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第250話 敵船制圧

 侵入を果たした敵船の制圧にあたり、リズは最初の攻略目標を提示した。


『まずは、通信室を潰したいわね』


『それっぽいのは見当がついてるが……』


『マルクさん、さっすが』


『助かるわ』


 さすがに、こういう事に慣れた様子のマルクに、リズは微笑を向けたが……


『あまり確証はないな』


『それでもいいわ。私の権限で仕掛けます』


 ためらいを見せずに宣言する彼女に、一行は真剣な眼差(まなざ)しを向けてうなずいた。


 見当がついたという部屋を前に、それぞれが配置についていく。ドアを開けるのはリズ。他の四人は部屋からかなり離れ、壁に身を寄せて張り付く格好に。闇に紛れて様子をうかがう。

 目標の部屋にいるのは一人だ。手練五人の目が、そう見抜いている。


 そこで、まずはリズが動き出した。ドアに無音で近づき、壁に張り付きつつノック。

 中からは「どうした?」という声。やはり一人らしい。透視した視野の中で彼の魔力が立ち上がり、通路へと近づいてくる。

 そして、カチリとドアを開ける音。その後、彼はドアを開けて通路に姿を表し――

 彼に五本の《貫徹の矢(ペネトレイター)》が襲いかかった。一本は(のど)、四本は四肢へ。

 急襲に、彼は声を上げることもままならず、その場に倒れていく。そこへリズがすかさず彼の腕を(つか)み、支えながらも静かに床へ押し付け、組み伏せた。


 彼女の動きに合わせ、残る四人が目標の部屋へ。

 予想通り、部屋は通信室だった。彼らも見たことがあるものに近い、超遠距離通信用の魔道具が据え付けられている。

 そして、極めて価値が大きいと思われる、様々な書類を納めた本棚も。


――おそらく、彼ら襲撃者たちのこれまでの所業を収めたものもあることだろう。


 この時点で、すでに意義ある逆侵入となったが、作戦としてはまだまだ途上である。

 まずは組み伏せた敵を無力化するため、他の人員が手際よく処置していく。両手両足を縛り、近くの待機室らしき部屋へ。口には猿ぐつわを噛ませておく。

 喉を撃たれた彼は、声を出すことはできないようだが、どうにか呼吸だけはできるらしい。情報源としての価値を考えれば、あまり殺したくはない。心情的な理由も若干あって、命に別状がないのは幸いであった。

 ただし、正規の通信士がこうなっては、背景組織からの通信を受けた際に対応できないのだが……何かあったと思われるだけで、事の真相にまでは至らないだろう。

 それを知らせる手段が、こちらの手に落ちているのだから。

 通信室をうまく使えば、色々とできることもあるだろうが、まずは制圧を進めることだ。


 続いて掌握すべきは、船を駆動させる中枢部。ここで何かあっては、関わる敵味方を問わず悲劇的な自体に陥る。

 通信室を攻略したものの、一行はより一層に気を引き締め、通路を進んでいった。通路の壁を走る魔力の様子から、中枢部は奥にある素直な構造になっているようだ。


 そして……中枢の制御室と思われる部屋に、透視では敵兵らしき反応が二人見受けられた。

 飛行船の航行は、規模の大小に関わらず、実際には一人で事足りる。そこを二人で動かすのは、操縦者に何かあったときのためだ。

 明らかにカタギではないこの飛行船だが、根本の運用ルールは、民間船を逸脱するものではないのだろう。


 問題は、どうやって制圧するか。通信室とは違い、操縦士がおいそれと外に出られるはずもない。となると――


『ノックして、私が入るわ』


『それが一番確実だろうな……さっきのから、服でも盗めばよかったか』


『ニコラじゃあるまいし。顔でバレるって』


 またも直面する大関門を前に、心の中で軽口を叩きつつ、一行はドアに向き直った。

 そして……リズがドアをノック。向こうからは「開いてます、どうぞ」との返答。

 ドアに手をかける前に、彼女は細心の注意を払った。ドアに何か仕掛けられている形跡はない。

 後は開けるだけだが、彼女は腰の小物入れから何枚か紙を取り出した。改めてドアに手をかけ、開いていく。


 見立て通り、その部屋は飛行船の中枢部であった。

 部屋の中央奥でうっすら青い光を放つ魔導石は、成人男性を優に超えるほどの高さを持つ球体だ。飛行船という重量物を浮遊させるだけの魔力を、この巨大な鉱石が捻出しているのだ。

 その魔導石を取り囲むように、いくつもの魔法陣が宙に浮かんでいる。これら制御用魔法陣からは、部屋中へと魔力の線が伸び、船体各所に魔力が供給されていく。

 この、飛行船の心臓を操作する操縦士二人は、ドアが開いてもなお席についたままだ。そういった姿勢が求められる仕事でもある。内一人が、言葉とともにやっと振り向いてくる。


「何かありまし……」


 言いかけて止まった彼に、《貫徹の矢》が襲いかかる。急所は外してあるが、悶絶させるには十分すぎるほどの威力だ。

 いきなりの攻撃にうめき、倒れていく同僚を目の当たりに、もう一方の操縦士はイスに座ったまま体を仰け反らせ――

 彼の口を、紙が覆った。慌てて紙を引き剥がそうとするも、別の紙がその手にまとわりつき、訳も分からずパニックに陥っていく。

 そこへリズが一気に距離を詰め、腰から短剣を抜き放った。


「抵抗すれば殺す。替えは居るのよ」


 操縦士の背後を取り、首に腕を回して彼女が脅すと、すぐに後方から動きがあった。空いた席へと仲間の一人が滑り込み、制御卓に浮かび上がる魔法陣のコンソールに指を這わせていく。

 その鮮やかな手並みに、リズは安堵した。


(替えが居るとは言ったものの……)


 実際に、きちんと乗っ取れるかは未知数であった。魔導書に関してはともかく、ここまで高度な魔道具は彼女の見識を超えており、乗っ取り作業を見てもさっぱりだったが……

 乗っ取りをかけている仲間の落ち着きぶりを見るに、深刻な事態には発展しないようだ。


 それに、命の危機に立たされている操縦士の反応もまた、彼女の安堵を後押しするものであった。替えがあるという事実を認めてしまったのだろう。すっかり驚き絶望しているようで、浅く短い息が止まることがない。

 抵抗する気力をなくした彼を、リズはイスから引きずり下ろした。彼に拘束を施していく傍ら、貫通弾を撃たれた片割れに別の仲間が処置を。

 こうして一通りの拘束が済むと、マルクが口を開いた。


「リズ。さっきの通信士も、この部屋に移すか?」


「そうね。一箇所で固めておきたいわ」


「外の皆を、こちらに呼んでは?」


「そうしましょう」


 そこで、中枢制御室は臨時操縦士含めて三人で制圧。二人は外との合流に回し、合流後に通信士を回収する流れに決まった。

 外の仲間に《念結》で伝えた後、出迎えに二人が動き出した。


「とりあえず、第1段階はうまくいったってところか」


「そうね。問題はまだまだあるけど」


 その気になれば、この飛行船だけを奪って逃げても、それなりの成果にはなるだろう。

 だが、狙いは他にもあるのだ。

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