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流されて帝国  作者: ギョラニスト
121/205

120話


「ええっ!?初耳なんだけど」


 驚きの声を発したセラさんは身を乗り出して


「え?え?あのパーカー傭兵団の創設者が親戚なの?」


セラさん知らないの?


「はい。確か父同士が従兄弟だとか。最も私の父は駆け落ちして、この国を出て随分経ちますから」


 じゃあ僕達は再従兄弟だねーと陽気に話すセラさんだけど、殿下が話をバッサリ切って


「依頼とは何だ?探し物と関係が?」


「はい。神託の内容は『卵が孵る』と言うもので、殿下ならこの意味がお分かりになりますよね?」


殿下は一瞬ポカンとした顔になり


「…本当なのか?言い伝えとか神話の類じゃなくて?」


「はい。オルスト神聖国の巫女がその様に」


 私も聞いた事はある。ただし、それは昔々から始まるお伽話だと思っていたのだけれど。


 昔々神様がこの大陸に人を与えました。人はどんどんと増えやがて幾つかの国が出来ました。だけど国同士はいつも仲が悪く、戦いが絶え間なく起こり、悲しんだ神様は卵を一つ大陸のどこかに置きました。やがて卵は孵り聖獣が生まれ、その聖獣は圧倒的な力で戦いばかりする国々を従わせ平和な大陸になりました。めでたしめでたし…


 なんて事もないお伽話はこの大陸中知らない人がいない位メジャーな話だけど…まさかその卵?


 確か昔話ではその聖獣は今もこの大陸中で信仰されている女神アリアステを祀っているアリアステ教皇公国にいると言う事にはなっているけれど。


「アリアステは何も言ってないが」


 しばらく口を閉ざしていた殿下はやっと一言そう言った


「アリアステ教皇公国は言えないでしょう。聖獣はもういないとは」


え?本当に聖獣がいたの?


「コンラッド・パーカー、一つ聞くが何故そこまで詳しく知っている?多分どの国でも王族やそれに連なる者しか知らんだろう?」


「私の母なのです。オルスト神聖国の巫女は。その為父は駆け落ちしてこの国を出て、今はオルスト神聖国の外務を担っているのです。アリアステ教皇公国から迫害を受けない様尽力しています」


 アリアステ教皇公国は封鎖的で他の信仰なんて許さないものね。と言うかオルスト神聖国ですら、遠い昔アリアステ教から派生した異端の信仰扱いで、今なおあるなんて知らなかったわ。


「その卵を探しにこの国に来たと言う事か?その事実を知っている者はどのくらいいる?」


「ディラン信じるの!?今の話!」


 セラさんが驚きのあまり立ち上がって言うと


「お前の親戚だろ?」


「いや、本当に親戚か怪しいし!オルストだって国ごと彷徨ってて本当にあるんだか無いんだか!」


 そうよ!そうよ!こんな話あっさり信じるなんてどうかしている。


「あるぞ。オルスト神聖国。市井じゃどう言われてるのか知らんが、少なくともドレナバルの王家では、派生したのはアリアステの方だと認識してるが」


!?!?


「え?え?大陸中ほとんど女神アリアステを信仰してるのに?え?ドレナバル王家はアリアステ教の信者じゃないって事?」


セラさんは混乱したように尋ねると


「アリアステ教徒ではないな。女神アリアステを信仰しているが。で、コンラッドどうなんだ?」


 殿下は言うだけ言ってコンラッドさんに話を戻した。


 そう言われてみればシャナルでも女神アリアステに感謝を捧げる祭りは毎年行われていたけれど、アリアステ教徒としての行事は無かったかもしれない。女神アリアステ=アリアステ教だと思っていたけれど、違うと言う事?


「どのくらいの者が知っているかと尋ねられたら、その国の情報量にも寄りますが、概ねの国は知っているかと…ただ、どこに、とまでは知らないからここニ年〜三年大陸中で大混乱をきたしていますが」


「はぁ〜〜〜…だからか…」


殿下は深〜いため息を吐き頭を掻きむしった。途端にセラさんとラッサ大尉は顔色を悪くし蹲ってしまった。あら、殿下久しぶりにダダ漏らしてしまったのね。


「で、殿下…魔力、押さ…えて」


ラッサ大尉が搾り出す様に言うと


「あ、悪い」


 といつもの様に悪びれる事もなく突如席から立ち上がり


「ちょっと頭冷やしてくる」


 と部屋を出てしまった。


 私はこの場合後を追うべきかしら?周りを見渡すとラッサ大尉が汗を流しながら頷いた。


 追えって事ね。


 ちなみにコンラッドさんとセラさんは蹲って口を開く事もできない様で、セラさんに至ってはほんの少しだけ鬘がズレていた。


 今教えてあげても直せないでしょうから黙って私も部屋を出た。この執務室の更に奥に向かう殿下ぎ見え小走りで近寄ると


「あぁそうか。お前は大丈夫だったな」


「はい」


 殿下は部屋を出てからも魔力を抑える事なく歩いているようで、たまにすれ違う人が膝から崩れ落ちている。何も言葉を交わす事なく歩いていると外へ出た。


「ディラン殿下、勝手に外に出ては…」


「うん…少しなら平気だろ。寒くはないか?」


「あ〜…まぁ少しだけ」


 殿下は手をスィっと横に動かすと温かな空気を纏った様に感じた。


「本当に魔法って便利ですね」


「…そうかもな」


 何だか少し落ち込んでる様に見える。


 ここニ〜三年大陸中で大混乱になっている事を知らなかったから?それとも感情に任せて魔力をダダ漏らしたから?


「ナディア知ってるか?卵が孵るの本当の意味を」



「新しい聖獣が生まれてくる、と言う事でしょうか?」


「まぁそうなんだが…よし。戻ろう」


「は、はい」


何か言いたい事がありそうだけれど、黙って従った。





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