112話
「しかし、フレデリック。お前真面目なヤツだと思っていたが、そうだったんだな…。しかも道ならぬ恋にも程がある。もしドレナバルに居られなくなったら、いつでもウチの傭兵団に来るといい。そうゆうヤツも結構いるから」
コンラッドさんにしみじみと言われ
「ソウデスカ…アリガトウゴザイマス」
諦めたのか、まぁそう言うしかないのだけれど、フレデリックさんに同情を禁じ得ない。
無事ハイドン村へ帰る事ができたら必ず誤解を解いてあげなければ!
それにディラン殿下の件も取り消さないと可哀想過ぎる。頭と身体が弱い上に男色だったなんて噂になったら、他国はもとより国内から総攻撃を受けてしまいそうだわ!
そう決意を新たにしていると
「じゃあまず馬を準備するか」
地図を広げコンラッドさんが言った。
もう今から出発するのかしら?
「全員でハイドン村へ行くとなったら本当は、捕虜を引き渡しに来たとか言って中に入るのが一番なんだが…」
そうよ。そうすれば危ない事もせずにハイドン村には入れる。入ってしまえばきっと何とかなるわ。
「こっちのドレナバル兵は焼き釜馬車を返す気はないだろう。相当気に入ってる。エルドとフレデリックがいなければ不思議とパンは焼けないから、お前ら2人も一緒に帰れない。2人の厚遇ぶりを見たらそれは明らかだ」
あら?そうなの?ラッサ隊の特殊技術、特殊魔術的な何かかしら?
「ただ俺は…フレデリックとジュードを引き離すのは気が引ける!そして2人を見たドレナバルの皇太子がどんな顔をするのか見てみたい!修羅場になったら尚よし!!」
この人最低だわ
ただの野次馬根性でなくって?
「正直言えばエルドは置いて行こうかと思ったけど、焼き釜馬車の無いエルドが酷い目に合うのも気が引けるから、連れて行ってやろう」
残酷な言葉を吐くコンラッドさんの説明に『そんな…』と落ち込んでるエルドさん。
ちっとも同情できないのは、この脱走話をここまでおかしな話にしたのは間違いなくエルドさんだから。
少しは反省して欲しい。
コンラッドさんの説明によると『ここからハイドン村の南門の前で戦っている兵士に美味しいパンの提供をしに行く』と言う大義名分でここを出るとのこと。
ちなみにここはハイドン村から西に行った所、ほぼテオドール村との中間地点だそう。
私かなり流されていたみたいだわ
その後は南門を避け村の東側に行くらしい。
村の東側はちょっとした山になっていて大勢では踏み込めないとか何とか。
コンラッドさんてふざけた人だけれど、地理等も詳しいし、この場ではとても頼りになる人だわ。
大まかな説明をした後、コンラッドさんとエルドさんは中将の所に話をしてくると言って天幕を出た。出る間際『あんまりイチャつくなよ』と言葉を残して
「はあぁ〜」
お腹の底から息を吐いた
コンラッドさんもエルドさんも悪い人ではないけれど、緊張感が漂う。
その点フレデリックさんは安心安全感満載でこんな状況なのにリラックスしてしまう。
と、その時お腹の辺りがモゾリと動いた。
ぷっぷちゃん⁈今は動かないでと言う私の気持ちとは裏腹に
「ぷっぷっぷっ」
と言いながら襟元から無理矢理顔を出してきた
「うわーっ!なっなっ…何ヤツ!?魔物⁈」
フレデリックさんはスラリと剣を抜き、私の首元にいるぷっぷちゃんに斬りかかろうとしてきた
「まっ、待って待って待って!フレデリックさん斬っちゃダメです!」
ボタンがキッチリかかっている為、顔半分しか出せないぷっぷちゃんを庇う様に背中を向けた。
「何言ってるんですか!?何でナディア様の服の中から⁈」
パニックに陥っているフレデリックさんを宥めながら、胸元のボタンを外しぷっぷちゃんに出てきてもらう。
いつもの様に私の肩に前足を乗せぐるりと首に巻きつき…あら?また少し大きくなった?
「なっなっなっ……何ですかー!?」
「シー!声大きいです」
思わず言うと
「あっ!…うっ!いやっ、でも…」
しどろもどろなフレデリックさん
「この子はぷっぷちゃんと言ってですね…」
私はぷっぷちゃんとの出会いから、ここに至る話をドラマチックに事細かに説明した
「…どう考えてもおかしな生き物ですよね?」
「は?どこがですの?」
「いやいや、足の裏が赤くて明らかに魔物ですよ。何で魔力の無いナディア様と従魔の契約なんて…」
「ですから魔物じゃないですよ。聖なる泉で泳いでいたのですから」
「やっぱりおかしな生き物じゃないですかっ」
「おかしくはなくてよ。普通のトカゲ的な、ドレナバルにしか生息していない生物とか?」
「ドレナバルにいませんよ。そんな羽の生えたトカゲなんて。しかもよく見ると産毛生えてるしっ」
「ぷっぷ」
「ホラ。鳴き声も変ですって!」
「ちょっと失礼じゃなくて?」
段々と腹が立ってきた。こんな可愛いらしいぷっぷちゃんを変だなんて!
「そもそも今の話じゃ急流を流されたナディア様を、この小さなトカゲが追うなんて魔物以外何者でも…」
外から大きな声が聞こえてきた
大変だわ。コンラッドさん達帰ってきた!?
慌ててぷっぷちゃんを服の中に隠しているとバサリと天幕が開いた。
咄嗟にフレデリックさんが私を覆う様に隠してくれなければ、ぷっぷちゃんが見つかる所だった。急いでボタンをキッチリ閉めていると
「今帰ったぞっ…て、はぁ…お前ら時と場所選べよ。こんな所で盛るんじゃねぇよ」
!!!!