102話
このまま何もないこの場にいるのも得策ではないけれど、何故私達の居場所がバレたのかが分からなければ動き様がない。
私達もマリアンナさんの家族も言葉に詰まっていると、グルグル巻きの魔法使い達がモゾモゾと動き出した。
「チッ!もう気づいたのか」
アイラさんは蹴り上げ、もう一度気絶させていた
「魔法使い相手に下手な魔法使うと返り討ちにあうからね。物理攻撃が1番なんだ。今目覚められて仲間に知らされたり、呼ばれたりするのはゴメンだし」
…魔法使い…
「アイラさん…泉に行くのはどうですか?」
「泉?」
「魔法使いはあの泉ダメなのでしょう?それならとりあえずの避難場所として」
アイラさんは少し考えてからニィと笑い
「ナディア、やるじゃん」
私達は場所を移すべく役割分担を決めた。
アイラさんは先頭に立って何かあった時に戦える様に
その後ろを私、マリアンナさんのご主人セダンさんとそのお父さんドランさんが魔法使いをそれぞれ担ぎ歩く。
長老のお婆さんや子供達はその後ろを、赤ん坊を抱いているのはマリアンナさんのお義母さんエスラーさん。
最後にグレタとマリアンナさん。
マリアンナさんは聞けば昔ギルドに入っていた冒険者だったとか
「冒険者ってカッコイイですよね!」
「そんないいモンじゃないよ。昔の話だし、下っ端だったから。でも子供達や家族を守る為ならね!」
グレタとマリアンナさんの会話はこの場を和ませる。後ろはいいなぁ
「ア、アイラ殿!少しスピードを落としてくれませんか?ち、父が…」
こちらは体力の無い私の後ろに、魔法使いを担いだセダンさんとドランさんがが目を血走らせゼイゼイ言いながら歩いている。
「ううっセダンよ…も、もうダメだ」
「と、父さん!」
「さっさと歩け!バカ息子。後ろが詰まっとる」
お婆ちゃんも加わって、親子孫の茶番が延々と続いている。
「あぁ〜息子よ、孫よ…ワシの腰が…」
「「ばぁちゃん!!」」
茶番が終盤に差し掛かった頃、あの幻想的な景色が見えてきた。
ホゥ…思わず息が漏れる
東の空が少しずつ色を持ち始め、夜とは違う景色が始まる。
ふわふわと飛んでいた虫達は少しずつ色付き、うっすら光っていた様に感じた泉は、次第に透明感を醸し夜ともまた違う神秘を感じさせる。
泉の淵に魔法使いを転がし、近くで腰を落とし休んでいると
「アタシ馬車と馬を回収してこようかと思ってるんだけど…」
う〜ん…と周りを見回しながらアイラさんがチラリと私を見た
何かしら?
「やっぱナディア連れて行くわ。本音を言えば置いてった方がアタシもナディアも楽なんだけど、流石にねぇ…」
アイラさん?今、足手まといって言いましたわよね?
「私大人しくここで留守番してますわ。アイラさんの足手まといにはなりません」
「あははっ。流石に気がついたんだね。でも連れて行くよ」
「何故ですの?時間だって倍くらいかかりますわ」
正直言えば私もこれ以上動きたくない。
ここで皆んなと休んでいたい
「ここでは魔法使いは敵じゃない。けど、普通に兵士が来たら、ここにいたらひとたまりもない。アタシがナディアを連れて歩くのが一番の安全確保だと思うんだ」
雑木林に入ると魔力を吸い取られてしまうウィンディアさんと従魔達。
雑木林の入り口に置いてきたので、この場でまともに戦えるのはアイラさんしかいない。
馬車の位置を口で説明するのも難しいから、マリアンナさん一家の誰かに行ってもらう事もできない。
そうゆう事ならば仕方ないと思い、腰をあげようとしたところ
「では、私が馬車を取りに行くのはどうでしょう?馬車の操作出来る人を誰か連れて行けば問題ないと思うのですが」
「そうか。グレタなら馬車の位置を知ってるか…誰か馬車動かせる人は…」
アイラさんが見回すと
「じゃあ俺が行く」
セダンさんが名乗りを上げてくれた
「じゃあグレタ、セダン殿よろしく頼むよ」
「はい。任せて下さい」
「おうよ!」
2人を見送った後、私達はその場で座って休む事にした。
心なしか皆んな無口なのは、やはりこの場の居心地があまり良くないのかもしれない。
ドレナバル人は多かれ少なかれ皆んな魔力があると言うし。
時折魔法使いの意識が戻る度にアイラさんが蹴り飛ばしに行くが、段々それも辛そうに見える。
アイラさんは主に剣を扱い戦っているけれど、攻撃魔法は得意そうですもの。
日は昇り切り久しぶりの太陽を感じていると、ドランさんが隣に腰をかけた。
「ナディア様は違う国から来たと聞いた。この国はどうですか?」
突然話し掛けられ驚きはしたものの
「とても良い国だと思います」
とりあえず当たり障りなく答えておこう
「母国で戦などは?」
「シャナル王国と言う所から来たのですが、のんびりとした国でしたので…」
「戦とは無縁だったのですね。羨ましい限りだ」
「そう…ですね…」
何が言いたいのかしら?
「ドレナバルはまぁ地理的なものもあるのですが、昔から戦の絶えない国でね。魔力を持つ者が殆どだから狙われているのですよ」
…それは国土ではなく人がと言う事かしら?
「俺達は国同士の難しい事は分からんのですが、どの国になろうが家族元気に暮らしていければそれでいい」
「そうなのですね」
確かに市民にとって平和に暮らしていければ、それがドレナバルであろうとイグリッチやポストナーであろうとあまり関係ないのかもしれない。
よじ登って私の肩にきたぷっぷちゃんの下顎を指で撫でながらそう答えた。
「だからナディア様、申し訳ない」
「ナディア!」
「ドラン!」
気を抜いていたのは確かだ。
だってこのご家族は皆んな良い人達だと思っていたから。
気が付けばドランさんの腕は私の首に回され、反対の手で首にナイフを当てられていた