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流されて帝国  作者: ギョラニスト
14/206

13話

「しばらく考えさせて下さい」

「は?」


しまった。婚約しているのにウッカリ言葉に出てしまった。


「いえ、そうではなくて」


 とにかく私は一度頭を冷やしてよーく考えるべきだと思うのよ


 だって命が危険に晒されているのだし!


 かと言ってシャナルに帰るのも嫌だ。

マーシャル殿下やアイリスに笑顔で迎えられたら…腹立たしさしか感じない


 何よりどこの温泉にも巡っていない。


王宮の来賓用と外風呂(あれは良かったわ)、後は昨晩のチョロチョロと湯が流れ込んでいるだけの所に穴を掘って石で堰き止めた湯船。


 もっと行かなければ巡っているとは言い難い。

出来れば全ての温泉を堪能しこの目で見てみたい。


「殿下。私はドレナバルに嫁ぐつもりで参りました。何も知りませんでした等と申し上げるつもりもございません。本当に命を守っていただけるのですね?」


「約束しよう」


「では婚約は破棄も解消も致しません。結婚は…殿下のお立場が落ち着きましたら改めて考えましょう」


「そうだな。このまま俺が追い出されたら2人して路頭に迷うな。よし。では改めてよろしく」


「こちらこそ」


 2人してガッチリ握手した。


 普通婚約者同士で握手ってアリなのかしら?

まぁ生き延びるための契約だと思えば握手の方が妥当よね


「では、婚約者らしくこれから俺の事はディランと呼んでくれ。俺もこれから…名前何と言ったか…」


「ナディアデゴザイマス」


 本当にこの人は何と言うか、まさか私の名前すら覚えていなかったとは。

 私以上に結婚とかどうでもいいのでしょう。


「よし。ナディア改めてよろしく」


 ここに同盟が成立し婚約延長の締結がなされた。

ディランは自分の立場の為、私は私の命を守る為。あと温泉巡り


 私達は朝までそこで休み、日の出と共に出発する事となった。


 ラッサ大尉と合流するのかと思いきや先に大隊と合流しているハズだから、私達は国境へ向かう事になった。


大隊との接触は避けたい様だ。

スパイがいると言っていたし。




「ディラン殿下!何故この様な道なき道を?」


「街道には大隊がいるのだから当然だろ。それよりあまり喋るな。舌噛むぞ」


 私だってお喋りがしたい訳じゃない!

 ただこんな藪の中をキャシーと突き抜ける意味がわからない。


 街道沿いじゃなくたっていくらでも道はあるはずなのに。


 相変わらずの横座りで殿下にしがみついているけれど藪が私の顔にピシピシと当たる。


 頭には綿帽子があるから大丈夫だけど、キャシーは嫌じゃないのかしら?


 顔を上げキャシーを見ると鼻の穴を広げかなり張り切って走っていた。


 角と相まって恐ろしさを感じる。やっぱりバケモノ?と思った瞬間キャシーはブヒヒンと声を上げ更にスピードアップし始めた。


うわーキャシーゴメンなさい。あなたとっても賢くて良い子ですー。そう念じてみると更なる加速が待っていた


「お?キャシー今日はご機嫌だな、いいぞガンガン走るぞ」


ブヒヒーーン

ちょっと何て事言うの⁈

更に張り切っちゃってるじゃない。


いーやーー

再び声にならない叫びを上げる。


 暫くして白目になりかけの私が出来上がった頃キャシーは止まった。


「そろそろキャシーを休ませないとな」


だから、私の心配もしてってば!



 キャシーが草を食べたりしている間私達も身体を休ませる。

 同じ姿勢で暴走するキャシーに乗っていたので身体がギシギシする。


 立ち上がり伸びをしていたら殿下が何かを手に戻ってきた。


「お、大分顔色が良くなってきたな。魔力が無いと馬にも酔うんだな。コレなら食べれそうか?」


アレは絶対馬ではないわ。

そして私は馬酔いをした訳でも決してない。


でも殿下は食料を調達してくれたらしい。

いい人なのかも


「ほら。ミールの実は食べた事あるか?皮を剥いて食べるんだ」


 手渡されたミールの実は見た事もない紫と黄色の縞模様の毒々しい実だった。

コレ食べれるの?


