133話
軽い気持ちで魔力を吸われに行った事を後悔したが、吸われてしまったモノは仕方がない。
軽く食事を取った後とりあえず部屋の中を歩いてみたり、椅子で上り下りをし自分の身体がどのくらい動かせるのか確認をする。
「なぁセラ、俺の魔力が無くなった事は…」
「兵士達に言える訳ないよね。パニックになるよ。それよりどお?身体はやっぱり重い?」
「あぁ。今まで俺は随分楽してきたんだな」
身体の細さを隠すためもあるが、何より寒くて死にそうだから制服の下に3枚程着こんでいる。これが続く様ならグレタを呼んでまた肉着を一着作ってもらわねばならない。
それにしてもナディアは普通の状態でコレなのか…今までしんどかったろうな。次に会った時はもっと優しくしようと思った。魔力が戻ったら更に優しくしよう。今までの罪滅ぼしも兼ねて
「…と、思っているんだ」
思いの丈セラに伝えると
「まぁ遅いよね。ディランだから仕方ないけど。」
俺はそんなに酷いヤツなのか?確かにあまり他人を理解しようとはしていなかったけど。
「それよりそんな身体でフォールダー辺境伯の所に行くの?」
「仕方なかろう。俺以外が行った所で門前払いを喰らうのがオチだ」
フォールダー辺境伯は堅い。砦も辺境伯自身も。
でなければあんな無法地帯の様な場所を治めるなんて出来はしない。しかもフォールダー辺境伯は領地民の心をガッチリ掴んで離さない。
幸いな事にフォールダー辺境伯は陛下に忠誠を誓っているからドレナバルであるだけで、そうでなければとっくに独立なり何なりしてフォールダー王国が出来上がっていただろう。
「まぁそうだよね。でもさ、遠いよ?騎馬無理じゃない?」
…今の自分では体力も勿論、魔力でスピードを上げる事もできない。
「馬車しかないか…」
「て事はやっぱりナディア様連れては行けないよね」
そう言ってセラは難しい顔をした。
「ここにいる事がそんなに難しい事か?アイラやコニーがつきっきりだぞ」
「ん〜そうなんだけどね。以前はほんの一部の兵士達の噂が、今では本当の事の様に全体に広まってるんだ。ナディア様を早く国に返せとか修道院へ入れた方がいいとか」
「それは皇太子妃として失格の烙印を押されたと言う事か?一体いつから?そもそもナディアは表に出ていない…」
「それそれ。ディランの婚約者かどうかも怪しいってところから始まってるんだ。ディラン皆んなに紹介した?」
………
「してないでしょ?主に挨拶の時ナディア様が自分で言ってただけじゃないかって」
…確かに表立って言ってはいないが、それこそここにいるセラやラッサ、リシャール、ナディアの周り4人、他にもブルーノ、エラン、ヒューズに…
「個人的に言ったからって皆んなが認める訳じゃないでしょ。更に悪い事に妊娠説と魔物との契約の噂はディランが帰ってきてから違うって言ったから、ナディア様が自称したんじゃないかって」
ナディアがここまで評判を落とした責任は自分にも一部ある様な気がしてきた。
「更に更にナディア様重病説の噂を流した時葬送っぽくしたでしょ?あれでナディア様は一度死んだ後、蘇った魔女説まであるんだよ」
もしかしたらほぼ自分のせいかも…
「そんな訳でナディア様ここにいても安全じゃないんだ。アイラとコニーが付いているから皆んな怖がって近寄らないだけで」
「…わかった。とりあえず今の俺では連れて行っても守るのは難しいからここから離そう」
「どこに?民家に頼んで匿ってもらうのはこの間の事もあるから無理だよ」
「城壁を作る時に川沿いに小さい砦を見つけた。ハイドン村からは外れた所にあるが、一応そこも城壁内に入れてある。古いが多分大丈夫だろう」
「え?ディランの大丈夫ってナディア様に関してはアテになんないんだけど。雨風凌げるってだけじゃナディア様この寒さで死んじゃうよ?」
いつの間に俺の信用はここまでガタ落ちしたのだろう。
