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流されて帝国  作者: ギョラニスト
13/205

12話

 それからどのくらい走り続けたのか、再びどこかの森の中でやっとキャシーは脚を止めた。


「今日はもうここで休もう。キャシーの足が持たない」


 今はキャシーの心配より私の心配をして欲しいと心からそう思った。



火を起こし、湿っていない枯れ草を集めその上に座る。ちなみに全て殿下がやっていた。


私は木を背もたれにぐったりしていただけだ。多分白目気味に違いない


 ドレナバルに来てからも色々あったけれど、ドレナバルを出てからの比じゃない。


 一体何がどうしてこんな事になっているのか聞きたいけれど、そんな気力はカケラも残っていない。


 説明を聞いた所で今の私の状態で理解できる気もしないし



 蹲ったまま眠っていたらしい。

木の爆ぜる音で目が覚めた。


 少し離れたところで殿下も目を閉じて休んでいる様だ。


 何となく目が覚めてしまったため眠る事は諦め、消えかかった焚き火に枯れ木をくべる。


 今何時位かしら?


 王都からは離れた場所なのは分かるけど、どの辺りだろう。少し休んだおかげで大分頭がスッキリしている。


 それにしてもとんでもない目に遭っている。


 法が変わって皇太子候補が増えたと言っていたけれど、クーデターが起こっていると言っていたけれど、王宮が何やらマズイ事になっていると言っていたけれど、1番あり得ないのはシャナルじゃなくって?


 何故何一つそんな情報が入ってきていないの?ドレナバルでクーデターはこの大陸を揺るがす大事件なのに。


 まさか父は知っていて私を?それはないわね。

あの父はあんな強面でも私達家族を溺愛している。


 溺愛している娘をクーデターの起こっている国に嫁に出したりしない。

と信じている


 それならば陛下や王妃様は?とても知っていた風ではなかったけれど、曲がりなりにも一国の王様だ。


 知らないなんてあるのかしら?王妃教育で受けた大陸の歴史も30年以上古いものだったし、鎖国状態だし。


 何だか色々おかしい。シャナル王国。



「起きていたのか?」


思わずビクッとしてしまった。


「はい。目が覚めてしまって」


「身体の方は大丈夫か?」


「?はい。大丈夫ですけど、ちょっと混乱しています」


「まぁそうだよな…」


何かしら?じっと見られている。観察されている?


「あぁ、スマン。寝起きに起きている人を久しぶりに見たから」


「そうなのですか?」


「本当に魔力酔いをしない人間がいるなんて思わなかった」


出たわね。魔力酔い


「あのぅ、その魔力酔いとは一体何なのでしょう?」


 王宮で聞きそびれそのまま聞けずにいた質問をする


「魔力が強い者と弱い者の間に起こる現象だ。魔力の弱い者は具合が悪くなる。」


「差が無ければ起こらないのですか?」


「そうだな。俺は相当強いらしい。自分ではわからないが」


「では魔力を持つ人と一緒にいる事が出来ないと言う事ですか?」


「今は起きている間は抑えているから大丈夫だ」


「抑えると言う事は抑えないと…」


「先程見ただろ。人が倒れたのを」


「あれは殿下がやったのですか?てっきり諦めて目を閉じていたのだと…」


盗賊皇子に何だと?と言う言葉がでそうな位睨まれたので口を噤む


「ホホホ。まぁでも大は小を兼ねると言いますか、魔力もきっと沢山でよろしいかと…」


怒ってしまった様だから持ち上げようとして更に睨まれた。

面倒臭い人かもしれないわね。


「だって仕方ないじゃないですか。魔法も魔力もサッパリわからないのですし、関係なかったのですよ」


「ちょっとまて」


殿下は顔を片手で覆い何やらブツブツ言いだした。


「お前は…いや、シャナルでは魔法が使える者がほとんどいないと聞いたが、魔力に関する話などはでないのか?」


「はい。知識としては魔法使いが魔法を使う程度でしょうか。その魔法使いもシャナルに2〜3人いるとしか」


「あ〜…そうか。そんなにか」


何かしら?絶句して夜空を仰いでいる。


「まぁ何だ。元気をだせ」


何故突然の励まし⁈


「励ましではなく説明が欲しいのですが」


「そうだな。ただ、もうどこから話せばいいのか…一つ契約をしないか?」


「既に婚約と言う契約はされてますけど」


「それなんだか…その婚約を続けて欲しい。少なくともこのしばらくの間は。さっきの事情だと…その、国に帰る事は考えていないのだろう?この国にいる間は必ずお前の命を守ると約束しよう」


重い。

命懸けの契約ではないの。


 確かに進んで帰りたくはない。帰りたくはないが、危険な目に遭うのも担ぎ上げられるのも嫌だ。


 でも温泉巡りはしたい。悶々と考えていると


「もし、続けてくれるならばお前の願いはなるべく叶えよう。ドレナバルを寄越せとか星を取って来いとかは無理だが、なるべくお前の希望に沿える様計らう。その先シャナルに帰るのもドレナバルに残るのもお前の望み通りになるよう約束する。そのまま嫁に来て王妃になるのでもかまわない。一緒にいるのが条件になるが」


