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第190話 王族の会議①

 リズたちがダンジョン攻略に勤しむ一方、ラヴェリア王族もまた、新たな試みに手をつけているところだった。

 昨今の国際情勢を踏まえてラヴェリア王族からは二名、第四王女ネファーレアと第六王子ファルマーズが、海外で公務を行っているのだ。

 立場上、外遊の機会が多い上の兄や姉ならいざ知らず、内政畑の二人が海外で動くことについて、国際社会に与えたインバクトは中々に大きい。


 ただ、それぞれの活動内容自体は国際協調路線に則ったものだ。

 ネファーレアは、ハーディング革命や幽霊船などに関与していると思われる、死霊術師(ネクロマンサー)の調査に携わることに。

 ファルマーズは、飛行船墜落事故の調査に加え、ハーディング領サンレーヌに新設予定の空港について技術的な協力を。

 こうした取り組みについて、今のところはかなり好意的に受け止められている。

 おかげで、本国での顔合わせがなかなか難しくなっているという弊害もあるのだが。


 11月13日。今日は久々に、継承権者が一堂に会する日だ。

 議題こそ重苦しくはあるものの、遠地から戻ってきた弟妹との再会に、肉親の雰囲気は柔らかだ。

 会議を招集したアスタレーナは、まだ会議室に来ていない。話が始まる前の短い時間、室内は穏やかな雰囲気に包まれた。

 さて、ラヴェリア王族の外務は、国際情勢には大きな影響を及ぼしている。

 が、それは当人にとっても当てはまるらしい。妹の変化をベルハルトが目ざとく見抜いた。


「レア、血色が良くなったな」


「えっ?」


 国を出るまでのネファーレアは色白だったが、今では程よく肌に生気が差しているように見える。

 こうした変化をレリエルも認め、嬉しそうにうなずいた。


「出先で具合を悪くされるかもと、少し心配でしたが……お元気そうで何よりです」


「そ、そう?」


 少し戸惑うネファーレアだが、普段は冷静沈着な妹が見せる穏やかな微笑につられ、顔を綻ばせた。


「……ありがとう」


 国を出ること自体、ほとんどなかったと言っていい彼女だが、現状はうまくやれているらしい。

 もう一方のファルマーズも、遠地での生活に支障はないようだ。しばしの間、王族たちは和やかな空気の中、歓談を続けた。


 こうして、他国での暮らしについて言葉を交わし合ってると、部屋のドアがノックされた。場の空気がスッと静まり、高官の一人がドアを開けに向かう。

 果たして、やってきたのがアスタレーナと彼女の側近たちだった。


 やってきたのがこの一行がだというのは、場のいずれもが予想していたことだ。

 しかし……見るからに顔色が悪い彼女に、一同は反応の大小の差はあれど面食らった。表情に思い詰めたものも。

 そんな彼女に、さっそく長兄ルキウスから気づかわしげな声がかかる。


「大丈夫か?」


「はい」


 とは答えたものの、声にもどこか弱弱しいものはある。

 だが、当人がそう答えた以上、ルキウスが追加の気遣いを見せることはなかった。

 今回の継承競争会議も、アスタレーナ自身が招集をかけたものであり、ネファーレアとファルマーズとの日程調整にも彼女が関わっている。

 そんな彼女は、よほどの事情でもない限り、日を改めてなどとは言えないだろう。

 心配そうな視線が集中するも、場の面々は長兄の態度に従うようだ。責を果たそうとする司会者の言葉を、ただ静かに待った。


 すると、アスタレーナ配下の高官が、場に集った面々に書類を手渡していった。

 書類に記されているのは地図だが、描かれている陸地はごくわずか。この場にいる者であれば、この書類の意味は言わずもがなであろう。

 実際、その通りの言葉が、司会者の口から放たれる。


「標的、エリザベータの現在地ですが、おそらくはこの海域内ではないかと」


 歯切れ悪く自信なさそうな言葉に、数名の高官がやや狼狽(ろうばい)を示した。

 ラヴェリア外務省による追跡調査では、今までかなり高精度な位置情報を得ることができていた。

 一方で今回の推定は、情報の質として、かなり落ちると言わざるを得ない。

 とはいえ、その点で以ってアスタレーナと外務省を(そし)ることができないのも事実だ。むしろ……


「これまでが、出来すぎていただけとも思うが」


 やや暗い表情でいるアスタレーナに、ルキウスが率直な意見を口にした。


「実際、他国の目がある中であっても、問題を起こすことなく情報を提供していただけたのですから……仮に逃げ込まれた先が孤島とあっては、探りに向かうのも一苦労でしょうし」


