2章26
そこには氷の魔法を放ったピクシーと、偉そうに叫ぶククルがいた。
「バカ!逃げろって言ったろ!」
俺と出会ってからは初めてと言えるほど、エールはカンカンに怒っていた。
「うるさい!またわたしのせいで誰かが犠牲になるなんて、耐えられないわ!」
ククルは叫びながらぽろぽろ涙をこぼす。
そういえば初めての狩りでも誰かがケガをしたと言っていたな。
だけど、今回ばかりはエールが正しいと思う。戦況は絶望的だ。
熊の魔物は予想外の大ダメージに怒号を響かせながら転がり回っているが、致命傷とはいかなかったのか怒りに任せて暴れまわっている。今すぐにでも戦線に復帰してくるだろう。蜂の魔物も相変わらず厄介に飛び回っている。
それにひきかえ俺たちというと、エール(魔力切れ)、俺(お荷物)、ククル(お荷物)。唯一頼りになりそうなピクシーだが、明らかに顔色が悪い。最初に使った広範囲の魔法があれだけ強力だったのだ、おそらくさっきのつららの魔法で魔力を使い果たしたのだろう。パーティーの中で蜂に効果的に対処できる範囲攻撃持ちがいなくなってしまった。
もはや逃げ場もなくなった状況。・・・それでも、やれるだけやるしかないか
「エール!なんとか熊相手に時間を稼いでくれ!俺が隙を狙って攻撃してみる!」
俺はようやく力が入るようになってきた体を何とか持ち上げて立ちあがる。
「奇跡的に急所に届けばっていう神頼みだね、しょうがないか。リューヤン合図するから頼むよ」
エールは何とでもなれというような態度で返事する。吹っ切れてくれたならよしとしよう
「ククル、ピクシー!なるべく蜂の魔物を減らしてくれ。ククルはピクシーの護衛、ピクシーはエールの周りを飛ぶやつを狙ってくれ」
一縷の望みがつながるとすれば、ピクシーの魔法で背中に大きな傷が出来ていることだ。
そこに渾身の一撃をおみまいできれば、もしかするかもしれない。
全員が覚悟を決めたとき、熊の魔物が復帰してきた。
エールがそこに立ちはだかる。
「一応、魔物を狩る一族の長なんでね、粘らせてもらうよ」
そこからのエールの戦いは鬼気迫るものがあった。先ほどよりも激しく切りつけ、相手には指一本掠らせない。後ろに目が付いているのかというような動きで蜂の攻撃もかわしていた。
ククルたちも必死で蜂を倒した。俺もチャンスを狙いながら自分に襲い掛かる蜂の処理をしていた。
蜂の魔物も少しずつだが減り、戦況は好転しているようにも思えた。
その立役者と言えるのはピクシーだろう。正確に投てきするにはやや遠いとも思える距離から、的確にエールに向かう蜂に投げナイフをぶつけていた。しかもエールの逃げ道を確保するような位置取りで絶妙なタイミングを狙っていたように見える。そのおかげでエールも熊にある程度集中できているように見える。お互いの気持ちが通じ合っていて高いレベルの戦闘技術を持っているからできる芸当なのかもしれない。
しかし、そのピクシーでも覆せない現実があった。
「エール!もうナイフが!」
ピクシーが泣きながら叫ぶ。これまで大いにエールのサポートに貢献していたピクシーの投げナイフが球切れとなってしまった。




