121話
「スマン、待たせた」
殿下がそう言うと
「いえ…今お2人から殿下の魔力について聞きました。凄まじいですね。あの様な噂が出ても取り消さない理由が分かった気がしました。それに耐えうる魔力をお持ちのナディア様も、あえてダメ令嬢風に振舞っておいでなのですね」
ゲンナリした表情でコンラッドさんが答えた。
ダメ令嬢ですって!?振る舞ってと言う事は私は周りからダメ令嬢に見えると言う事!?
私は問いただそうと口を開けた瞬間横から殿下が
「ん?まぁそうだな。で、コンラッド卵は見つかりそうか?本当にこの国にあるのか?」
殿下!何言葉を濁した上に流してしまわれるの!?
「巫女の神託は昨年もたらされ間違いないかと。その…私ではハッキリ申し上げられないのですが、卵は…」
そう言ってコンラッドさんはチラッと私を見た。何ですの?
「そこにいるぷっぷ殿…もう既に孵ってしまったかと…」
「「「は?」」」
ぷっぷ殿ってぷっぷちゃんの事?
聖獣って聖なる獣よね?真っ白な鳥や狼とか獅子ではないの?
ぷっぷちゃんは最初魔物だと思われていたのに?
「コンラッド…その、卵が勝手に孵る事はあり得るのか?それにぷっぷの容姿は…」
殿下、言いたい事は分かりますわ。
ぷっぷちゃん色は真っ黒だし羽はコウモリっぽい。少なくとも聖なる生き物には見えない
「聖獣の容姿は決まってはおりません。800年程前の聖獣は豚だったと言う記述もありますし…ただ、卵が勝手に孵ったと言う話は聞いた事がありません」
「それならぷっぷちゃんは違いますわ。ぷっぷちゃんは最初からこの姿で犬に咥えられていましたもの」
「犬…ですか?私には判断しかねます。ただ、ぷっぷ殿をこのままにしておくにはあまりにも危険です」
「危険?それはぷっぷちゃんが危険と言う事?それともこの周辺が危険と言う事かしら?」
私は思わず声を大きくして聞いてしまう。
ぷっぷちゃんも周りも危険に晒したくはない。でもぷっぷちゃんは危険な生き物なんかじゃない。
「ナディア、ちょっと落ち着け」
「でもっ…」
「コンラッド、それを確認する術はないのか?」
「巫女がこの場にいれば分かるかもしれませんが…ハッキリとは…」
「巫女をここに呼ぶ事は?」
「無理です。今この国に続々と人が集まっています。その中にはアリアステ教皇公国も勿論大勢来ています。間違いなく巫女は害されます。逆にぷっぷ殿をオルストに連れて行くのが…」
「仮にぷっぷが聖獣だったとして誰がオルストに連れて行くんだ。その間ぷっぷが攫われる可能性だってある。」
「私が。ご要望があれば私が連れて行き確認を…」
「俺はそこまでお前を信用していない。そのままオルストに囲われる可能性の方が高いだろ。オルストこそ喉から手が出る程聖獣が欲しいだろうから」
「…確かにそうです。オルストは聖獣を手に入れアリアステとの関係をひっくり返したいと、300年もの間彷徨っていたのですから。ですが聖獣の意思を曲げてまで、手に入れようとは思っていません!それではアリアステと同じになってしまいますから」
アリアステ教皇公国ってそんな事をしたの?だからオルストは迫害を?
「ふむ…どちらにせよオルストに行かねば確認は取れないと言う事か…」
「聖獣の意思は絶対です。教義にもそう記されています。私が責任を持ってぷっぷ殿をオルストへ連れて行き母に、巫女に確認してもらうのはどうでしょう?」
え?ぷっぷちゃん連れて行かれてしまうの?ちゃんと帰ってこれるのかしら?
ちょっと寂しいけれど、従魔の契約をしている訳ではないから、ただのペットなら私に引き留める権利はないのかもしれない…そう思った瞬間、それまで私の膝の上で大人しく眠っていたぷっぷちゃんは
「ぷっぎー!」
と叫ぶや否や私の肩によじ登り尻尾を腕に巻きつけた。
「ぷ、ぷっぷちゃん?どうしたの?」
普段ぼよよんとしているぷっぷちゃんが珍しく興奮している?
「ぷぎ、ぷっぎー!ぎー」
「ぷっぷちゃん落ち着いて。お腹でも空いたの?」
顎の下を撫でながら落ち着かせようと試みも、ぷっぷちゃんの興奮は収まらない
「何か怒ってないか?ナディア何かしたのか?」
「な、何故ぷっぷちゃんが怒るのです?私は何もしていないです!」
私の噂に動物虐待まで加わったらどうしてくれるの?
なでなでしても興奮冷めやまないぷっぷちゃんは、私の腕をギリギリと締め付け私の肩にしがみつく。痛いけれど鼻の穴を広げて怒っているぷっぷちゃんも可愛い
「ぷっぷちゃん?怒らないで?大丈夫だからね?もしかして疲れたの?休みたいの?温泉に入りたいの?」
慌てる余りつい自分の願望を言ってしまうと
「ぷぷっ。ぷー」
一生懸命何かを訴えてくるけれど、さっぱりわからないわ…
「ぷっぷ殿、もしかしてオルスト神聖国に行きたくないとか、もしくはナディア様と離れたくないとか?ですかね?」
ポソリとラッサ大尉が言うと
「ぷ〜〜」
!!凄い。ぷっぷちゃんが落ち着いた
「凄いですわ。ラッサ大尉はぷっぷちゃんの心が読めるのですね」
感心して言うと
「いや、読めませんよ!ただ今までのぷっぷ殿の行動を鑑みた結果…」
「いや、流石ラッサだ。今からぷっぷの通訳係もやってもらおう」
「いや!殿下勘弁してください!私は単に…」
「ラッサ大尉、大役だけど頑張って!」
ポンと肩を叩いてセラさんも言った。