序章5
物語の導入である序章は次回でおしまいです。
村のどこかから女性の悲鳴が聞こえた。その後、誰かの叫ぶ声や男の怒声が次々と響いてくる
明らかに異常事態だが、音でしか判断できない自分に不安が募る
と、若干泣きそうになっているとテントに金髪が入ってきた
金髪は怒った顔をして槍を俺に向けながら近づいて来る。初めに殺されたときと同じような状況だ。
1週間前ならトラウマで震えあがっていただろう
でも今の俺は違った
こんな状況でも金髪が戻ってきて、むしろ安心している自分がいる
言葉はほとんど通じないとはいえ1週間を一緒に過ごしてきた。その間、金髪が他の村人と仲良くしている様子は一度も目にしなかった。
頻繁にテントに戻ってきていたのも、見張るためではなく俺と話をしに来ていたんじゃないだろうか。
ひょっとしたらこのテントの中が金髪にとって孤独じゃない時間だったのかもしれない
まあ、俺の一方的な思い込みかもしれないが。でも、そんな金髪を見ていて俺は友達になりたいと思った。
友達なんてお互いの気持ちを確かめてなるものではないと思う。俺が友達になりたい思った時点で友達なのだ
友達だからわかる。
険しい顔つきの中からも悲しそうな申し訳なさそうな、何かを諦めたような。そんな感情が伝わってくる
俺がそう考えていると、金髪は俺の腕の拘束を槍で切り裂いた
そして俺の手を引いて何も言わずにテントの外まで連れ出す
「嘘だろ・・」
視界の半分以上が赤く染まっていた
一瞬、夕方だからかと思ったが、沈みかけた太陽に照らされた部分とは明らかに違う灼熱の赤によって、テントの半数程と周りの森が燃え上がっている
俺がパニックになりかけていると、金髪がドンっと俺の背中を叩いて何かをつぶやく
知らない言葉だったが俺にはわかった「さよなら」だ
まるでもう会うことがないような、そんな別れの挨拶のように。
「ありがとう」俺はそう答える
どうして感謝を伝えたのか自分でもわからない
金髪も俺の言葉を理解できたのか少しだけ微笑んだ後、急に覚悟を決めた顔になり火の手のほうに疾風のごとく走り出した。
俺は金髪とは逆方向に必死に走り出した
村を出てすぐに見つけた街道を息が切れる限界まで走った
遠目で何とか村が見える距離まできて、俺はやっと振り返る。相変わらず村からは炎があがっており、最初にこの世界に来たときに見つけた煙の何倍もが立ち込めている
そこで俺は考える。このまま道なりに進めば他の村か何かはあるはずだ
もうすぐ日が暮れるが一晩くらいなら何とかなるだろう
ただ・・・このままでいいのか?
あの村で何か争いがあったのは明らかだ。もしもテントに取り残されていたら死んでいたかもしれない。
次死んだときに生き返れる保証なんてどこにもない。いや、仮に生き返れたとしても俺は死にたくない。
死ぬのは、当たり前だがつらい。死が迫ると痛みと恐怖で体はカチカチに動かなくなり、頭だけが不思議に明解になっていく。
走馬灯のようなものだろうか?
死へ向かう自分を否応なしに何度も自覚させられる。あんな思いをするのは二度と御免だ
でも、そんなところから金髪は逃がしてくれた。あの後、金髪はどうなったのだろう?
死の恐怖から解放してくれた彼を、友達を!放っておいていいんだろうか?
いや、いいわけがない!!ここが異世界ライトノベルだったら、友達を見捨てて逃げる主人公がどこにいるんだ!!
俺が戻って何ができるかなんてわからないが、決意を胸に俺は走り出した