 …随分気前のいい話だわ。


 婚約者でいるだけでドレスも靴も買ってもらい放題。

美味しい食事も食べ放題。

好き勝手してなお温泉巡りもできる。


その上後は修道院でも離宮でのんびりでも構わない。

しかも望めば王妃にもなれる。


昔誰かから聞いた

美味しい話にはウラがある

甘い話には罠がある


現にドレナバルとの婚姻は私にとって美味しい話だった。

でも今こんな事になっているし


チラリと盗賊皇子を見ると真摯な眼差しとぶつかる。


人を騙そうとしている様には見えないわよね


でも…


「説明を先に聞かせて下さい。何が何やらさっぱりわからない上に命の危機に晒されて、挙句担ぎ上げられるのは嫌です」


「ああ。勿論説明はする。正式な婚約も整ったから契約魔法も関与しないしな」



 ドレナバルは大陸の中でも1、2を争う軍事力を持つ国でその気になれば大陸統一も果たせるであろう力を持つ。


力の源は主に魔力。


ドレナバルでは王侯貴族から平民、貧民に至るまでほぼ魔力を有する。


 そんな話から始まった皇太子の説明は私の常識を覆すものだった。


 そもそも魔力とは無縁の平和なシャナルと魔力があって当然で周りといざこざがあり自国内でも安心ならないドレナバルとでは価値観そのものが違う。


 皇太子ディランのその魔力の多さは気の毒に思うけれど実感はまるでない。

 具合も悪くないし心を読めるのならば私が担ぎ上げられるのを嫌がっているのだからむしろ読んで欲しかった。


 婚約解消や破棄も大変だったんだね程度の印象しかないのは多分この殿下の感情が全く読めないからに違いない。

 話す言葉はずっと淡々としている。


「最初の婚約は12才の時だ。遠縁に当たる辺境伯の令嬢で当時多分10才くらいだったのだが、先に親同士で取り交わされた。その後会った瞬間泡を吹いて倒れた」


「普通顔合わせ位するのでは?」


「普通はな。俺はほとんど外に出してもらえなかった。不可抗力だな」


「…そうですか?魔力抑えたりなさらなかったのですか?」


「ちゃんと意識して抑えられる様になったのは15才位だ。それまではダダ漏れに近かったと思う」


 魔力ダダ漏れがどの様な状態なのかは分からないけれどあのラッサ隊長が立つのもやっとなのだからきっと凄いのだろう。


「その次は他国の姫で事情も分かっていたハズなのだが…」


?なのだが?


「ソワソワしていたから心を読んでみたらトイレに行きたい様だったから案内したら口をきいてもらえなくなった上に破棄された」


 それは…殿下が最低じゃなくて?


「その次も他国の姫だったのだが、怯え続け話にもならなかった」


 何と言うか…帝国側ももっと考えないのかしら?


「もっとちゃんとしないのか?って顔だな。勿論ドレナバルもその頃はしっかり調べていたし相手国も同様だった筈だ」


何よ。ちゃんと私の心読めてるじゃない。


「その後もう一度国内で探し今度は顔馴染みの公爵令嬢だった。性格はともかく事情も情勢も良く知っていたのだが…」


 性格はともかく?

ドレナバルの貴族令嬢なんて1人しか知らない。


でも公爵家は確か妃教育でも確か4家程しかなかったはず。と、言う事は


「婚約が整ったとたん王宮を我が者顔で練り歩き他家の令嬢達に喧嘩を吹っ掛けまくった挙句俺の側近に手を上げた。こちらから解消も破棄も出来ない相手だったからある茶会で2人になった時魔力をほんの少し解放したら気を失ってしまったからこれ幸いに円満解消となった」


 何と言うか力の使い所を知っていると言うか性格が悪いと言うか。


 いずれにしてもきっとお相手はマデリーン様に違いない。


 あの時もエアリーにいつ手を上げてもおかしくない感じだったし実際人の侍女に暴言を吐いていたし。


 その後の解消、破棄話は続き私との婚約までの話で終わった。


 本当大変でしたのねとしか言い様のない内容だわ。

それなのに本人はまるで他人事の様に話すのが不思議でならない。


「お相手の方々に何かしらの感情はなかったのですか?」


「政略結婚に感情は必要ないだろう」


まぁそうなのだけれど


「でもどうしても嫌な時もあるのでは?」


「マデリーンの時はそうだったな。だから上手い事力を使い円満解消に持って行けた」


名前出しちゃってるじゃないの。


「もし…私がどうにも我慢ならない相手となった場合は?」


殿下は驚いた顔を見せた


「そうだな。魔力の効かないお前にはマデリーンの時の様には行かないな」


 「ソウデスネ」


私に魔力ダダ漏れさせても何の意味もない。


「その際は是非離宮等に追いやって下さい」


「解消や破棄でなく?」


「ええ。私この国に来て人生の目標を見つけたのです」


「目標?」


「はい。ドレナバルの温泉巡りがしたいのです。王宮の大浴場も素晴らしかったですし、沢山あると伺ったので生涯をかけて巡りたいのです」


キャ!私ったら熱く夢を語ってしまったわ。

でも私の熱意とか情熱とかきっと伝わったはず


「夢が温泉巡りねぇ。普通に生活をして片手間でやれば良いんじゃないか?何なら王妃やりながらでもできそうだけど」



「領地の視察に行ったついでに温泉に入る、外交へ行った先で温泉に入る、教会への慰問をしてから温泉に入る。どうだ?」


どうだって…


「私に大国の王妃は無理かと…」


 そもそも王妃になりにドレナバルに来た訳ではない。単に逃げてきただけなのに。


「大丈夫だ。俺は気に入った」


も、もしかして熱烈な愛の告白⁈


「俺はいままで魔力を漏れさせないように、心も極力聞こえてこない様過ごしてきた。だが今は違う。魔力を漏れさせても心を読まない様気を遣う事もなく至ってリラックスしている」


…愛の告白?


「だから俺と結婚しよう」


コレ本当に愛の告白?



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