110話
あまり身体も心も休める事もできずに朝になった。
ウィンディアさんは初めて会った時の様にパリっとした美人になった。犬もガルガル言ってやる気満々なよう。
私は昨晩の様にフラつく事も無く、身体も軽い。コレが魔力満タンの状態ってことかしら?
しばらくすると鳥が戻ってきた
「おかえり」
ウィンディアさんが声をかけると、クエーと一鳴きした後火を吹いた。鳥も元気そうで何よりだ。
その鳥を追いかける様に土埃を上げながら馬車が一台やってくる。
あれは…棺桶馬車?手綱を引いているのは…確かショーンさん?私達の所で馬車は止まるや否や中からものすごい勢いで扉が開いた
「アイラ!大丈夫⁈」
「グレタ!ナディア様見つかった⁈」
降りた瞬間からうるさい!
「やかましい!怪我人が寝とる」
「「すみません」」
ウィンディアさんが一発で黙らせた後
「アイラの治療は済ませた。けど、毒が一度全身を巡っている。しばらくは休養させないと」
「解毒は?」
コニーさんが心配気に聞くと
「グレタが概ねやってくれたからね。大事には至らなかった。本当良かった」
その後事の経緯を3人に説明すると
「でしたらこの魔道具が役に立つかも知れません」
とショーンさんは持って来ていた箱の中から四角い石を取り出した。
「この魔道具は『家畜探索装置』と言いまして、元々行方不明になった家畜を探す為に作られた物なのですが、探す家畜の大体の大きさを登録して発動させると、直径1キロメルトンの範囲で探索するんです。魔力の無いナディア様を探すのに打って付けではないかと…」
「ナディアちゃん家畜扱い?」
それまで黙って聞いていたコニーさんが口を挟んだ。別にそれはいいけど、何か目が据わってない?
「いや、家畜扱いした訳じゃなくて、そのっ、魔力の無いナディア様を、魔法があまり使えないあの雑木林で探すには人が足りなくてですね…ってそんな目で見ないでくださいよっ!」
「こんな目で見たくもなるでしょ。アタシの可愛いナディアちゃんを家畜と同類にするなんて。その魔道具の名前は今度から『生き物探索装置』ね。さぁ、話の続きをして頂戴」
「は?いや、いえ…わかりました。使い方は…」
ショーンさん最後はコニーさんに気圧されたらしい。それにしても殿下はショーンさんにナディア様の事を話されたのね。
まぁ、言わない訳にもいかないわよね。その後アイラさんを棺桶馬車に移し、再び雑木林に足を入れる。
私が乗ってきた馬車はコニーさんが御者台に乗ってくれた。私じゃ心ともないらしい。
雑木林に入った所で魔道具を発動させ、いなければ先に進むを繰り返し、泉の手前で再び魔道具を発動させた。石に丸い光が8個程あった。
「これはマリアンナさんの家族と、泉に放り込まれた魔法使いで間違いないか?」
ショーンさんに聞かれたけれど
「多分…でも人数と個数が合いません」
あの場に人間は12人いたもの。
「あぁ、それは多分小さい子供が反映されていないのでしょう。体重30キログラムンからに設定しましたから」
なるほど。
その後また少しずつ場所を移動しながら探索を進めた。
するとやっぱり気になってくるのがウィンディアさんの小皺。
少しの魔力しか使わない魔道具でも、回数をこなしこの場所で魔力の回復はほとんどできないから、ウィンディアさんが少しずつ老けてくる。誰もそんな事は口にしないけれど。
途中セダンさんらしき光を一つ見つけた以外、光は全く見当たらない。この雑木林他に生き物はいないの⁈
段々とみんなが焦って来ているのがわかる。
ナディア様の足ではそんなに遠くへ行けないだろうと踏んでいたので、雑木林が途切れた時、全員愕然とするしかなかった
「ナ、ナディア様うっかり雑木林を抜けてしまった事に気づかなかったなんて事は…」
エアリーが顔を青ざめさせ言うと、ショーンさんが
「いくら夜中でも林の中か、そうじゃないか位分からないなんて無いでしょう?」
「そりゃあいくらなんでも、なぁ?」
大分老けたウィンディアさんが続けた。
私は何も言わずにコニーさんとエアリーをチラ見すると、目が合って首を振られた。何も言うなって事よね?
ショーンさんもウィンディアさんもナディア様の事をさほど知っている訳じゃない。どうしよう…
「となると敵は他にもいて攫われたと考えるのが妥当かと…」
ショーンさんが呟く様に言う。
捜索が打ち切りになってしまうかもしれない。もうちょっと探したらいるかもしれないのに…
でも自分の主人はウッカリ雑木林を抜けてしまう事もありえるとか言いたくない。
ショーンさんとウィンディアさんが今後どうするか話し合っていると
「あっ!」
エアリーが突然声を上げた
「何じゃエアリー?何か見つけたか?」
ウィンディアさんに聞かれ
「いえ、ナディア様帽子を被ってます。私とグレタで守護の図柄の刺繍を施した帽子を被っているのです。魔力も込められているので、ソレで魔力探知とかできませんか?」
「できますよ。魔力探知機を使った方が精度も良いですし、範囲も広くできる。早速やってみましょう」
ショーンさんは言いながら箱を漁り、平べったい赤い石を取り出した。
ウィンディアさんに魔力を込めてもらい発動するも
「いな…い?」
雑木林も含めその周辺も探索したけれど、マリアンナさん家族と魔法使い以外の魔力は何一つ無かった。
「壊れてるんじゃない?この魔道具。これじゃ少しくらいいるはずの魔物すらいない事になるじゃない!」
コニーさんが半ばキレながら言うと
「失礼な事言わないで下さい!手入れはいつもしている。万全の状態で…」
ショーンさんが反論するけど、被せる様にウィンディアさんが
「帰るぞ。殿下の指示を仰ごう。泉の周辺を魔物がうろつく事はない。ここにナディア様はいない」