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第372話 あり得た未来の報告書③

 続く発言を受け、にわかに騒然となる場内だが、あまり希望を持てる話ではないというのは、考えればすぐにわかることであった。

 話の流れ、雰囲気から、勝てていないことが明白だからだ。

 そういった現実について、リズは努めて落ち着いた口調で語っていく。


「端的に申し上げますと、個としての武力では太刀打ちできない印象です。それでも何度か、挑みかかりはしたのですが……時間を置くと、より一層に強くなっているように感じます」


 この情報に大きなどよめきが生じた。このままでは勝てないとラヴェリア王家の一員が口にし、その上、放っておくとさらに旗色が悪くなると言っているのだ。

「そんなバカな」と声を荒らげたくもなる状況である。


「――ご存じの方もおられるかもしれませんが、過去にあの大魔王がこの世を侵略した際、実際に侵略行為を働いたのは大魔王の分身体でした。分身体の方が、こちらの世界の魔力を、うまく取り込みやすいという話ですが……」


 どこからそんな話をと、目を丸くする者もいれば、ある程度は言い伝えられているらしき者も。

 そんな中、《時の夢(クロノメア)》を知っていた、魔法大国の王子が再び手を挙げた。


「もしや……ヴィシオスがかき集めているという魔導石は、そのために?」


 この閃きに感嘆の念と、同志として喜ばしいものを覚え、リズは少し力強くうなずいた。


「さすがに、相手方の核心に迫る事項だけに、確証には至っていませんが……そう判断できるだけの状況証拠はあります」


 ヴィシオス王城内へ運び込まれる魔導石は、大半が玉座の間の直下に置かれる。このことは荷運び要員の人間から聞き出した情報であり、過去のリズ自身、そうした人員を装って確認までしている。

 また、貯蔵庫近くには何らかの魔法陣らしき気配もあった。玉座で戦闘した際には、下方から魔力が注ぎこまれる感覚があったという記述も。

 放っておけば、さらに手が付けられなくなる可能性が高い――そんな新事実を耳に、権力者たちが黙っていられるはずもなく、さっそく意見が一つ上がった。


「エリザベータ王女一人では無理でも、他に何人も同時に挑むことができれば……」


 しかし、リズは首を横に振った。自分以外も犠牲にするような手は、ほとんど試してこなかったのだが……この案を否定するような状況に出くわしたことはある。


「敵幹部を釣り出した際、戦闘が大規模になったケースがありました。我々からも相応の猛者が幾人も参戦していたのですが……敵の転移能力により、戦力を分断される事態となりました」


「転移で分断とは……! こちらの意志に関わらず飛ばされたと?」


「はい。加えて、敵幹部の中には、かなりの広範囲をこちらに気取らせずに探知する魔族がいます。十分に練られた包囲戦も、結局は動向を敵に押さえられる可能性が高く、戦力の集中は妨害されるものと考えます」


 この、転移で飛ばしてくる奴というのは、実際には一人しか職認できていない。

 すなわち、心まで読んでくる、ヴィクトリクスである。

 だが、この場では彼の存在について、具体的なものは伏せておくことにした。彼の存在を知っていることが敵方に知れれば、最後の詰めに支障が出る恐れがあるからだ。


 戦力結集にも意味がない可能性が高いとなり、場はすっかり暗いものに。

 そんな中、リズは淡々とこれまでのまとめに入った。


 まず、当初の予定通りに長期戦志向でいく場合。当初の想定になかった食糧不足が進軍を遅らせ、作戦の長期化が様々なリスクを一層に高めることになるだろう。

 一方で、短期決戦について。敵幹部を減らすのは、ある程度殺したところで補充され、そのうち挑発にも乗ってこなくなる。結局のところ、より重要度の高い幹部は、釣り出されることもない。

 では、大魔王を狙えばいいかと言うと……彼一人殺したとして、それで戦乱が落ち着く保証はないのだが、相当の効果は見込めるだろう。

 しかしながら、個の戦闘力ではリズでも(かな)わない。かといって多人数で挑もうにも分断の可能性が高い。

 そして、時間を置けば、大魔王は今以上に勝手に強くなっていく。


 改めてのまとめが、現状の厳しさを伝える追い打ちになったらしい。リズは視線を巡らせたが、参席者のため息が幻聴となって内に響くほどだ。

 しかし、彼女は自分もため息一つついた後、少し表情を柔らかくし、気持ち大きめに声を上げた。


「ここまで色々と申し上げましたが、私はあくまで楽観的に考えています。結局のところ、我々の先祖は以前の戦いを制しています。我々も、時間をかけて同じ未来を辿ることになるでしょう。大魔王が強くなっていくにしても、限度はあるものと思います」


 とはいえ、そういった未来を目にしたというわけではない。いつ来るかもわからない未来を待つには、普通に生きても寿命が足りはしないだろう。


「問題は、いずれ勝つというその時が、いつになるのかということです。少なくとも、現状のままでは、我々が生きている間にそれが成るとは考えにくいかと」


「では……早期決着は諦め、最初からそのつもりで事に臨むべきと?」


「それも一つの道と考えます」


 含みのある発言に、場が少しざわついていく。

 ここまでの話は、あくまで議論の前提でしかない。リズが本命と考えている、提案したい主旨はここからだ。


「早期決着を阻む最大の要因は、個の力ではロドキエルに敵わないところにあります。ここをどうにかできれば話はシンプルです」


「いや、しかし……今からいきなり強くなるというのも、無理があるのでは?」


 と、ここで別軸の道を示されたことで、閃くものがあったと見える参席者がチラホラと。

 とはいえ、かなりためらいがちではあったが……一人が手を挙げた。


「王女殿下の負担になることは承知の上で申し上げるが……その《時の夢》とやらで時間を巻き戻す中、何かしらの魔法――禁呪などを、新たに習得することは、可能だろうか?」


 これに、若干のどよめきが生じる。リズ自身、そういった可能性を考えはした。《時の夢》の存在を知らされて少しの間に思いつくだけでも、立派なものである。

 だが……リズに代わり、これを否定する声が上がった。再び、魔法大国の王子である。


「おそらく……それは難しいのではないでしょうか。魔法一つを取り上げても、『知っている』ことと『使える』ことの間には、その時にならなければわからない隔たりがあります。《時の夢》で知識を持ち帰ることはできても、体に染み付かせる程の鍛錬の経験までは、持ち帰るのは難しいのではないかと思いますが……」


 実に説得力のある発言に、先の発言者は自身の発言を恥じ入るように押し黙った。

 実際、王子の言うとおりであった。発案者へのフォローも兼ね、リズは実情について打ち明けていく。


「おっしゃる通りです。過去の自分たちも、そういった事は検証してみたのですが……新たな魔法を知識として蓄えることは、不可能ではありません。ですが、実戦レベルの、それこそ体が勝手に動くような習熟までは、引き継ぐことができませんでした」


 とはいえ、時を巻き戻す過程で、新たな力を得ることは可能だった。

 ただし……かなり危険なアイデアでもある。この場の面々を信じるとして、打ち明けるべきか否か。

 悩んだリズは、結局、それを打ち明けることにした。


「知識がそのまま力になる分野も存在します。魔道具の研究開発です」

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