142話
私は今お風呂に入っている。
ここは王妃様のお部屋の一角にあるバスルームで温泉ではなく普通のバスタブだけれど。
オリビアさんが呼んでくれためいど達によって髪や身体を洗ってもらい、まるで貴族令嬢の様だわとウッカリ思いそうになった。
違うわ!私はれっきとした公爵令嬢よ。あぶないあぶない…おかしな生活が続いたせいで身も心も兵士になるところだった。
ちなみにぷっぷちゃんは脱いだ服の中に隠した。服を自分で脱ぐからと言った時驚かれたけれど、オホホと笑って誤魔化した。普通の人が見たらきっとビックリしちゃうからね。寝ていてくれて助かったわ。
「キャーー!」
何!?
「何事ですか?大声で」
側で控えていたオリビアさんが飛び込んできた
「お、お、大きなトカゲが…」
服を片付けに来たメイドだろうか?しまったわ。最近は脱いだ服は自分で片付けるクセがついてしまっていた
「あの、その子は…」
「何かあったか!?」
バーンと扉を開け殿下が飛び込んできた
「キャーーー」
信じられない!バスタブから上半身を乗り出してぷっぷちゃんの言い訳しようとしていた私は、慌ててザブンと湯船に沈み身体を隠した。
「って!ウワッ」
殿下は急いで背を向けたけれど見ましたわよね?目が合いましたわよ
「殿下!!」
オリビアさんの雷の様な一言に
「いや、今悲鳴が………すまなかった」
すごすごと出て行こうとする殿下に声をあげた。湯船から顔だけ出して
「ディラン殿下、お待ち下さい」
周りがギョっとしているけれど仕方ない
「ぷっぷちゃんをしばらく預かって頂けませんか?」
顔だけ出し言ってみる。この場でぷっぷちゃんを知っているのは殿下だけだわ。
「あ、あぁわかった」
耳を赤くした殿下はメイドに話しかけ、籠に入ったぷっぷちゃんごと抱えて去っていった。もちろん私にずっと背を向けたまま。
するとオリビアさんが
「ナディア様、凄いですね。この短期間で殿下を顎でお使いになられるとは」
ええぇ!?
「あっ、あのっ、違うのです。顎で使った訳ではなく、ぷっぷちゃん…あのトカゲを知っているのは殿下だけでしたので、やむを得ず、やむを得ず、やむを得ずお願いしたのです!」
念の為3回繰り返し言ってみた。
「いえ、そうゆう意味ではなく、そうですね…この国ドレナバルでは男性を顎で使ってなんぼなのです。特にここフォールダー領では特に」
!?!?…なんぼって何?
顎で使った覚えはないけれど、もしかして良い事とか?
「私は怒っているのではありません。殿下とナディア様が大分打ち解けてくださった様でとても嬉しいのです」
ニッコリと笑ってオリビアさんは言った。と、そこへ王妃様が現れた。
「おっ、王妃様!?あのっ…」
オリビアさん始め侍女達が一斉に頭を下げた。
私は!?私はどうしたら良い?何故このバスルームは人の出入りが自由なの!?立ち上がり頭を下げるべき?いや、恥ずかし過ぎる。ならこのまま頭を下げる?…死んでしまうわ。
オロオロしていると
「ナディア、そのままでいいわ。ちょっと避難させてちょうだい」
避難?
「陛下とディランがヒートアップし始めて、今セルゲイが止めに入っているのだけど…」
ここは元々王妃様にあてがわれた部屋だもの。そこをお借りして入浴させてもらっているのは私の方だわ
「とんでもございません。すぐあがりますので…」
貴族令嬢だわなんて感傷に浸ってないでさっさと出ましょうと侍女達に目で合図を送ったら
「いいのよ。ゆっくり疲れを取りなさい。オリビアちょっと来て」
「はい、王妃様。あなた達、ナディア様のお疲れ様をちゃんと取って差し上げるのよ」
そう言ってオリビアさんは王妃様を連れバスルームから出て行ってしまったけれど、ごゆっくりと言われてそのままゆっくりできる程図太くはない。
「あの、もうあがります」
そう言って立ち上がろうとすると、肩を押され再びバスタブの中に沈められた。
「あのっ…」
「お気持ちはわからないでもないですが、ここはゆっくり入っていた方がよろしいかと」
何故?気の効かない娘だと思われたら嫌だわ
「多分王妃様とオリビアさんは内緒話がしたいのだと思われます」
!!そうなの?
だとしたらここで入浴していないとダメではないの。ややのぼせ気味ではあるけれど2人に内緒話を全うしていただかないと。
湯船に浸かりながら再び念入りに洗ってもらった後、香油で頭のてっぺんから足のつま先までマッサージをしてもらう。
シャナルでも週3〜4回はやってもらっていたし、ドレナバルに来てからも王宮にいる時にはやってもらえたマッサージ。
はぁ〜〜〜何て極楽なのでしょう。
これが普通のバスタブではなく温泉に入った後だったらと思うといてもたってもいられず
「ねぇ?ここフォールダー領に温泉はあるのかしら?」
私はズバリ一番聞きたい事を聞いた
「そうですね。沢山ございますよ。このミザール城にもございますし、城下町にもいくつかあります。ナディア様がお入りになりたいのであれば手配いたしますよ」
手配?と言う事は貸切で侍女付き?
「ミザール城はともかく、その、城下町の温泉にフラリと行ったりとかは…」
「ダメとは申しませんが…」
ダメではないけどお勧めしないと言う事かしら?
「城下町の温泉は色々な方がお入りになるのです。老若男女入り乱れていますので貴族の方は…」
え?老若…男女?
「この街では、その…男性と女性が一緒に入るのは普通な事なのかしら?」
「そうでございますね…あまりみなさんお気になさる性格ではございませんし、大抵の方はお互い目眩しの魔法などで適当に化けて入っておられる様です」
くぅ…魔法も必要なく、貸切にもしないで入る方法はないのかしら?
ショーンさんが作ってくれる魔道具では、ずっと握っていなければならないから不便よね。
私はとりあえずマッサージも終えて、フリルがこれでもかと飾られたピンクのワンピースに着替えさせられた。
あまり自分では選ばないだろう色と形だけれど、コルセットが必要なドレスよりはマシねと袖を通した。
それにしてもこのワンピースは誰のものかしら?
まさか王妃様…?