2章20
「それにしても疲れたなぁ」
現代っ子にとってはかなりの長旅と野宿の繰り返しだったが、久々にちゃんとしたベッドで寝られるのがとても嬉しい。
まだ日暮れからさほど時間は経っていないが、ベッドに身を投げるとあっという間に眠気に誘われて俺は瞼を閉じようとしていた
トンットンッ
そのとき、小さくノックの音が聞こえた。寝ぼけながら扉の方を見るが誰も入って来る様子はない。気のせいかと思っていると隣のエールの部屋の扉が開く音がした。壁が薄いせいか隣の部屋の音を勘違いしたようだ
「なんだ、エールのところか」
俺はそう小さくつぶやくと横になりながら、隣の部屋の状況になんとなく耳をそばだてた
「こんばんは、よろしいでしょうか」
ピクシーの声だ
「あ、やっぱり来た。こんばんは」
昼間に言っていた打ち合わせに来たのか。即日、会いに来るとは仕事のできる女は違うな。
「魔族を倒したと聞きましたが、本当ですか?」
「リューヤンから聞いたんだね。倒せてはいないけど撃退はしたよ。すごいでしょ」
エールがいつもの良い子モードじゃなくてフランクだ。旧知の仲なのかな?
「やっぱり本当だったんですね・・」
「ところで打ち合わせって何(笑)あとしゃべり方戻せばいいのに」
エールがしゃべりながら歩いているのか、足音がコツコツと床に響いている
「あっ、んっ、だって・・こっちの話し方で、慣れちゃって、んっ」
ん?なんかピクシーさんの声色がおかしい
「僕に会うためにククルに嘘ついてきたの?」
「ちがうもん、エールが私に会いたいかなと思って、あ、んっーーー」
ピクシーが突然口をふさがれたような声で小さく呻く
「僕も会いたかったよ」
ボフンッとベッドに倒れこむ音が聞こえる。
「そんなこと言って、なかなか会いに来てくれないじゃない」
布がこすれる音と共に、小さな破裂音が断続的に聞こえてくる。
「僕にも立場があるからさ、中々自由には来れないんだ」
「しょうがないのはわかってる、んっ、けどっ」
ピクシーの息は荒く、抑えようとしている声がこらえきれず漏れ出ているようだ
2人は話しながらも合間にチュッという音と共にスルスルと布が滑り落ちるような音がかすかに聞こえた
「あいかわらず、綺麗な身体だね」
「え、ありがt、きゃあっ、あっ、だめっ」
ピクシーの小さな叫びと共に、水分を含んだ何かをかきまぜたような音がしっとりと響く
「んっ、なんかっ、きょ・・う、あっ、どう、した、の」
ピクシーの声は上ずり、正常に話すことが難しくなっているようだ
「これでも、魔族との戦いは命がけだったからさ・・・その後に、こーんな美人と会えば、自制なんて、効かなくなるさ」
エールがやたらゆっくりと話す間、「ダメっ」「待ってっ」「んんっ」と苦悶の声が聞こえる
エールが言い終えると2人の動きが止まったのか、ピクシーがはぁはぁと息を切らす声だけが聞こえる。
「えーるっ、おねがい、きてっ」
ピクシーのうるんだ声が静寂を切り裂くのとほぼ同時にベッドがきしむ音と今まで以上にうわずった2人の吐息が聞こえている。しばらくするとピクシーの声にもならない叫びが部屋に響いて息絶えたかのように静かになった。




