117話
門をくぐりハイドン村に入る。相変わらず何も無く、所々城壁に何人かかたまり胸壁らしき物を造設していた。
何と言うか、塀だけがどんどんと立派になっている気がする。
少し歩くと馬車と数台の荷馬車が用意されていて、荷馬車にコンラッドさん達が乗せられていた。
「ナディア様はこちらの馬車に。お一人になりますが大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です。ぷっぷちゃんもいますし」
ラッサ大尉に尋ねられたので、胸元からぷっぷちゃんをチラリと見せると
「ぷっ、ぷっぷ殿も一緒だったのですか?」
ギョっとしたラッサ大尉は急いで私を隠す様にして
「ぷっぷ殿はずっとナディア様と一緒だったのですか?川に流された時も?」
「ええ。転がり落ちた時は1人でしたけれど、多分ついて来てくれたみたいで…」
誇らしげに微笑む私と対照的に、ラッサ大尉の眉間には深い皺が寄せられた。
「…とりあえず馬車へどうぞ。中央の本部へ向かいます。御者は私が勤めますので何かあったらお声掛け下さい」
「え、ええ。ありがとう」
何かしら?ラッサ大尉物凄く何か言いたそうだけど…
馬車に乗り1人になった途端とても寂しくなった。ドレナバルへ来る道中ずっと1人だったはずなのに
「ぷっぷ」
胸元からぷっぷちゃんの声が聞こえた
「ごめんねぷっぷちゃん。窮屈だったわよね」
そう言ってぷっぷちゃんを服から出してあげると、嬉しそうに私の膝にうずくまった。可愛い。
ひんやりした重さを膝に感じていると、だんだんと眠気が襲ってきて私はそのまま目を閉じた。
………
さま…
「ナディア様、お休みの所申し訳ありません。到着しましたよ」
パチリ
「…エアリー?」
「はい。そうでございます。エアリーです」
「エアリー!」
思わずガバリと抱きしめてしまう。
「はい。お目覚め早々ですが、到着しましたので参りましょう」
微笑んで返事をしてくれるエアリーに癒される。
それにしてもいつの間にか深く眠っていたようだわ。何か夢を見ていた様な?
「エアリー、アイラさんはどう?毒が全身を巡ったと聞いたのだけど、大丈夫なのかしら?」
馬車を降り、見慣れた中央本部建物前を歩きながら話す。
私達の後ろはラッサ大尉始め、数名の護衛を引き連れてゾロゾロ歩く
「アイラ様はご無事です。丸一日目を覚まされず心配しましたが、今は意識も戻り鍛錬なさろうとされるので、コニーさんとグレタが命懸けで阻止しています」
「ええ?グレタも?大丈夫なのかしら?グレタやウィンディアさんは怪我とかしていない?」
早く皆んなに会いたい
「大丈夫でございますよ。お2人共今は元気になられています」
エアリーは声をワントーン落として答えた
「今は?」
「ええ。ナディア様がいなくなったと知った時、2人共目が血走らせヒステリー状態でしたけど」
エアリーの目が座り始めた
「そ、そうなのね」
やだ。何か怖い。この話はもう切り上げよう。
本部に入ると相変わらず人がゴロゴロ横たわっているのを横目に、真っ直ぐ殿下の元へ向かう。
顔色の悪い兵士が扉の前に立っていて、チラリと横を見るとエアリーもラッサ大尉も少し顔色が悪い。もしかしてダダ漏らしていらっしゃる?と思っていたら
「ナディア!」
!?何故後ろから殿下の声が?と思う間もなくガバリと抱きつかれた。
「グェッ」
「ぷぎっ」
ぷっぷちゃんごと抱きしめられ、まとめて奇声を発してしまう。
「怪我など無いか?」
現在進行形でぷっぷちゃんもろとも死にそうですわ!声も出せないので、首に巻かれた殿下の腕を全力で叩く
「あ、悪い」
「ゼイゼイゼイ…ご、ご心配をおかけしました…」
向き直って言うと
「いや、唆されたか攫われたと聞いて流石に焦った。無事なのだな?」
「その事なのですが、私は誰にも…」
唆されたりなんてと話を続けようとしているのに
「話しはこちらで聞こう。罪人をこちらに」
え?今聞いてきたのは殿下ですよね?酷くないかしら⁈
連れて行かれたのはいつもの部屋ではなく、本部のほぼ中央にある広間だった。部屋の隅で転がっていた兵士達は何事かと起き上がって、整列し始めた。
「ディラン。首謀者だけ連れてきたぞ。流石に全員はいらないよね」
聞き慣れた少し懐かしい声の主はセラさん。
「セラさん!」
良かった。立ち直ったのね、と思って声を掛けた
「ナディア様!ご無事で何よりです」
「え、ええ…セラさんにもご心配おかけして…」
申し訳ないと言いたいけど、セラさんの髪型がそれを許してはくれない。
右耳の後ろから後頭部にかけて光輝いていたハズなのに、多分何かを被っているわよね?
元々セラさんは色素の薄いプラチナブロンドで少し癖っ毛だった。
当たり前だけど、頭の右下半分だけの鬘なんて無いからすっぽり被る鬘しかないのだけど…どうしてひよこのような金髪であんな前髪なのかしら?
「大変だったよね。で?誰に攫われたの?それとも誰かな唆された?」
セラさんまで!
「違いますわ。私は誰にも唆されていないし、攫われてもいないのです!」
私はこの沢山の兵士がいる広間で、再び自分の恥を言わなければいけないのかしら?
何とか避ける事はできないかしら!?