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流されて帝国  作者: ギョラニスト
139/205

138話


 私達は夕日に向かい壁沿いに歩く。


 牢はお城らしき建物とは別の建物の半地下にあり、人通りはほとんど無い。


 普通お城の裏手には洗濯物の干し場があったり、料理人が魚や肉を捌いていたりしそうだけれど…たまにならず者風兵士達が大手を振って歩いている位で私達は誰にも見つからずお城の裏口らしき所に辿り着いた。


「殿下暗くなってから侵入した方が良くないですか?」


 ショーンさんがもっともな事を言った。殿下が殿下であると信じてもらえず、忍び込むしか方法がないのは分かるけれど、こっそり入るなら日が暮れてからの方が良いに決まっている


「何を言っている。俺達が侵入したいのはここじゃないぞ」


 え?私達はどこを目指しているの?


「この建物は後門に当たる所だ。」


 うん?城壁入ってすぐ後門があるの?ここはフォールダー辺境伯のお城ではない?更に歩くと再びいかつい建物が目に入った。


「ちなみにあの建物は兵舎だ。間違っても入ろうとするなよ」


 こっそり進みながら殿下が解説してくれる


「殿下、お詳しいのですね」


「昔一度来たからな」


 驚いたわ。

 ほとんど王城から出なかったとおっしゃっていたから、てっきり自室で引きこもっていたのだと思っていた。


 日は更に傾き辺りが薄暗くなり始めた頃、開けた場所と奥に金蘭豪華な建物が目に入った。


「あっちが王城だ」


 言われなくてもわかりますわ。壁は白く塗られ光り輝き、屋根はオレンジ色で至る所に沢山の金で装飾され夕暮れ時なのに眩いばかりだわ。


「ド派手ですね」


ショーンさんがボソッと言った


「ここいら辺の民族は派手好きだからな。資源豊富な鉱山もあるし、大きな港もあって他国との貿易も我が国一番、大陸でも三本の指に入る」


 何故そんな豊かな場所がドレナバルに吸収されたのかしら?民族と言っていたけれど、物凄くひ弱な民族なのかもしれない。


 だとしたら先程のならず者風兵士達は雇われた傭兵辺りかしら?コンラッドさんがこの場にいたら教えてくれそうな気がするのに。あ、でもコンラッドさんがいると傭兵達にすぐバレてしまうわね。私の妄想が変な方向へ広がっている内に正しい?王城に辿り着いた。


「ここからなら行けるか…」


 言うや否や再び細長いピンで鍵を開けだした。もうこの殿下の事を深く考えるのはやめよう。普通の基準で考えたらいけない気がする。


カチッ 


 鍵が開いたようだわ。最初に入るのはヒューズ君。誰もいなかった様で指先で私達を呼び、一人ずつ入っていく。


 ド、ドキドキするわ。こんな泥棒みたいな真似…

私のドキドキとは裏腹に、中はリネン室の様で人の気配は無く沢山の棚にはタオルやシーツがみっしり置かれていた。


「ここから先は着替えて先に進もう」


 言いながら殿下は別の通路へ向かい、お仕着せのある棚の前に立った。だから何故こんな場所を知っているのか…いけない。殿下の事を深く考えないと決めたばかりなのに。


 物陰に隠れメイドの服に着替える。私の着替えも中々板についてしまった。


「準備はいいか?」


 ショーンさんとヒューズ君は下男の衣装を身につけた。


 そして殿下は何故庭師風?ウッカリ口にだしてしまうと


「俺が人に仕える人間に見えるか?」


「だからと言って日も暮れた時間帯に庭師は城内を闊歩したりしません!」


 言い返すと殿下はしばらく黙り込み


「ならば何を着たら良いのだ!?」


いきなりキレてしまった。


「給仕や従者には見えませんので、一般兵辺りが妥当ではないでしょうか」


 髪も髭もはやし放題の強面給仕や従者なんて私はごめんですわよ。


 急いで殿下の衣装を手分けして探すも


「全然無いですよー」


 ヒューズ君が言った。


 そのままの制服姿で良いのでは?と言った所、ドレナバルの制服は黒い制服なのに対してフォールダー辺境伯領の制服は形は一緒だけれど、黒に近いグレーだからと却下された


「そもそも隊服って兵舎にあるんじゃないですか?」


おお〜 


 ショーンさんの一言に3人は感嘆の声を上げる。このチームの頭脳はショーンさんで決まりね。このメンバーなら私かしら?と思っていたけれど仕方ないので譲りましょう


「では俺は何になればいいんだ」


 う〜ん…殿下ってお城にいる人にはとても見えないのよね。出入りの商人も違うし、宮廷画家や音楽家は更に違う。


 やっぱり盗賊とか山賊かしら?


「コックでいいじゃん。ラッサ大尉だってたまに着てるんだから」


なんと、ヒューズ君良い事を言うではないの。ラッサ大尉と殿下では大違いだけど


「クッ…ラッサの真似をする様で嫌だが仕方ない」


嫌そうに着替えだした殿下。


 一体何を悔しがっているのかわからないけれど、兎に角早く陛下達にお会いしたい。こんな泥棒のようにコソコソ逃げまわるなんて私の人生計画に全くないのです。


 それにしても夕暮れの王城内にコックは歩いているものなのかしら?上の階に進むと案の定話しかけられた


「おい、そこのコック」


「何…でしょう?」


 私達は殿下と無関係を装い先に進む。


「丁度良かった。エレアナ様がデザートの食べ方がわからないと言い出して困ってるんだ。中に入って説明してくれ」


 この人はそのエレアナ様の従者かしら?従者もわからない食べ方のデザートって一体何?


「あぁ、そこのメイド、お前もこちらに来て部屋を片付けてくれ」


えっ!?私?


「は、はい」


 部屋の片付けなんて部屋付きのメイドか自分の侍女にやらせなさいよ!とは言えずおずおずと殿下に続き部屋に案内される。


 廊下をみると不安気な顔をしたショーンさんとヒューズ君と目が合ったので、どうにかして!と言う気持ちを込めてジッと見つめると頭を下げ去ってしまった。


 酷い!最悪ぷっぷちゃんに瞬間移動してもらう時あの二人置いて行ってしまいましょうと頭の隅で思った。


 部屋に通される時従者が


「全くエレアナ様には困ったもんだよ。お前達も適当にあしらって逃げろよ」


 私達にだけ聞こえる様にポソっと言った後


「エレアナ様、お待たせしました。コックと片付けのメイドを連れて参りました。私は他の用事がございますので後はこの二人に」


 そう言って去ってしまった。この従者も酷い。後で覚えておきなさいよ。と思いつつ何の仕返しも思いつかないでいると


「遅いわよ!!さっさと食べ方教えなさいよ」


 と言う言葉と共にデザート用フォークが飛んできた。危なかった…危うく刺さってしまう所だった。


 周りを見回すとダイニングテーブルに一人の若い女性が不機嫌そうにこちらを見ていた




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