143話
隣の部屋に行って良いのか分からない以上浴室から出るのも憚られる。
仕方ないので簡易椅子に座ってお茶をいただいていると扉をノックされた。
もしかして内緒話は終わったのかしら?メイドの1人が扉に近づき何やら話した後
「ナディア様、こちらにどうぞ」
連れて行かれたのは陛下達に宛がわれた続きの客間ではなく、部屋から出た別室。
扉の横には二人ずつ兵士が立っている。私を連れてきたメイドはここまでだったらしく、兵士の一人と扉を潜ると
「みんな無事だったのね。良かったわ」
そこはサロンのようでテーブルがあり、リシャールさん、ショーンさん、ヒューズ君が座っていた。安堵のため息と共に言うと
「ナディアちゃ〜ん。良かったよ。いきなりいなくなったって大騒ぎになったってさぁ。心配したよ。でもさ、ラッサとセラがとりあえずフォールダー領に飛べってヒドくない?それなのにやっとの思いでここまで来たのに火事何とかしろって言われて散々だったよ」
リシャールさんは相変わらず目の下の隈が凄く、お疲れの様なのに愚痴が止まらないらしい。
「リシャールさん、ご心配おかけしました。ありがとうございます。リシャールさんが来てくださったお陰でこうして皆んな無事に済みました」
「いやぁそんな褒められると照れるよね」
そんなリシャールさんを冷たい目で見ながらショーンさんが
「ナディア様ご無事で何よりです。お一人ですか?」
「ええ。陛下と殿下が言い争いになって、王妃様の配慮で別室でお風呂いただいてたの。ショーンさんもヒューズ君も本当に良かったわ。ショーンさんの魔道具でピンチを切り抜けたの。本当にありがとう」
「い、いえ、それなら良かったです」
「それでナディア様軍服でもメイド服でもないんだ。あんま似合わないよね」
「何て事言うんだ」とショーンさんに殴られたヒューズ君
「いいんです、ショーンさん。自分でもあまり選ばない服なので…」
軍服やメイド服に比べたらマシだけれど、襟や袖口、裾にもフリルとリボン。グラデーションになっているけれどどの色もピンクで派手よね、とそこに扉がノックされ食事が運ばれてきた。
そう言えば今朝寝起きに引っ越しの話が来て、挙句フォールダー領まで飛ばされて食事どころではなかったわね。
テーブルに並べられたのは見た事もなく、嗅いだ事もない香りの食事だった
「へぇ久しぶりだなぁ。シャクシューカ大好きなんだよね〜」
嬉々と喋るリシャールさん。シャクシューカ?他のお料理も大きなザリガニ?見た事もない貝?恐る恐る口にしてみると…
!!え?何コレ!美味しい!
どのお料理もシャナルやドレナバルの王宮とも違う味付けで、香辛料かしら?少し辛味があったり酸味があったり。
「ナディアちゃん海の幸は初めて?」
リシャールさんにそう尋ねられた
「海の幸?」
「そう。この辺りは海が近いから食材も味付けも独特なんだけど、美味しいんだよねぇ」
「はい。とても」
なるほど。これは海で獲れた食材なのね。海の幸!なんて素晴らしいのでしょう。
私同様ショーンさんもヒューズ君も最初は戸惑っていたけれど、最後の方は無言でガツガツ食べていた。
食後のお茶をいただいていると再びノックの音がし、セルゲイさんを先頭に陛下と王妃様、殿下にノアさん、オリビアさんと最後に顔に大きな傷がある盗賊の親玉みたいな人が現れた。
全員立ち上がり礼をするけれど、控え目に言っても怖い。
「皆、楽にすると良い」
陛下の一言で頭を上げると盗賊の親玉と目が合った。
何!?怖いけれど冷静さを装い、目を伏せてやり過ごそうとしているけれど、チラリチラリと何度見てもジィーっと私を見ている。
何?何故そんなに私を見るの?私は何かしたのかしら?
「これ、そんなに見たら、またディランが婚約者に逃げられるだろ」
陛下の言葉に
「あ、いや失礼した!懐かしいドレスだと思って」
懐かしそうに私(の服)を見る盗賊の親玉…もとい、あの人はきっとフォールダー辺境伯だわ。
「お、お初にお目にかかります。シャナル王国公爵クロード・ド・マイヤーズの娘、ナディア・ド・マイヤーズと申し…」
「あぁよいよい。コイツにそんな挨拶は必要ない。もうわかっていると思うが、フォールダー辺境伯のアドルフ・フォールダーじゃ」
陛下に紹介されるや否やドスドスと歩いて僅か5歩で私の前に立ちはだかり手を取り
「初めまして。アドルフ・フォールダーだ」
痛い痛い!そこは跪き手の甲にキスではないの!?強く手を握りしめブンブン上下に振る辺境伯。
これは握手?拷問の一種?手が握り潰されるか肩が外れるのが先か…
「だからやめろ!お前の力ではナディアが負傷する」
陛下…ありがとうございます
「や、これはスマン事をした。大丈夫かな?」
全然大丈夫じゃありませんけど!でも私は貴族令嬢、ここは冷静に
「ええ。大丈夫ですわ。どうぞよろしくお願いします」
「流石ディラン殿下と一緒におられる程の魔力をお持ちなだけある!素晴らしい!」
ガハハと笑う辺境伯。一通り挨拶を済ませそれぞれ席に着きお茶を頂く。
先程と違うのは私以外皆席を立ち壁沿いに立って、席には陛下、王妃様、殿下、辺境伯が座っている。
どうやらここは貴人専用のサロンらしい。
そんな所で食事をしてしまったと言わんばかりの表情でヒューズ君は震えていた
可哀想に