4章12
「僕たちが魔族と戦いはじめて、すぐにリューヤンが吹き飛ばされたんだ。」
「ああ。そこまでは覚えている。」
「うん、その後のことを説明するね」
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【sideエール】
「うわっと」
リューヤンが変な声をだしながら、魔族に持ち上げられた。
でも、今がチャンスだ。僕は魔族の懐に入り込もうと突進する。
だけど甘かった。
魔族が腕を振り払うと炎が噴き出す。僕は慌てて飛びのいて躱した。
僕が躱している間にリューヤンが魔族の膝にナイフを突き立てる。魔族の硬い皮膚を貫くなんて、リューヤンやるね。
僕もリューヤンに続こうと駆けだそうとした。
そのとき。リューヤンが吹き飛ばされた。
「え?」
エールが全く予期していなかった現象。無敵の父すら凌駕する技能を持つリューヤンがあっけなく戦線を離脱した。
「クソッ。でもリューヤンは倒せなんて言ってなかった。」
僕は自分を落ち着かせるように小さくつぶやく。
絶大な信頼を置ける予言師は、この魔族を倒せとは言わず、オラクルに逃げるように指示していた。
だから、戦闘で不利になったことは大した問題ではない、きっとそうだ。
瞬時に動揺を抑え込み、仲間の状況を見渡す。
しかし、そこでも予期しない状況が起きていた。
先に逃がしたはずのピクシーとククルがリューヤンの元に駆け寄ろうとしている。
なぜ?リューヤンは逃げろと言ったのに。
少しのいらだちを覚えつつ、次の対応を考える。
それは、不幸な認識のずれであった。
エールにとっては、魔族や父という、己にとって超えられない壁をいともたやすく壊した予言師の言葉。
ピクシーとククルにとっては一度強敵と戦っただけの不思議な少年。
戦闘中に彼が発した言葉を100%遵守する者と、不思議な少年の言葉よりも、命を優先する者の判断が分かれたのは仕方ないこととも言える。
だが・・・
魔族は吹き飛ばしたリューヤンに向かって、すぐに炎の魔法を使おうとした。僕は止めようと切りかかったけど、間に合わなかった。
魔族の手から火炎が噴き出してリューヤン達を襲う。
火炎が到達する寸前、叫び声と共に、氷の塊が噴き出す。
「氷結世界!」
ピクシーが魔族の火炎を魔法で相殺した。
よしっ。僕は安堵しながらも槍を握り直す。なんとか、隙を作って全員で逃げよう。
「エール!ククル様とリューヤンを馬に乗せて逃げなさい!今すぐに!」
ピクシーが真剣な顔つきでそう叫んだ。




