4章15
「あのとき、俺が気絶してはいけなかったんだ。俺がバカなミスをしたせいで、ピクシーは・・・俺のせいで・・・すまない。」
後から思い返してみれば、あの時の俺の行動は、ひどく短絡的だった。
どうして俺が魔族との戦いで最前線に出る必要があったんだ。
事件の犯人が魔族だとわかった時点で死に戻ればよかったんだ。
死に戻らずに戦ってしまったのにも原因はある。
エールの父アーサーに勝って戦闘に自信を持ってしまったこと。
乗馬の旅を繰り返したくなくて1回で解決しようとしたこと。
負けたら死ぬものと決めつけてしまったこと。
どれも言い訳になってしまうか。俺が気絶さえしなければ誰も死ぬことなんてなかったんだ。
「リューヤンのせいじゃないよ。足留めだけでいいんだから、僕ももっと慎重に攻めるべきだったし。普通のリューヤンが戦おうとしてるのも止めるべきだったよ。」
お互いにうつむいて沈黙が流れる。
「今日はゆっくり休みなよ。」
少しして、エールが気を利かせたのか、気まずくて耐えられなかったのか、どちらかわからないが、俺に声をかけて部屋を出て行った。
俺は反省と後悔が頭を回っていたが、ケガの影響か、すぐに眠りについた。
翌朝。起床して宿の1階でエールと朝食をとる。
2人ともピクシーのことには触れず、ぎくしゃくとした日常会話を一言二言ぽつりぽつりと交わすだけでもそもそと食事を続ける。
食べながらもお互いどこか視線を避けるように、あまり目があわないまま座っている。
気まずい。気まずいが、どうしていいかもわからない。今までで一番重い朝ごはんだ。
俺とエールがなんとか胃に流し込んだところで、宿の玄関から人が入ってきた。
その真っ赤な髪は、目の端で捉えるだけでも誰だかすぐにわかった。ククルだ。
俺は無意識に少し顔を背ける。そんなことをしても意味がないのに。
自分の卑屈な行動に心の中で自嘲していると、ふとエールと目があった。エールも同じように顔を背けたので、鏡合わせのように、傾けた顔同士が向い合ってしまった。
情けなく気まずい気持ちで首をかこうとしたら、その動きまでもエールと一致してしまい、少し気持ちが緩やかになった。
これから、俺たちに待っているのは、ククルから責められ、謝罪する時間だ。
緩みかけた気持ちを再度引き締め、目の前まで近寄ってきたククルに向かって姿勢を正す。
何を言われても受け入れて謝ろう。そう覚悟を決めた俺に対し、ククルは口を開く。
「リューヤン、私も魔族を倒す旅について行くわ!」