4章13
ピクシーの叫びに困惑しながらも、僕は魔族から距離を取り、ピクシー達の元へ移動する。
「氷槍」
僕の後退に合わせてピクシーが魔族に牽制の魔法を打ってくれたようだ。
「エール、ありがとう」
ピクシーは凛とした表情でそう言うと、魔族に向かって再び魔法を放った。
僕は馬を呼び、気絶したリューヤンを無理やり座らせた。
「ククル、馬に乗ってリューヤンが落ちないように支えて」
「え?なに?」
「早く!」
状況を理解していないククルに僕は強い口調で指示を出した。
ククルも問答している場合ではないと理解したらしく、素早く馬にまたがりリューヤンをしっかりだきしめている。
「よしっ頼むよオニマル」
僕はリューヤンを抱えるククルの後ろでオニマルにまたがり、すぐにオニマルを出発させる。
「え?ねえ?ピクシーは?」
ククルが振り返りながら声を震わせて尋ねる。
僕は返事をせず、ただ真っ直ぐ進行方向を見つめる。
そのとき、後ろから真っ赤な光が照らす。この太陽のような輝きは、最初に飛ばしてきた巨大な炎球だろう。
「氷山の一角」
直後にピクシーの叫び声がした。巨大な氷塊の魔法で相殺してくれたのだろう。
僕はそのまま振り向かずにひたすらオニマルを走らせた。ククルが何度かピクシーのことを尋ねてきたが僕は返事をすることなく、オニマルを走らせた。
しばらく走った後、リューヤンの様子を確認した。
致命傷ではないと思うが、治癒魔法をかけておいた。
「ククル、リューヤンとオニマルに乗って、2人でオラクルまでいけるね?」
「うん、エール、お願い」
エールの意図を組んだククルは、エールへ一縷の望みを託した。
お願い、されたから、なんとかしなくちゃね。
僕は、いま来た道を全速で駆け戻った。
かなり時間が経ったが、僕らが早々に離脱した後に逃げに徹していれば、まだ大丈夫だろう。
ククルの方もきっと大丈夫。オニマルは賢い。まともに馬に乗れないククルが騎手でも、リューヤンを落とさないように魔物を避けて、オラクルまでたどりついてくれるだろう。
大丈夫、うまくいく。大丈夫。自分にそう言い聞かせながらエールは疾走する。
元の場所に着いたころには、日暮れ直前であった。
地平線から注ぐオレンジの光が、徐々に薄く弱くなっていき、影が背を伸ばしていく中、戦いの痕跡を追っていく。
点在する焦げた地面をいくつか通り過ぎた終着点に、闇に覆われた影のように真っ黒に焦げた”何か”が横たわっていた。