横を見ると器用に皮を剥き中に齧りついている。

とても一国の皇子には見えないのよね。


私も真似をして皮を剥き齧りついてみた。

こんな食べ方をしたのは生まれて初めてだ。


「甘い。美味しい」


「だろ」


ニッカリ笑う殿下と目が合う


やっぱりいい人かも


 それからしばらく私達はミールの実と他にも取ってきてくれた木の実を食べてお腹を満たした。




「あの。契約魔法の事なのですが」


ちょっと疑問だった事をきいてみる


「うん?何だ?」


「契約魔法とは婚約する前に色々と事情を話したら婚約は成立しないと言う魔法なのですよね?」


「まぁそうだな」


「それはもしかしてディラン殿下の魔力が強すぎるから作られたと言うかできた魔法なのですか?」


「そう…だな」


「その人がクーデターを?」


すると殿下はニコリと笑い


「流石シャナルで王妃教育を受けただけある。普通貴族子女はそこまで考えないからな」


「そうですか?」


 王妃教育の時、政敵になりうる者達には細心の注意を払えと言われてきた。


そのせいだろうか?


「ドレナバルはただの王国だった頃はドレナバル家が実権を握り国を治めていたんだ。

300年位前の話だが。

国が大きくなり出して目が行き届かなくなったんだろうな。


 ドレナバル家の縁戚に当たる者達が手を組んだ事に気付かなかったらしい。気がつけば元老院と言う組織が出来てドレナバル家との力関係が逆転した」


「え?ではドレナバルはずっと元老院の方達が政を?」


「いや、その時々の陛下の裁量で変わったり戻ったりだった。元老院は御しやすい陛下の方が都合が良かった」


 そこに馬鹿みたいに強い魔力を持ったディラン殿下が現れた。


元老院にとってこんな都合の悪い話はないわね。

御しやすさと対極だ。

でも


「こんな事態になる前に元老院はディラン殿下を扱い易く教育をしようと思わなかったのですかね?」


「ハハハッ。お前はどっちの味方なんだ」


「え?もちろん殿下ですよ。ただその方が手っ取り早い…あっ!」


 殿下は魔力が強すぎて誰も側にいる事ができない程だった。だから教育も出来なかった。


「そう言う事だ。

小さい頃主に俺の世話をしてくれたのは母の遠い親戚のリシャールと言う魔法使いだったんだが、変わり者でな。

 本人も魔力が強すぎてどこぞの魔女に育てられたと言っていたせいか父にも元老院にも靡かない、権力とかどうでもいいと言う人物だった」


 だから殿下みたいなのが出来上がったのね。


「お前、今失敬な事考えただろ」


「イイエ。トンデモゴザイマセン」


 そのリシャールと言う人物は殿下のミルクをあげたりオムツを替えたりと最低限の世話はするものの危険がなければほぼ放置だったらしい。


 そんなリシャールでさえ24時間一緒にいる事は難しく日中は魔力が強い侍女が2時間交代で世話をすると言う状態だったそうだ。


 その為魔力が強すぎると自分より魔力の弱い人の心が読めてしまうと言う事にリシャール以外誰も気付かなかった。


 元老院側がそれを知った時にはもうこの殿下が出来上がっていて教育は不可能と言う事になり、新しい皇太子を立てた方が楽だと判断したのね。


 元々ドレナバルの皇太子なる者婚約者がいるか結婚しているもの。

 と言う法律にディラン殿下は魔力強すぎて具合悪くなりますよ、心も読んじゃいますよと言ってから婚約する事が出来なくしよう。と


 婚約破棄、解消が繰り返されればされる程次を見つけるのも難しくなる。


 その間にこの皇太子は結婚とか無理そうだから、側妃の息子でも皇太子になれる様法律を変えましょうと言うのが事の顛末らしい。



 まどろっこしいけれど的確かもしれない。


殿下には迂闊に近寄れない。


それなら外堀から埋めた方が確実だもの。




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