序章4
金髪に拘束されて1週間が経った
両手は相変わらず縛られたままだったが、金髪は食事を運んでくる以外にもちょくちょくテントに戻ってきては何かを俺に話しかけてくれる。夜も同じテントで眠っていた。
食事は毎日芋もちなので飽きてきたが、味はおいしいので特に不満はない。強いて言うならカレーかシチューを付けたい。
また、1日3回はトイレのために外に連れ出してくれるのだが、実はこれが一番苦痛であった。
まずテントを出ると村人たちからの視線が痛い。だいたいの村人が睨みつけてくるし、日に日に視線がキツくなっているようにも感じる。気のせいだろうか
トイレは村はずれに掘った穴にダイレクトアタックして、終わったら土で埋めるという野良猫スタイルだ。外でトイレをするだけなら大して問題ではないが、金髪がずっと俺を見張っているのが嫌になる。
特に大をしているときなんかは、やれやれという顔で見下されるのがとても屈辱的だ。この金髪は俺をマゾにでも目覚めさせたいのだろうか
内なるマゾを何とか抑えこみつつ、この1週間の間にいろいろと考えることができた。時間だけはあったからな
まず、女神について
すべての元凶はいいかげんな女神のせいだと思える。脳みそまでゆるふわかと思われるあの女神をこれからは適当女神とでも呼んでやろう。
目的の魔族をどうにかするかっていう説明が皆無だった。倒せばいいのか?わからないことに悩んでもしょうがないので魔族のことは一旦忘れようと思う。とりあえずは生活基盤を整えて、死なないことが大切だ
あと、普通の異世界ものだったら不思議パワーで言葉は理解できるものだと思うが、俺の場合は全然そんなことなかった。適当女神が不思議パワーを使い忘れた可能性も大いにあると思っている。
だが、誰しも危機に陥れば成長が早いらしく、最初こそ何を言っているかわからなかったものの、今では食事を催促することくらいはできるようになった。まだまだ1~2歳くらいのコミュニケーションだが英語赤点ギリギリの俺が凄まじい速度で異世界語バイリンガルになりつつあるのを感じる。
次に俺自身について
いきなり殺されたことで混乱していたが、状況から考えておそらく俺は死に戻りの能力を得たのだろう。
だが、仮に死に戻りの能力だとしても、もう一度死んでみようとは全く思っていない。
(というかあの適当女神いきなり死ぬようなことはないみたいなこと言ってなかったか?)
むしろ死んではいけないと思っている。あの適当女神のことだから、一度だけ時を巻き戻せるとか中途半端な能力を付けてても驚かない。命は1つしかないと思って行動しよう
適当女神が能力を付与し忘れたけど、意図せず復活したという可能性も割とまあ有り得そうだ
最後にこの村についてもある程度観察できた。
トイレに行くときに見かけたのは全部で10数人程度だ。
俺が見た中では最初に絡んできたおじさま達が最年長っぽい。他は10代~20代の若者ばかりだ。老人や小さな子供は見たことないが、テントに引きこもっているのかな?たまたまトイレのときにいなかっただけか?
また、髪が金色なのは金髪だけだった。金髪以外の村人は皆、男性が茶髪で女性が青みがかった白髪だった。人によって多少の色の違いはあるものの金髪みたいな髪色の人を俺は見かけなかった。もしかして金髪は仲間外れにされてたりするのか?いつも一人だし
あと、今のところ魔法らしきものを見たことはない。俺も魔力を操ることができないかいろいろ工夫してみたがダメだった。剣と魔法のファンタジーと聞いた気がするが、今のところ槍と芋もちの牢獄スローライフだ。どこに需要があるんだそんなもん
このまま一生芋もちライフを覚悟し始めながら夕方ごろの時間だろうか
テントの外で悲鳴があがった