転生したら魔王だったので、どうやって世界を滅ぼそうか考えていたら、勝手に人類が滅びていた。
設定はガバガバです。
こんな時期なのであえて書きました。
私は、会社帰りに猫を助けようとして車に跳ねられて死んだ。
そしたら、真っ白い空間にポツンと立っていて、なんだか声だけが聞こえてきた。
本来、貴女はこのタイミングで死ぬはずじゃなかった。
他の世界ではあるが、転生させてくれるという。
きっと神なのだろう。
若干オタクチックなところもあり、転生にあこがれていたのもあって、清く了承。
私は、異世界に赴くことになったのだった。
で、目が覚めたとこは薄暗いながらも大変豪華な作りの寝室だった。
お城かな?
ダークな感覚が中二病心をくすぐる。
「お目覚めですか、魔王様」
「魔王?」
「はい、久々のお目覚めですが、調子はいかがでしょうか?」
ベッドから起き上がると、そこには灰色の肌で、角の生えた黒髪ロングのメイドがいた。
「えーと…体は何ともないけど、私魔王なの?」
「はい、魔王様です。300年ぶりの復活ですが」
「あ、そうなのね?鏡ある?」
「はい、こちらをどうぞ」
覗いてみると、メイドさんと同じ肌の色の自分がいた。
てか女でも魔王なんだ…おー角がある。
「状況は理解したけれど、私は何をすればいいの?」
「魔王様が復活されたことで、魔族やモンスターたちがすでに忠誠を誓っております。魔王様にはぜひ我々を害する人類に、正義の鉄槌を下していただきたいのです」
ふむふむ、まさに魔王だな。
あれだ、魔族やモンスターたちに指示を出して、人間界を混乱の渦に叩き落し、勇者に倒されるやつだな?
「前回の魔王はどうなったの?」
「人間どもが勇者や聖女なる特殊能力を使う者をあつめ、魔王様を直接封印しました」
「"封印"なんだ…なるほど」
ほとんどゲームの世界だな。
なら折角転生して魔王なんだし、ゲーム感覚でいっちょ人類滅ぼしてみるか。
「あなた、名前は?」
「魔王様付筆頭メイドのイドです」
「なんと安易な名前…わかった、イドちゃん申し訳ないけど、世界地図と人類の文化レベルを知りたいので情報を頂戴」
「わかりました、では執務室へお持ちいたしますのでこちらにお着替え下さい」
もらった服に着替えると、まぁ軍ゴスって感じの服装だった。
いやー好き。かっこいい。
しかもスカートじゃなくてキュロットなのね。そして黒タイツにマント、そして白手袋。
いいじゃん。
知らないはずの執務室にすんなりと到着。
これが魔王としての資質か?とりあえず世界地図を見せてもらう。
うーん、地球と南北が逆なイメージだなちょっと形状が違うが。
「魔王様、現在の人類の文明について記録映像がありますのでご覧ください」
映像あるんだ。
ん?それDVDじゃね?
「人類はここ100年ほどで2回、人類同士の戦いをしておりますが、特にここ50年で急速に文明が発展しておりまして、前回魔王様が封印されてから200年ほど後に、人類は鉄の翼の竜を飛ばし、我が魔王城より巨大な鉄の舩を浮かべ、鋼鉄の馬が引かぬ乗り物にて戦を行うような種族となりました」
映像を見ていると、どこぞの軍事演習の映像だな。
スマホあんじゃん。
あれ、もしかして魔王の国文化レベル低い?
