表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流されて帝国  作者: ギョラニスト
125/205

124話


 中央本部に到着した頃、日はとっぷり暮れていた。


 本来なら温泉地でキャンプを張る予定だったそうな。普通に考えて、私もテント泊っておかしくないかしら。


でもそんな事言えるはずもなく、


「ナディア様大丈夫ですか?」


「ええ。ちょっとふらつくけれど大丈夫よ」


 嘘だけど…本当はもの凄く具合悪いけれど。

これ以上虚弱な噂は立てられたくない。


 馬車酔いでふらふらする足腰を叱咤し、中央本部に入る。相変わらず騒然としている中前に進むも、至急戻れと言った割に私達は放置され、仕方ないので部屋へ向かう事にした。


「至急戻れって言ってた割に誰も説明に来ないな。何かあったんだろうけど」


 アイラさんがポツリと呟いた。


 そうね。あれから部屋に戻り1時間は経過している筈なのに、誰も来ない。ここにいるのはいつもの5人のみで、私はソファに座りお茶を飲んでいた。


 コンコンコン 


 ノックが鳴りコニーさんが応対に出た。


 初めて見るその兵士は緊張した面持ちで汗をかきながらコニーさんと会話していて『…だそうです!』『そう。わかったわ。ありがとうね』『いえ、とんでもないです!失礼します』等と上官と新人ぽい会話を繰り広げた後チラリと私を見た。


!!


 何かしら?

今の顔…侮蔑に満ちたその表情に気付いた者は他にいなかった様で


「何か大量の人達がこの国、って言うかハイドン村付近に集まっちゃって大変みたいよ」


 何なのかしら?あの新人兵士のあの冷ややかな虫でも見る様な視線…コニーさんと話している時とはまるで違う。


「聞いてる?ナディアちゃん」


「え?あ、はい。沢山の人が集まってるんですよね?」


 一応コニーさんの話は耳に入っていたわ。心ここにあらずなだけで…あら?


「え?それって、卵探しに…」


「え?卵って何?」


しまったわ。聖獣の卵の話ってどこまで話して良いのかしら?


 特に口止めはされていないけれど、話して良いのかどうか判断がつかない。話すにしても神話時代の話しから始めるのか、アリアステ教皇公国とかオルスト神聖国とかの話は知っているのかいないのか…


「聖獣の卵の話は知っているかしら?」


 コホンと咳払いをし、意を決して聞いてみた。

悩んでいてもわからないもの


「ええ、知っているけど…え?聖獣の卵探しに人が集まっているの?ドレナバルに?」


コニーさんが聞いてきたので頷くと


「ナディア様〜アレは御伽話ですよ〜」


「嫌だなぁ。真顔で何を言いだすのかと思えば」


 グレタやアイラさんはやれやれとか言いながら、自分の仕事に戻って行った。


 ヒドイ!本当の事なのに。


 そう言おうと思ったけれど、それよりさっきの新人兵士の冷ややかな視線の方が気になって、私はそれ以上卵には触れず話題を変える事にした


「ねぇ、ちょっと聞きたいのだけれど、最近兵士の間で、私の評判ってどうなっているのか知っている?」


ガチャン 


 エアリーが珍しくティーポットを落とした。同時にアイラさんはテーブルに足の小指辺りをぶつけたようで蹲り、グレタは持っていたお盆を落とした。


 クヮンクヮンと音をたてていたお盆が落ち着くと同時にコニーさんが慌てた様に


「ナ、ナディアちゃんの評判でしょう。それは勿論!ねぇ?」


そう言って周りを見ると


「し、失礼しました。ティーポット新しいのもらって参りますね」


 と言ってエアリーは割れたティーポットを手早く片付け、そそくさと出て行ってしまい、グレタは


「ワタシはトクにナニもキイテおりません」


 何故カタコト!?アイラさんはどうかと思い振り返ると…目が座ってとても怖いのですけど


「ナディアはどうしてそんな事を聞いてくるんだ?」


「ちょっと…アイラ」


 何故かアイラさんを窘めるコニーさん。皆んなのただならぬ気配に


「え、な、何となく…だけれど…」


 何故か昨夜の尋問を思い出した。


 ほんの少し私の評判を聞いてみたかっただけなのに。


 アイラさんはユラリと立ち上がり


「誰かに何か言われたか?」


「い、いえ、誰にも何も…」


 だからこうして聞いているのだけれど…もしかして私の評判は更に悪くなっている?


「いい?ナディア、一般兵士の言う事なんて耳に入れなくていいから」


 そう言ってアイラさんは部屋から出てしまった。


 入れ替わりにエアリーが新しいティーポットを持ってきて


「今日はハーブティーがありましたので飲んでみませんか?心が落ち着くそうですよ」


 それは心を落ち着かせる何かが私には必要と言う事かしら?


 それでも色の薄いこのハーブティーはとても爽やかな香りがして美味しいし、心なしか穏やかな気持ちになってきた。


 私の評判なんてどうでも良い事な気すらしてくる。


「そうそうナディアちゃん、さっきの兵士だけどしばらくここから出ないで欲しいって。必要な物があれば扉に立つ兵士に言ってくれればいいからって。何か厳戒態勢よね」


 それでも。心穏やかになったとしても、あの冷たい視線は気になる。心の奥底からあの目は放っておいてはいけない!と何かが叫んでいる!…ような気がする。


 きっと皆んなは何かしら知っているから動揺したのよね?だとしたら、聞いてもちゃんと答えてくれない。


「では、部屋からは一歩も出てはいけないのかしら?」


 こっそり偵察しに行ってみようかしら


「そうねぇ。ナディアちゃんの場合本部内とは言え1人で出歩く訳にはいかないから、大人しくここにいるのがベストね」


 …と言う事は私1人でなら出歩いて良いと言う、裏返しの言葉ではないかしら?


 問題はどうやってこの部屋から1人で出るかよね?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