?


 そんな会話をしていたら広間の扉の前に到着した。兵士に扉を開けてもらい中に入ると一瞬の静寂の後、会場内が騒ついた。


 まぁわかってはいたけれどね。こんな反応になるわよね。でもいいわ。この王宮内に温泉も無さそうだから2度と来る事もないでしょう。


 そう考えれば気も楽だわ。


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