130話
「どうかされたのですか?」
「あ〜…これ、わかりますか?」
ショーンさんに促され御者台の下を覗き込むと、馬車とハーネスの繋ぎ目が見えた。
「ハーネス、ですよね?」
「ええ。そのハーネスの繋ぎ目に…」
何かしら?もう一度よく目を凝らして見ると
「あら?石かしら?」
何かの拍子に挟まってしまったのかしら?明らかに皮や木や鉄とも違う物質がある。カリカリと爪で取ろうとしても全く取れない
「私も今気づいたんですが、魔道具です。その石」
私は急いで手を引き後退んだ。爆発とかするのかしら?
「馬と馬車を離した時に作動するみたいです」
「ど、どのように?」
「さぁ、まだ調べていないのでなんとも」
相変わらず愛想もなくショーンさんは言う。
「あら、じゃあナディアちゃんを狙って爆発するとかは無いのね?」
コニーさんよく聞いてくれたわ
「そうですね。通常馬車と離す時、馬車に人は乗ってないですから。大きさから見ても多分居場所を知らせる的な働きをするのではないかと思います」
「ふうん。あくまでもナディアちゃんの居場所を知りたいって事…」
コニーさんはそう呟くと踵を返し3人の兵士達に向かった。慌ててついていくと
「ねえアンタ達、何でナディアちゃんの居場所知りたいの?アンタ達の親玉は誰?」
「けっ、知ってどうする?その役立たずな女は国に返すか修道院送りにするんじゃねーの!」
兵士の1人が言い終わるや否やコニーさんに拳で殴られた。
うわっ痛そう!思わず顔を背けてしまうと肩にそっと上着を掛けられた。
「グレタ…」
振り返るとグレタがニッコリ微笑んでいて、ホッとして縋りつこうとしたら
「甘いですよ。コニーさん!トドメ!早くトドメを刺しちゃって下さい!」
「グレタちゃん落ち着いて。理由と親玉を聞きだしてからよ。トドメを刺すのは」
「いや〜!やめて!仲間内で殺し合いなんてしちゃダメ!」
思わず大声で叫んでしまった。私の悪口くらいで殺してしまっては殿下隊のほとんどがいなくなってしまう
「ですってよ?ナディアちゃん優しいのよ。でもね、私は優しくなんて出来ないの。早く言わないとナディアちゃんいない所でトドメ刺すわよ」
「「ヒィ」」
今度は完全に怯えて喋れなくなってしまった兵士達に
「は・や・く・話しなさい」
コニーさんは更なる脅しをかける
「ち、違うんだオレ達はただ言われて!着いて行っただけなんだ。た、助けてくれ!」
「誰に?」
「ブ、ブルーノ少尉に言われたんだ」
ブルーノ少尉?聞き覚えがあるような?
「ふざけんな!ブルーノさん、そんな事しねぇよ!」
割って入ってきたのはヒューズ君…あっ、そうだったわ。初めてこの村に来た時にヒューズ君とエランさんと一緒にいた人だわ。
あまり喋らなかったけれど、あの人が?
「本当だって!ブルーノ少尉は殿下に相応しくないって。ただ魔力が豊富にあるだけで何もしないし、できないじゃないかって…違う違う!俺じゃない!ブルーノ少尉がそう言ってたって話なんだ!やめてくれー!」
話してる途中でコニーさんが再び拳を握りしめ胸ぐらを掴んだので慌てて兵士は言った。
「コニーさん。トドメはダメですって」
私がそっとコニーさんの袖口を引くとようやく握っていた拳を解いてくれた。後ろからグレタが「トドメ!トドメ!」と叫んでいるけれど、無視をして私は話しを聞いてみた
「それではブルーノさんからの指示でここまでいらしたのですね?その後はどうなさるおつもりだったのですか?」
私が話しかけると途端に嫌そうな顔をして
「知らねーよ。アンタが引っ越した場所を確認した後俺達は戻るよう指示されただけだ」
それならば私の命を今すぐどうこうしようとしている訳ではないのね。少し安心したわ。
横でコニーさんが「ちょっと言葉遣いがなってないわよ」とか言いながら足蹴にしているのを止めつつショーンさんの所へ向かう。
「ショーンさん、目的地まではあとどのくらいあるのかしら?」
私は引っ越しなんてしている場合じゃないのではないかしら?
「あと1日もあれば到着します」
「その後は?私はそこで身を隠すように過ごせば良いって事かしら?」
おかしくないかしら?殿下は私を守ると約束してくれたし、実際殿下の力を持ってすれば私の安全確保なんて簡単よね?でもそれは近くにいればこそ。わざわざ離すってどうゆう事かしら?
「そう…ですね」
やっぱり歯切れが悪い。
「ショーンさん、洗いざらい話して下さい。殿下に何かあったのですか?でなければ私はあなたを疑う事になります」
本当にラッサ大尉から指示を受けたの?あなたは他の人からも指示を受けていたのではないの?
私の言葉に皆んな何も言葉を発しなかった。コニーさんやグレタだっておかしいと思っていたに違いないわ。
ショーンさんはしばらく目を泳がせた後
「馬車の中でお話しします」
決心したように言うので私達は馬車に乗り込んだ。馬車の中には5人。
息苦しいくらい狭い
「実は殿下の魔力が…」
?殿下の魔力?またダダ漏れ?
「ナディア様が戻って来た後、聖なる泉に興味を持たれまして」
「興味?」
「ええ。あの、、半分くらいは俺のせいなんですが…殿下があまりにも魔力をダダ漏らすので…」
殿下はまた何かにイラついていたのね。想像してちょっと同情していたら
「イラッとして聖なる泉に行ってちょっと魔力吸われてみたらどうですかと言いまして…」
まぁ、中々良いアイデアじゃないかしら?
「結果今殿下に魔力が全く無くなってしまい…」
!?
「魔力が……」
全く無い?どうゆう事?
殿下は一体どうなっているの?あの殿下から魔力が無くなってしまったら…殿下は殿下としての仕事は出来ているの?そもそも魔力の無い殿下は元気でいられるの?私はどうなってしまうの?色々な事が頭の中を巡り全く考えがまとまらない。
「殿下に…殿下に会いに行きたいのだけれど無理かしら?」
「殿下はナディア様を危険から遠ざける為、引っ越しを提案されましたので…それに、本日昼からどこかに行くとか何とか言っていたので無理かと…」
「そう…」
そうよね。殿下は今自分の事で精一杯のはず。私が行く事で殿下の負担が増えてしまうわね。でも魔力の全く無い状態で一体どこに行くつもりなのかしら?
「ぷぷっ」
急にお腹の辺りがモゾリとしてボタンの間からぷっぷちゃんが顔の先だけ出した。
「ぷっぷちゃんどうしたの?」
寂しくなっちゃったのかしら?お腹が空いたのかしら?
「ぷぷっぷっっ」
珍しくぷっぷちゃんが力んで鳴いた途端、目の前が歪み手足がすっと冷たくなり意識が遠くなった気がした