135話
ナディアの話になります
白い光が点滅しているわね?
そう思った瞬間手足に血が巡る感覚になり、いつの間にか閉じていた目を開くと怪訝な顔をした4人と目が合った。
「ナディア様…今のは一体」
グレタが口を開くと同時に馬車の外が騒がしくなった。兵士達が縄を抜けたのかしら?それにしてはもっと沢山の声がする。
まさか仲間が駆けつけて…
「みんな伏せて!」
コニーさんの掛け声で慌ててベッドの横でうずくまるとグレタが私に覆い被さってきた。
私を守るために…感動していると更にその上をヒューズくん、ショーンさんが被さってきた
「ふぐっ!ぉもい…」
息ができない!
「ぷ…ぷぎ…」
私のお腹にいたぷっぷちゃんが瀕死の呻き声をあげる。
大変!私もぷっぷちゃんも死んでしまう!
何とか自分もぷっぷちゃんも守ろうと体勢を変えようとしていると馬車の扉が開いた音がした
「何ヤツ!武器を捨てただちに…」
「誰!?勝手に入って…」
男性の声とコニーさんの声が被って沈黙になった後
「何故ここにナディア様達が!?」
「アンタ達がナディアちゃんを攫おうとするヤツらの仲間か!?」
再びの沈黙
何とか体勢を変え見上げると複数の見覚えある兵士達…その内の一人が
「何を言っている!?いきなり現れて!ってやめろっ!」
コニーさんは手のひらに魔法の塊を作りだし、それがどんどん大きくなっている
「コニー!やめるんだ!!こんな狭い所でその大きさを放ったらナディア様も無傷ではいられない!」
みるみるコニーさんの手のひらの塊が小さくなる。
馬車の入り口にいたのは
「ラッサ大尉…」
そしてその後ろからディラン殿下が目に入った
何故ここに?
もしかしてピンチを察して助けに来てくれた?
コニーさんを含め馬車の中の人達の身体から力が抜けるのがわかった
「何故殿下がここに?」
最初に疑問を投げかけたのはショーンさん
「それはこっちのセリフだ」
私達は馬車から降ろされ、その場に急遽会議場と言う名の簡易テントの中で話しをしている。
殿下とラッサ大尉、それに馬車に乗っていた5人で
「最初の話と全然違うじゃないですか」
不満だらけの顔でショーンさんが言うと
「だからこっちこそそう言いたい。何であの場所にいきなり現れた?」
「は?殿下何を言ってるんですか?俺達は予定通り北西の砦に向かってましたよ。まぁ余計な兵士達も着いてきてちょっと足止めしてましたけど、ちゃんと木に括りつけ雪をかけて出発しようとしていた所です」
殿下は眉をしかめ
「木に括られた兵士はどこにもいない。そしてこっちの兵士の話では、お前達がいきなり現れたと言っているが」
あら、助けに来た訳ではないのね
それにしても…ちょっと殿下の言っている意味がわからない。この場にいる寝台馬車組の誰もが似たような表情をしていた
「何で急に現れたなんて…俺達は間違いなく北西の砦に向かう途中の、ええっと…ここ!この辺りにいたのですけど!」
ショーンさんが地図の一点を指差し断言する
「悪いがショーン、今ここの現在地はこっち。ハイドン村から出たこの辺りだ」
殿下が指差したのはハイドン村から真西にある村から出た場所だったりする。
二人の居場所と言ってる事の齟齬がひどすぎる
馬車から降ろされた時見た風景は正直ほぼ一緒だった。雪が降りしきる中、木々の間の細い道なんてどこにでもある風景なのだから仕方ないと言えば仕方ないけれど、普通間違えるかしら?
ふと周りを見るとラッサ大尉と目が合った。
でもラッサ大尉微妙な顔をしているわ、と思っていたら目線が私の顔からどんどん下に向かって行く。
え?何?まさかラッサ大尉…そんな目で私の事を!?
「あの…ちょっとスミマセン。いいですか?」
ラッサ大尉、一体何を言い出すの?
「ぷっぷ殿なんですが…」
…ぷっぷちゃん?
