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3章8


俺たちは門の前でふんぞり返るククルの元までテクテクと近づく。


「リューヤン!旅立つのは止めないけど、無事に帰ってきなさいよね!約束だからね!」


少し震えるような声で、しかし力強く大きな声でククルは俺に向かって言い放った。


「あ、あぁ。気を付けるよ」


何を言われるのかドキドキしていた俺だが、旅の無事を祈るお母さんのような発言に拍子抜けして適当な返事を返した。


俺のそっけない返事に一瞬キョトンとしたククルであったが、何かをボソッとつぶやいて、うなずいたかと思うと、俺の目をキッ睨んできた。


(うおっ、なんか怒られるのか?)


俺が内心ビクついていると、ククルがまっすぐこちらを見つめながら近寄ってきた。


「あ、その、なんか、ごめ」


俺が女性への謝り方として0点の回答をはじき出そうとしていると、ククルの両手が俺の肩をつかみ、俺を引き寄せながら少し背伸びをした。


そして、俺とククルの唇が少しの間だけ重なった。


「えっ」


俺は唇が離れてすぐに、乙女のように口元に手を添えて声をもらした


「気を付けて行ってくるのよ!!」


ククルは顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと足早にその場を後にした。


俺はククルが見えなくなるまでその場でボーっとククルを見送った。出発する側が見送るという不思議。



その後、エールに促されてオラクルを発ち、キーフ族の集落に向かった。旅はいつもどおりエールが戦闘を行い、俺が付いていくという寄生スタイルだ。オンラインゲームの世界なら速攻で縁を切られても文句は言えないが、予言者ポジをキープしている限りはエールも姫プを許してくれるだろう。


オラクルを発って初日も夕暮れ時となり、今日の寝床を準備している。

日中も含めて、エールと話をした気もするが、俺は出発前のことが頭から離れずにあまり覚えていない。

なんだか恋愛と失恋を同時に体験したような心が満たされながらも空っぽになっていくような、ふわふわとした1日だった。オラクル最後の夜のモヤモヤと比べると、とても清らかな気持ちではあるが、その分心の奥底に触れられたような、喜びと寂しさを感じていた。


そんな俺の状況を察してくれたのか、エールは俺をそっとしておいてくれたように思う。意外と気が利くようだ。


「ねぇ、リューヤン」


黙々と夕食を食べていると、エールが意を決したように話しかけてきた。

俺の名前を呼ぶとエールは口元に手を添えてまっすぐ遠くを見つめながらこう言った


「ククルにキスされたときの子どもよりウブな反応したリューヤンの真似」


「ちょ、おまっ」


俺は寝るまでイジリ倒された。

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