123話
プツプツプツプツと私の身体から泡が出てくる…
もしかして私の身体から何が出ているのかしら?
疲れ?不運?まさか生命力的な何かかしら?
でも、このままこの湯船に浸かり結果命が尽き果ててもいいかもしれない…湯船の淵にタオルを置き、その上に頭を乗せてリラックスしながらそんな事を考えていたら
「ナディア様。お時間です。湯船から上がって下さい」
「ええ?もう?」
グレタの掛け声で幸せがどこかに行ってしまった。
先程入ったばかりなのに。やっと入れた温泉の湯船なのに
「この湯は長湯厳禁です。ささっ、こちらに掛けてお休み下さい」
渋々湯から上がりフカフカなバスローブを羽織って椅子に腰掛ける。
私が来ると言う事で、急遽設えてくれたらしいその場所には衝立で囲われ、中央に椅子とテーブル、ティーセット等がセットされていてとても優雅。
この風さえなければ
ビュオーと音を立て地面を這うように吹く風はとても冷たく衝立なんかでは遮る事はできない。
ちなみに兵士達は、私が見えてしまわない様にと豆粒程小さく見える場所から警護してくれている。
「お寒くないですか?」
優しくエアリーは聞いてくる。寒い。寒いですよ。でもそんな事を言った日には『ではもう帰りましょう』と言われるのは目に見えている。
「大丈夫よ。それよりここの湯は黄金色なのね。入るとプツプツと泡が立ってシャンパンに入って気分になるのよ」
こんな時は話を逸らせるのが一番とばかりに話しだすと
「まぁ!シャンパン風呂ですか。何か素敵ですね」
シャンパン風呂!なんて素敵なネーミング。
これはもしかして温泉施設の目玉になるのではないかしら?何よりここには誰もいないのにやけにだだっ広い湯船がある。
「ねぇ、グレタ。ここのお風呂は普段は沢山の人が入りにくるのよね?今日は私が来るから貸し切りなのでしょう?」
「その様な話は聞いた事ありません。ここは元々窪んだいた所に近くで湯が吹き出し、それならってここで貯めようと作られたと聞いています」
何と言う事でしょう。こんな吹きっ晒しの、だだっ広いこの場所は普段誰も入らないなんて…これはこの場所に温泉施設を作りなさいと言う女神様の神託に違いないわ!
「ねぇグレタ、この付近に地熱が…砂風呂が出来そうな場所はある?」
「ナディア様砂風呂に入りたいのですね。こちらの方にございます。」
え?今は全くもって砂風呂の気分ではないのだけれど…でも砂風呂までの距離は知りたいわね。
後でもう一度シャンパン風呂に入ろうと決意しながらグレタの後を歩く。私の左右にアイラさんとエアリー。後ろからはコニーさんが着いてくる。ウィンディアさんは別件があるからとどこかへ行っている。
シャンパン風呂をぐるりと回り、荒野の様になっている場所をひたすら歩く。何でも温泉成分のせいでこの辺りには草一本も生えてはいない。
そして寒い。
「ナディア様、見えますか?あそこです」
寒さのせいか地面からモクモクと煙が立ちのぼり、正直言うとよく見えない。
「まぁ、本当だわ。シャンパン風呂から歩いて10分位かしらね?」
でも私の噂に目も悪いとか加わったら悲しいので適当に答えてみる。
「そうですね。大体それくらいかかります」
最高だわ。シャンパン風呂と砂風呂の間に休憩できて寛げる広場を造りましょう。マッサージ台は必須だし、紅茶や軽食もいただけると良いわね
コニーさんに砂をかけられながら、どの様に広場を飾り付けようか妄想をしていたら
「あら?すみませんナディア様、ちょっと席を外しますね」
そう言ってエアリーがその場を離れた気配がした。
何かしら?私は今顔に布をかけられ何も見えないし、身体には砂がどっさり乗せられている。
「ナディア様、息苦しくないですか?」
グレタが砂をかけてくれていたのね
「そうね。ちょっと減らしてもらえるかしら」
「はい。分かりました。ぷっぷ様はどうされます?」
「ぷっぷー」
うん?
「え?ぷっぷちゃんも埋まっているの?」
「はい。入りたそうでしたので、かけてみたらリラックスされているみたいで」
魔物だから?聖獣だから?トカゲだから?何だかおかしくないかしら?ぷっぷちゃんが砂風呂でリラックスって
遠くからタタタッと足音が聞こえ
「ナディア様、今伝令がありまして、至急戻る様にとの事です」
「えええ!?」
もう一度シャンパン風呂に入りたい!湯船に浸かりたい。けれど、私の目には入らないけれど、この場にいるエアリー達がコソコソ話しをしているのが耳に入る。
「では砂をどかしますね」
グレタはテキパキと砂をどかし、湯をかけてもらいサッパリとする。もう一度シャンパン風呂に入りたいと言いだせる雰囲気は欠片もなくて、言われるがままに帰り支度は着々と進んでいく。
でも…ここは勇気を出し言ってみようかしら?
「あの…」
「はい。ナディア様、どうかされましたか?」
エアリーとグレタは笑を浮かべ私の意見を聞いてくれようとしているけれど、手は高速で動かし髪を乾かす。
アイラさんやコニーさんは兵士達を呼び、ついでとばかりに馬車まで運びこんできた。
「う…ううん。何でもないわ。早く戻りましょう」
あぁ、私はなんて小心者な人間なのでしょう。涙を飲み込み笑顔で馬車に乗り込んだ。
次はいつ来れるのかしら?そんな事を考えていたら、ガタゴトガタゴト…ガガガゴゴゴッ
な、何事!?物凄く飛ばしていないかしら?
「至急と言う事ですので、ちょっとスピードが早いですね…ナディア様こちらをお被り下さい」
ズボッ
「え?いやいやグレタ、そんな大袈裟な…」
これはいつもの…
ガガガガガガッ
「ヒ、ヒィ!」
「ナディア様、どうやら魔法まで駆使して急いでいるみたいですね。しっかりとお捕まり下さい」
エアリーは静かな微笑みで言う。何故こうも冷静なのか…私は馬車の淵にしがみつき激しい揺れに耐えた。
酔いそう
今年の更新はこれが最後です。
今年も読んでくださりありがとうございました!
来年は1月15日の週からを予定しています。
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みなさん良いお年を〜