147話
私達は星が出る頃に部屋に戻る事にした。もっと見ていたかったけれど、気温がそれを許さない。
「寒いな…」
「ええ…」
この地域特有なのか雪こそ降らないけど、とにかく風が強く歯の根が合わないくらい寒い。身体が芯から冷える前に急いで部屋に戻る事にした
「ナディアは…いつも冬は寒いのか?」
おかしな質問をしてきたわね?
「当たり前じゃないですか。冬なんですから。ディラン殿下はこんなに寒いのは初めてですか?」
「あぁ。身を持って知ったよ。物凄く魔力に助けられていたな」
魔力を失った殿下にとってこの寒さは堪えるのでしょうね。気づかない内に自動で快適に過ごせるよう魔力が発動する生活を、もの心つく頃から過ごしてきたのですもの。
気の毒と思う反面、少〜〜しだけざまぁ見ろと言う気持ちを持っていたりする。
全てを魔力で補っているから快適な毎日を送れているんだと思い知れば、魔力の無い人が今どのような状態なのかわかってくれるわよね?
この先殿下の魔力が戻るのかわからないけれど、万が一戻らなかった時の生活を教えてあげても良くってよ。なんて言ってみようかと思いながら、私の部屋にたどり着いた。
部屋の中は暖炉で温められておりホッと息をつくと殿下は
「先程淹れてくれた茶と、同じ淹れ方でやってくれないか?」
「先程と同じ様にですか?」
「あぁ。以前テオドールの村長との交渉時に淹れてくれたのと少し違うと思って」
…まさか違いが判るの?
「どうぞ」
小心者の私は言われた通り先程と同じ淹れ方で、ティーポットの中をぐるぐる3割増しでかき混ぜたお茶を殿下の前に置いた。
「ありがとう」
そう言って優雅にお茶を口にした後、目を閉じて深呼吸をする殿下。
何?何かの儀式?カッと目を開き手の平を見た後
「やっぱりな…」
「何ですか?先程と同じ淹れ方で普段と同じ茶葉ですよ」
毒やら気付け薬的な物は何も入れてませんよ
「魔力が少し戻っている」
「え?」
「先程もナディアの淹れた茶を飲んだ時、左手の人差し指の先っちょに魔力が戻った感覚がしたんだ」
「人差し指の先っちょ?」
殿下はいきなりガバリと立ち上がり私に左手を掲げてみせた。
「この爪の辺りに魔力がだな!戻ったんだ!」
そんな事を言われても私には魔力なんて見えないのですが
「いいか?見てろよ」
言うなり殿下は暖炉に人差し指を向けた。
ボボッ
「ほら!見ただろ!暖炉の火が大きくなっただろ!?」
…微妙に火が大きくなったような?
「よしナディア!ジャンジャン茶を入れろ!」
ええぇ!?私疲れてますのに。
仕方なく嫌々お茶を淹れている間、殿下はカップに残っていたお茶をゴクゴクと飲み出した。
何だかズルい気がするわ。疲れた私はお茶を淹れて、そのお茶が殿下の魔力回復のためだなんて理不尽じゃない?
腹立ちついでに5割増しでかき混ぜ、最後にティーポットごとぐるぐる回してみた。
渋くエグ味のあるお茶を堪能してもらおうじゃないの。そう思っていたのに結果殿下は人差し指の他右手の小指の魔力が回復したと喜ばせるハメになった。
そもそも魔力ってじんわり身体の中とかに溜まっていくモノじゃないの?
人差し指だけ魔力がいっぱいになった所でたかが知れていると思っていたら、殿下がもう一度暖炉に人差し指を向けた瞬間
ドーン
暖炉の中が爆発した
「キャー!!」
「あれ?」
「「何事ですか!?」」
扉の前で控えていた兵士が駆け込んできた。殿下が必死に
「いや、ちょっとした手違いで…」
「賊はどこだー!!」
「お二人はこちらに!おい!応援呼んでこい!」
あっという間に兵士がなだれ込んできて、部屋の中がパニックになってしまい、殿下の声はかき消されてしまった。
もしかして殿下も思いがけない威力だったのかしら?それにしても一日に二回も火事騒動があって、二回共殿下が原因なんて…
もしかして殿下はポンコツな上にトラブルメーカーではないかしら?
「おい!こっちだ!今度はナディア様の部屋から出火だ!」
「一体どうなっているんだ!一日に二回も火事なんて」
どうしましょう。
当たり前だけど大事になっている。
「リシャール様をお連れしました!」
「嫌だー!これ以上魔法なんて使えないー!誰か助けてくれーー」
兵士2人に両手両足を抱えられリシャールさんが部屋に突入させられていた。
チラリと殿下を見ると気まずそうに目を逸らされた。
自覚はおありですのね。