118話
シンと静まりかえる広間。
言いたくない。どう切り抜けようかと考えていた時
「その小僧は1人で流されてたぞ」
後ろ手に縛られたコンラッドさんが答えてくれた。
「俺にはジュードと名乗っていたが、どうやら違うみたいだな」
静かに怒っていらっしゃる。
それはそうね。助けてくれたコンラッドさんを騙していて、そのせいで今こうして罪人扱いされているのだもの。
「コンラッドさんごめんなさい。騙すつもりはなかったのです。実は…」
言葉で説明するより上着を抜いた方が早いわねと思い上着を脱ぐと
「何だ?上着の中に何か…!!」
コンラッドさんは驚いて絶句してしまった。
ええ。そうです。実は女性で殿下の婚約者だったのです。
と言おうと思ったけれど、コンラッドさんの目は私の胸元ではなくお腹に釘付けされている
「お、お、お前…それ…」
勿論私のお腹には馬車から降りる時に、上着の中に入ってしまったぷっぷちゃん。
…そうではないわ。
「コンラッドさん。見ている所が違います。私、実は女性なのです。そしてここにいらっしゃるディラン皇太子殿下の婚約者、シャナルから参りました、ナディア・ド・マイヤーズと申します。この度は助けていただきありがとうございました」
いつにも増して丁寧に貴族令嬢の挨拶をする。
軍服だけど。
きっと観劇だったらジャジャーンと大きな効果音が鳴るシーンよね?と思い顔を上げると、コンラッドさんは取り押さえていた兵士2人を振り切って私に向かってきた。
嘘!?騙したから!?そんなに怒らないで!怖くて動く事も出来ずにいたらスッと目の前に壁が…ではなく殿下の背中に庇われた。
ドカンッと言う音と共に殿下がガッチリ取り押さえてくれた
「おい!兵士!しっかり取り押さえろ!」
そう言って殿下は立ち上がり、コンラッドさんを兵士に放り投げた。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます」
こ、怖かった…殿下が庇ってくれなかったらと思うと、背中にヒヤリとしたものが走る。
再び取り押さえられたコンラッドさん。今度は4人がかりになっている。
ちなみに私の前には殿下、横はセラさんとエアリー、背後にはラッサ大尉。完全に人に埋もれてしまい、コンラッドさん達の誤解を解く事が難しくなってしまった。
しかもコンラッドさん完全なる悪者っぽいわよね。
「ナディア様こちらに」
セラさんに誘導され近くの椅子に座ると殿下が口を開いた
「コンラッド・パーカーだな。噂は聞いている。何故ここに?」
「だーかーらー」
「ですから」
コンラッドさんと私の声が被る。一緒に話しても仕方ないので
「コホン。コンラッドさん、ごめんなさい。ここからは私が説明します」
「え?お前女だったの?何で殿下の横に?」
私がキィーッと怒ったのは仕方ないと思う。
怒りが収まった頃コンラッドさんにはもう一度自己紹介を、殿下達には説明をした。殿下は話を聞いた後
「ふうん、話はわかった。が、解せんな」
どうして?私の説明が足りなかったのかしら?途中からエルドさんやフレデリックさんも助け船を出してくれたのだけれど
「そもそも何故ドレナバルに?元老院辺りから依頼でもあったか?」
「いや、俺はとある国から探し物を頼まれただけだ。パーカー傭兵団と謳ってはいるが、戦だけじゃないからな、引き受けている仕事は」
「戦をしに来た訳ではないと?」
「そうだ」
「あんなに沢山の傭兵を連れて?」
「とりあえず、と言う形で俺一人で潜入していた。一人の方が名前も通っている上、身軽に動けるからな。ただ…ドレナバル帝国もそうだが、この2〜3年大陸中で色々おかしな事が頻発しているのを知ってるか?そこの令嬢出身のシャナルでさえだ」
突然出てきた母国の名前に私は目を見開いた。そうだったかしら?
ただ殿下はフンと鼻を鳴らし
「戦場にいると偏ってはいるが、チラチラと耳には入っている。それで仲間を?」
「あぁ。探し物を見つけても出られないのは勘弁だからな。ただ散らして配置していたハズがこのハイドン村の東門に集結していたのは驚いたがな」
「知らなかった、なんて言う気か?」
「俺の指示は二つ。一つは俺が逃げやすい退路を作る事。もう一つは探し物の情報があれば、とりあえず集めろ。だけだったんだが…」
どうゆう事かしら?コンラッドさんの探し物はハイドン村の、しかも東門付近にあると?それとも誰かに知らず知らずの内に誘導されていたとか?
ラッサ大尉やセラさんも同じように考えていたみたいで、難しい顔をして話を聞いていた
「ただ、早いとこ俺を解放した方がこの村の為だぞ。東門の騒動が酷い事になりそうだったから、既に他の仲間も呼んである」
そう言えば連絡鳥がどうのって言っていたわね。
「まだ解放する訳にはいかんだろ。だいたい探し物はこれからするんじゃないのか?」
呆れたように殿下が言うと
「いや、多分…」
そう言ってコンラッドさんは私を見た。
え!?私?
私を探していたの?
「人の婚約者を見るんじゃない。アレは俺のだ。渡さんぞ」
言葉だけ聞くと熱烈な愛の告白にも聞こえるけれど、この場合きっと意味が違う。殿下に後が無い事を知っている私はちょっとしか胸がときめかない。
ちょっとはときめいたけれど
「ドレナバルの皇太子は頭と身体が弱いと聞いていたが、本当だったんだな。つい先程まではどこからそんなデマがと思っていたが」
鼻で笑いながらコンラッドさんが、いきなり殿下をバカにした。
その場の空気が一気に悪くなり、周りに控えていた兵士達は今にもとび出さんばかりに剣に手をかけている。
いつも読んでくださってい方々ありがとうございます。
何と11日で丸1年経ってしまいました!
だからと言う訳ではないですが、登場人物一覧でも作ろうかなぁと思っております。自分の為に…
近い内です。年内?年度内には。きっと…多分