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3章10


エールの声に従い振り向くと、数m先から火球が迫っていた。


俺が火球を見つめ固まっているとエールに腕をつかまれ引きずり倒された。その直後に体の上を火球が通りすぎていった。


俺の無事を確認したエールは、即座に火球の発射元に駆け寄り、空を槍で切り裂いた。


「キィィイイイ」


高周波のような叫び声とともに何か布のようなものが床に落ちた。


俺がエールの元に駆け寄ると、そこには体が細長く半透明の人と同じくらいの大きさのコウモリのような魔物がいた。

フォルムだけならチョウチョに近いが見た目は長細いコウモリでなんか気持ち悪い。


「これがスポーキィだよ。不意打ちの魔法はかなり気を付けてないと危ないんだよね。こいつのせいで怪我人が出るからオラクルの人たちは引きこもってるのさ」


「へぇ。エールが対策方法とか教えてあげられないのか?」


「こいつの対策なんて油断しないことくらいだよ。不意打ちさえ避けてしまえばめちゃくちゃ弱いんだから。油断しないことなんて、命をかけて魔物を狩る者には最低限の常識なんだから教えようがないよ」


「そういえば狩りのときにククルにも同じようなこと言ってたな」


「あー、あいつに言ったのは少し意味が違うかな。あの町はみんな今ある生活を変えようなんて少しも思ってない連中ばかりだからさ、ククルが狩りをできまいがどうでもいいと思ってるのさ」


「ふむふむ」


「それで甘やかされて、あいつは町の中で魔物のことを何も教えられずに育てられてたからね。狩りを始めたての人間が調子に乗って命を落とさないように厳しめに指導してただけさ」


「なんだそんな理由か。ククルのこと嫌いなのかと思ってたよ」


「あはは、好きか嫌いかで言えば嫌いかな。あの町も僕の一族もね」


エールの声色が急に暗くなった。


夜の闇が表情を隠していたが、少し手を伸ばせば触れられるこの距離で、何か触れてはいけないと思わせる雰囲気を感じた。


その後、俺たちは当たり障りのない話をしながらも少しぎこちなさを残しつつ、月下の散歩を続けた。



夜通し歩いてから数日は体力を戻すために多めの休憩を取りながら進み、体力がもどりさらに数日歩いたところで、低い木に囲まれた綺麗な湖が見えてきた。


湖のほとりには藁葺き屋根で簡素な造りの家が立ち並んでいる。俺たちはついキーフ族の集落にたどり着いた。


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