「この映像はどうやって撮ったの?」
「魔族の中でも最も人間に見た目が近いサキュバスやインキュバスが人間社会に紛れ込み箱に映し出される映像を録画?しました。今も彼らは内部工作のために人類と共に生活しています」
「そうなのね…ふーむ。私が目覚める前の世界とレベルが同じだなぁ飛行機に戦車に空母打撃群か…これはモンスターたちが忠誠を誓ってくれていても、我々の戦力は絶望的では?」
「はい、すでにオークやコボルト、ゴブリンなどの人型のモンスターは絶滅いたしました。今残っているのはスケルトンやゴーストといったアンデット、スライムやクラーケンなど人類の目につかぬところに生きているもの達だけです」
…これはUMAレベルだな。
ヘタすると前世のUMAも、そんなレベルだったのかもしれない。
「ちょっと、私でも読めそうな人類の学校の教科書を入手できないかな?参考書でもいいよ」
「わかりました。魔王様ならば、どんな言語も読めると思いますので、最新のものを取り寄せるよう指示します」
「そういえば、この魔王城ってどこにあるの?」
「こちらです」
どう見ても何もない海の上です。有難うございました。
この魔王城、はっきり言って島だった。
島の中をくりぬいて作ってある感じ。
もしかしたら、どこかの国が領有権を主張しているかもしれない。
ただし、最も近い陸地までかなりの距離がある。
お城の中を探検してみたが、広いし部屋数は多いが、まぁさびれている。
数名メイドや従者はいたが、閑散としている。
ただ、この退廃的な雰囲気はいいね。
探検するうちに地下闘技場が有ったので、自分はどんな技が使えるのかな?と試してみたところ、イメージできる魔法のようなものが使えた。
火の玉を竜巻でぐるぐるしたり、重力を操作?して目標物を圧壊してみたり、激流を出してみたり。
ただ、自分が目視できないところで魔法は発動できないらしい。
あと、飛べた。羽が出てきたよ。
ただなぁ、この戦闘力で人類を蹂躙できるかというと、攻撃目標としての私が小さいこと以外メリットがない。
これでも多少はミリオタの端くれだったので、人類文明の映像を見る限り取れる手段なんて限られる。
モンスターや魔物が謁見したいというので謁見の間であってみたけれど、自分たちが肩身の狭い思いをしない様に、是非人間を倒してほしいとのこと。
まぁそうだよね。悲願だよね。
太陽の下を歩きたいよね?アンデットはそれでいいのか?
頼んでいた教科書が届いた。
運よく日本語である。良かった読める。
あーもう原子力発電があるじゃんよ。原爆があるってことはもう水爆もあるな。
だいたい前世の世界史の中身と同じだわ。
たまに魔王とかモンスターの名が出てくるが、今はほぼ絶滅しており、コボルトにいたっては動物園で見られるそうだ。
野生のコボルトは1913年に絶滅したと言われているそうだ…かわいそうに…
そして案の定、環境破壊など人類そのものの活動で、地球環境が劇的に変化し始めているとのこと。
これあれじゃね?30年ぐらいほっとけば人類滅ぶんじゃね?
メイドのイドちゃんに身だしなみを整えてもらいながら読んだ社会の教科書の結果、ヘタなことしないほうが勝手に自滅するのではという結論に至った。
問題はそんな悠長なことしていると、今度はスライムちゃんやアンデットちゃん達まで滅んでしまいそうな事。
人類を滅ぼすだけなら、世界各国の原子力設備に向かって重量魔法でもぶっぱなしまくって移動を続ければいい気もするけど、それこそ地球の環境が終わってしまうわよね…
なんて考えていたら、人類が戦争を始めてしまった。
私は慌てて魔族たちに指示を出し、魔王城への避難を開始させる。
人類社会に溶け込んでいた魔族たちも含め、どこにいたのかドラゴンやグリフォンを使って続々と帰還を始める。
ただし、その数は少ない。
あー本当の滅びゆく種族だったんだなぁ。
サキュバスやインキュバスの中には、人類との間に子がいる者もおり、全員が避難とはならなかった。
あと、スライムやアンデットは、今の場所で何とか生きていくという。
まぁ大量来られても困るのだが…
イドと同じ種族である魔族たちが、ほぼ城に戻ることとなる。
割と魔王に近い種族なんだろうな。今の私とも見た目が似ている。
人類が戦争を始めてから10日後、一発の核ミサイルが落ちた。
「イドちゃんや、こらー人類終わりだわ」
「そうなのですか?」
「うん、これは泥沼?だ。ところで、魔族って寿命どんぐらい?」
「平均寿命で500歳程度ですね」
「じゃぁ何とかなるかなぁ」
魔族は長寿だな。
核戦争になってもしばらく耐え忍べば地上に出られるかもな。
500年程度じゃ半減期なんてたかが知れているけれど、文明が崩壊した人類が500年も生き残れるわけもない。
城の中で育つ作物などを試しながら、戻ってきた100名ちょっとの魔族たちで生活を始める。
しばらく内政だなぁ。
ある意味、牧歌的でとてもスローライフなんだけどさ。
魔王だけど暇なので、みんなと畑を耕してみたり、作物を試しに植えてみたり、鶏を育て卵をもらい、塩は海水から作る。
一応鑑定魔法みたいなことをして放射性濃度を測定。