「ラッサを共にと言いたい所だが、俺と一緒にフォールダー辺境伯の所に行ってもらう。リシャールでもいいが、ヤツは俺以上に気が利かないだろうからショーンはどうだ?ヤツを連れて行けば何かしらの魔道具を作れるだろ?」
「ディラン…マトモっぽい事言ってるけど大丈夫なの?ショーンって人。いや、勿論ハリーから経緯は聞いてるんだけど」
「俺を軽口でこんな身体にしたんだ。責任取らせないと」
「え!?」
「俺はラッサの所へ行く」
「いや、ちょっと待って…」
セラがギャンギャン言ってるが無視して、今後の話しをすべくラッサの所へ向かう。若干足腰が震えているが、幸いラッサはショーンの所にいた
「丁度良かった。二人に話しがあるんだ」
部屋に入るなりそう言うとテーブルに腰掛けていたショーンが飛び上がり
「殿下!体調は?具合は大丈夫ですか?」
ショーンはショーンなりに俺の事を心配していたらしい。やはり悪いヤツではなさそうだ
「問題ない。と言いたい所だが…ショーン、お前の体調はどうだ?」
「ご心配いただきありがとうございます。魔力は全然戻りませんが、俺にはこの魔道具があるので」
「なら良かった。病み上がりで悪いがちょっと頼みたい事がある」
「は、はい。俺で良ければ」
「ナディアの事なんだが…噂は聞いてるか?」
話し出した途端ラッサの眉毛がピクリと動いた。
「はぁ、まあ」
「なら話は早い。近い内に俺はフォールダー辺境伯の所に行かなければならない。その間ここにナディアを置いておくには少々不安でな」
「……」
途端ショーンの顔に不信感が表れた
「俺がいない間ナディア達を連れ、ハイドン村北西の外れにある砦で隠れていてほしいんだ」
「「殿下!?」」
「ほんの10日ばかりだ。極秘任務だぞ」
「嫌ですよ!何で俺が!?」
「そうです。ナディア様の安全を考えるなら殿下が連れて行くのが一番ですよ」
ショーンとラッサが立て続けに口を開く
「まぁ安全を考えるならそうだろう。以前の俺ならばな」
どうだ。反論できないだろ。
「……で、でもそれならばラッサ大尉とか他に適任がいるじゃないですか!」
ショーンは焦りながら言うが
「そうなんだが、ラッサは俺について来てもらう。セラはここにいてもらわなきゃならないし、リシャールは…まぁ向いてないだろ」
「俺だって向いてないですよ!」
「魔道具を作れるだろう?快適に過ごせるように。それに…俺はお前の軽口に付き合ってしまったばっかりにこんな身体になってしまったし…」
俯き唇を噛み締めながら言う。
「や、いや、俺、止めましたよね!?」
「そうだな…全て俺が悪いんだな…」
声を震わせ言葉を紡ぐ。
「で、殿下、いえ!あの、あの時俺がもっと強く反対していれば、そのっ…」
「いや、ショーンは悪くない。俺が不甲斐ないばかりに婚約者を守る事もできないが、決っっしてお前のせいではない」
「…」
「…」
「…殿下?やはり責めてますよね?」
「いや、責めてない」
「ショーン殿…もう諦めた方がよろしいかと」
そうだラッサ。もっと援護射撃しろ
「いや、ラッサ大尉まで!?助けて下さいよ。俺ナディア様の事ほとんど知らないし、ナディア様は殿下と同じくらい魔力があるなら何とかできるでしょ!?」
無言でラッサと目を合わせて頷いた
「ショーン。ナディアには魔力は無い」
「え?」
「全くないんだ。お前はたった今俺達の機密事項を聞いた。よって只今よりラッサ隊特別隊員を命ずる。以降ラッサ隊の一員として行動するように」
「は?」
ラッサは俺とショーンの間に立ち
「ショーン。今から私の隊の一員だ。ラッサ隊に紹介するから着いてこい。心得などは隊員から聞くように」
「へ?」
話しは終わりとばかりに踵を返した。そろそろ立っている事も辛くなってきた。後ろでショーンが何か叫んでいるが後はラッサが何とかしてくれるだろ
う