「以前ぷっぷ殿、リシャール殿の所から瞬間移動した事ありましたよね?」
………あったわ。確かリシャールさんはいきなりいなくなったと。
バッと全員の視線が私のお腹に注がれた。
もぞりとぷっぷちゃんが軍服のボタンの間から顔半分を覗かせていてかわいい
「これはお前の仕業か?ぷっぷ」
殿下が不機嫌極まりない表情で尋ねると
「ぷぷっ」
…全然何を言っているのかわからないわ。そっと目線を上げラッサ大尉を見ると
「やめて下さい、みんなで私を見るのは。わかりませんよ」
手をブンブン振りながらラッサ大尉は言う
「何故だ。お前はぷっぷの通訳だろう」
「いやいやいや。わかりませんって」
流石のラッサ大尉でもわからないなんて…すると殿下は大きくため息をつき
「まぁ…仕方ないな。確かめる術なんか無いし。ここは一旦引き返すとするか」
みんながそれぞれ動き出そうとしているので、私も立ち上がる。
少しだけ残念な気持ちだわ。ぷっぷちゃんもしかしたら凄い子だと証明できたかもしれないのに。まぁ瞬間移動なんてあんまり信じていないけど。
リシャールさんきっと疲れ過ぎて幻覚でも見ちゃったのよ。
ぷっぷちゃんをお腹の定位置に戻し、ボタンを閉め直そうとしていると、ぷっぷちゃんが軍服の間から出てきた。
珍しいわね。寒くなってからずっと私の軍服の中にいたのに。
「ぷぷっ?」
やだ。首を傾げてかわいい
殿下はすぐ横でショーンさんとまだ言い合いを続けていて、ラッサ大尉はコニーさんとグレタを呼びテントの外で何やら話をした後兵士達の所へ戻って行った。コニーさんが
「私達ちょっと先に寝台馬車へ行ってるわ。後からヒューズ君と来て」
そう言ってグレタと二人いなくなってしまった。私も寝台馬車に戻るべきかしら?ヒューズ君を見ると
「コレがナディア様の従魔?スゲー!オイラ初めて見たよ」
ヒューズ君もかわいい。
敬語も忘れて目をキラキラさせながらぷっぷちゃんに話しかける
「瞬間移動?オイラ見た事ないけど凄いんだろ?チャチャっとやってくれないかな?フォールダー辺境伯んとこビューンてさ!」
「やだ。ヒューズ君ったらぷっぷちゃんがやったって本気で思ってるの?本当だったら凄いわよね」
あまりの微笑ましい言葉に私も悪ノリして
「ぷっぷちゃんお願い。フォールダー辺境伯の所まで連れて行って」
「ぷっぷっぷーーっ」
「「は?」」
ぷっぷちゃんが力んだ瞬間再び手足の先が冷たくなる感覚が再び襲ってきて、次に白い光が点滅した後手足の感覚が戻ってきた。
私は先程と違って今回目を閉じていなかったけれど、感覚は一緒だわ。
「な…んだ?今、何か起こったか?」
殿下はそう言うと剣を抜き周りを見渡した。これってもしかして…
「あの、殿下…これ、もしかしたら…」
ぷっぷちゃんの仕業かもと言おうとした瞬間テントの中に突風が吹き込んだ。
「きゃぁ」
あまりの風の力に思わずその場に倒れ込みそうになっていたら
「大丈夫か?」
殿下に腰をガッチリ掴まれ無様に転ぶ事は無かったけれど、殿下の肩越しの外の景色に思わず息を飲んだ。
「あ、ありがとうございます。それより殿下…あの、外が…」
布を上げられた入り口に見える景色は針葉樹が生い茂った森が、その先に先程までは無かった大きな要塞?の様なモノが目に入る。
「あ?何だ?」
入り口を指差すと振り返った殿下は動きを止め固まってしまった。
「で、殿下?アレは一体…」
とりあえず殿下を動かさないと!
テントの中にいたショーンさんヒューズ君も固まって動かないでいると、腰から手を離した殿下は駆け出し
「ラッサ!!!一体どうなって…」
殿下は再び動きを止めた。私達は目くばせをし殿下を追って外に出ると
「……」
誰もいない
馬も寝台馬車もない
森の中にポツンとテントと私達だけ
スミマセン来週はお休みします。