安全なものが使えるように配慮する。
海底下に向けて島の拡張工事を行いながら、徐々に整備が整っていく。
輸送に役立ったドラゴンやグリフォンも数自体は多くなく、地下闘技場で放し飼いである。
そういえば、こんな風に地下に逃れて生き残り、冷凍睡眠から目覚めて荒廃した世界を冒険するゲームがあったなぁなんて思ったりもした。
1年が過ぎた。
停戦という概念が崩壊した世界が広がっている。
国家がもう体を成していないのだろう。人々は憎しみだけで戦っているのかも知れない。
この1年間で魔族の子供は生まれていない。
どうやって子供が生まれるのかと思ったが、何のことはない普通に有性生殖だったのだが、まぁ受精しないようだ。
長寿命だから当たり前かもしれない。
そもそも、この1年あの日に悩まされてないしな…イドに聞いたら、そもそも10年に1度あるかないかだそうだ。
これは一度減ると増えないわね。
ちなみに、モンスターでよく増えるやつがいる。
スライムだ。
日に当てたり、ごみを食べさせたりするだけで増える。
半透明の生き物なので興味本位で鑑定したところ、栄養価が高かった。
これは日常食になりそうだ。
鶏の飼育も限界があり卵も肉も超高級品のため、人工的に増やしたスライムが食べられれば、それに越したことはないかもしれない。
試行錯誤の末、スライムステーキが完成した。
魔族ってご飯もそんなにいらないのね。
スライム1食で1ヶ月は持つ。
おかげで、キノコぐらいしか育たなかったこの地下で、おいしいものが食べられるようになった。
意外とちゃんとお肉である。
生きているときは半透明なくせに、火を通すとちゃんと肉っぽくなるもんなのだ。
あと、王城の地上部分は改築して、憩いの場にしてみた。
流石にずっと太陽が見えないのはつらい。
窓に当たる部分を城の工房で作った高強度ガラス張りにしたことで、日の光を浴びられる。
魔族は太陽に苦手意識はない。
それにしても、550歳ぐらいだという魔族と謁見したが、見た目はえらい若かった。
こいつら年取らないんじゃないだろうか?
あれから5年がたった。
人類の戦火はほとんど止んでいるようだ。
何もしなくても人類が滅んでしまった。
ただ、放射性物質や細菌兵器、化学兵器による汚染など、地球の環境は最悪と言っていい状態になっている。
それでも一部の生物は生き残っている。
地上にはほぼいないかもしれないが、海底には結構な種類の生き物がいるものだ。
このところ、私は自分の目でこの世界を見てみたいと思い、バリアを張りながら空を飛んで視察している。
たまに人間たちの集落が見えるが、大きな町はもうない。
いたるところが死の灰で汚染され、人が安心して住めるところはいくばくも残っていないのではないだろうか?
わざわざ私が殺すこともないレベルなので、見るだけで放置である。
地球の環境が自力で復活できるのか観察してみたいと思う。
あれから50年がたった。
人類文明は20年前に終わりを迎えた。
汚染による寿命の短縮、環境破壊が進んだことによる天変地異に勝てず、仮に残っていても、絶滅危惧種であろう。
村のようなものも少しできていたが、30年もたなかったようだ。
逆に、植物たちの生命力の強さが目立つ。
汚染された土地でも彼らはしっかりと根付き、だれにも邪魔をされることなく生を謳歌している。
最近は、飛べるようになったイドと一緒に地球を散策している。
他の魔族達は好き好んで今の地球を見たいとは思っていないようで、城からは出ない。
50年も連れ添ったせいか、私はイドを全面的に信頼しているし、イドも信頼してくれている。
いまや夫婦と言っていい阿吽の呼吸である。
女の子同士なんだけどな…まぁいいか。
「こうして人類が滅亡したのは、結局なにが原因だったんでしょうか」
たまにイドはこんな質問をしてくる。
「そうねぇ欲望の暴走じゃないかな?利ばかりを追い求め、自分が正しいと思うもの以外を悪とし、いがみ合い、互いに疑心暗鬼が募り、自滅した。きっとそんな感じ」
「愚かですね…」
「きっと300年前までは魔王なり魔族なりがいたから人類はまとまれたんだよ。
それが、進歩を進化とはき違えて地球をコントロールできるとおごり高ぶって、自分たちの生存権を自分たちで放棄した。ある意味私が復活しなかったのが人類が滅んだ本当の理由だったりしてね」
「…そうかもしれませんね」
魔王は私が復活するまでは50~100年に一回は復活していたんだそうだ。
そのたびに、魔王軍と人類は戦いを繰り返していた。
魔王軍との戦いが文明を発展させ、科学技術を進歩させたのに、その”敵”がしばらく現れなかったことが、ある意味で人類滅亡の引き金だったんだと思う。
私はこの世界では魔王だ。
伴侶にできる人も見つけた。
人類が滅んだことで私を倒す存在も現れることはないだろう。
私が率いる魔族たちも、数百年後には地上にでて、新たな環境になった地球で過ごせるように、今はゆっくりとスローライフができればよいなぁと思っている。
おしまい
スローライフしたい。
この世界でのスライムは、ある意味人工肉。又はミドリムシ。