「時期も悪かった。ハーディングの方に時間を取られては、要員への指示と対応も難しかったろうしなぁ」


 長兄に続き、理解を示す兄妹だが……アスタレーナは少しだけ表情を柔らかくするも、やはり曇りは晴れずにいる。

 レリエルの指摘通り、リズの逃避先が孤島と推定するならば、要員を差し向けての調査は逆効果となりかねない。相手にしてみれば、来客への警戒はしやすいだろう。

 それに、探りに来たところを捕らえられれば……というリスクも。


 探りを入れるにも難しい状況となり、場には重苦しい雰囲気が漂う。

 そんな中、軍部に所属する兄二人は、地図を真剣に見つめている。他の面々が漠然とした不安に気を揉むように見える中、この二人には何か具体的な勘案事項があるようだ。

 やがて、ルキウスが口を開いた。


「これらの孤島だが……ダンジョンがあるのではないかと思う」


「ああ、やはり……」


 何やら理解した様子の兄二人に、「ダンジョンですか?」と、アスタレーナは少し身を乗り出した。

 ルキウスによれば、ラヴェリア国軍では、外洋にあるダンジョンでの練兵計画が持ち上がったことがあるらしい。

 もっとも、ラヴェリア国内にもダンジョンはいくつかあり、ほとんどのダンジョンは支配者である各魔王とラヴェリアが協力関係にあるものだ。

 そうした中、外洋にまで手を伸ばす目的はいくつかある。早い話が、海外進出までの橋頭堡だ。

 ただ、演習場という名目での拠点化ではあからさま過ぎる。そのため、ダンジョンによる練兵の経験が浅い海洋国家と合同で、演習場を設けようという計画が立った。


「……とはいえ、合同という名目であっても、色々と怪しまれるだろうという懸念はあってな。結局、軍部から外に話が出ることなく、計画は頓挫したそうだ。それでも、用地設定のための調査は、ある程度済んでいたらしいが」


「そういうことでしたか……」


 実際には、リズが身を潜めている可能性がある孤島は、いくつかある。だが、ダンジョン以外に何か気になる要素は、今のところ見当たらない。

 そして、彼女が逃亡先に選定する理由として、ダンジョンの存在はかなり有望ではないかと、場の面々は考えた。


「いざという時の逃げ場に……って考えがあるだろうね。先に手を付けて慣れておくっていう考えも、おそらくは」


「そうだな。こちらには、例のダンジョンについてあまり詳細な情報はない」


「潜っている間、分断されることを念頭に置くのも重要だな。ダンジョンの外を囲う意味はあるだろうが、中へ追い詰める役には立たない」


「なるほど……」


 もちろん、リズがダンジョンに逃げ込んでいると確定したわけではない。しかし……有力な手がかりは他にない。

 とりあえず、彼女がダンジョンを逃亡先に含めているものと仮定した上で、情報収集することとなった。軍部からは、過去の計画資料を確認する。

 そうした流れが決まった後、ルキウスは思い出したように、ベルハルトへ声をかけた。


「しかし、よく知っていたな」


「何のことです?」


「あの海域のダンジョンのことだ。例の計画について、私は過去の資料からたまたま知っていたが……」


 すると、ベルハルトはどことなく居心地悪そうな感じになり、兄から視線をそらした。


「個人的な興味から、ダンジョン探しを……」


「ああ、そういうことか……」


 ある意味では熱心な弟に対し、ルキウスは少し呆れたような微笑を浮かべた。

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