2章8
30分ほどが経ったころだろうか。がさがさと植物を掻き分ける音がして、エールが戻ってきた。
「嫌な予感があたったかもしれない」
さっきまでへらへら話していたとは思えない程、険しい表情をしている。
「何があったんだ?」
「悪い知らせと悪い知らせがある」
「ちなみに良い知らせはないのかな?」
「僕が事前に気づけたことが良い知らせといえば、良い知らせかな。リューヤン、もしかしたら深刻な状況だからよく聞いてよ」
さっきまで異世界のほほん探索記だったはずなのに急に緊迫した空気に変わってしまった。俺は真剣に聞くことにする
「まず、1つ目は先に集落に向かっていたダニエルが怪我をして<聖地オラクル>に向かった可能性が高い。ダニエルが集落に援軍の伝達をしてくれてたら、リューヤンとここに着くまでに一族の誰かとすれ違うはずなんだ。なのに、誰とも会わなかった。どこかでダニエルが事故にあった可能性が高い」
ダニエルは、増援を集落に呼びにいったおじさまBのことだ。エールと同じくらい強いらしいので、この辺の魔物に後れをとることはないはずだが、何かがあったらしい。
「ダニエルは簡単にやられないと思うし、<聖地オラクル>に向かった形跡があったから多分大丈夫だとは思う。僕の予定では、ダニエルが呼んだ援軍とすれ違うときに事情を説明して、ついでに正式な装備をもらおうと思ってたんだけど、それが難しくなった。これが1つ目の悪い知らせ」
戦闘民族のガチ装備を受け取る機会を逃したのは痛いな。装備さえ強ければ俺でも戦力になれたかもしれないのに。
俺が頷きながら聞いているとエールが説明を続ける
「もう1つが厄介だ。ダニエルに怪我をさせるだけの魔物がおそらくこの辺りに野放しになっている。ダニエルが正面から戦って負けたのなら、僕でも勝てる保障はない」
最初の村の近くにボスモンスター出現みたいな話か?
「そのヤバい状況でエールはどうしたらいいと思うんだ?」
「最初の予定どおり<聖地オラクル>を目指すのが一番だと思った」
「理由を聞いてもいい?」
名探偵エールの謎解きタイムだ
「僕らの取れる選択肢は3つだよね。戻るか、集落に行くか、<聖地オラクル>に行くか。そのうち集落を目指すのは止めた方がいい。」
「どうしてだ?集落の方が近いんだろ?」
それに集落に行けば武器も仲間も豊富なはずだ
「ダニエルも同じことを考えたはずさ。元々集落に行く予定だったし。でもダニエルは<聖地オラクル>に向かった。何か理由があるはずなのにそれを無視するのは危険だ」
「なるほど」
「あとは戻るか進むかの問題だけど、戻るメリットがほとんどないから消去法で<聖地オラクル>に行くしかないかな」
「何度も言うがきちんと理由を説明しろ」
エールは解説キャラとしてはまだまだ育成が必要だな。
「ダニエルが怪我した理由がわからないからさ。戻って一族を引き連れた上で全滅なんて可能性もある。あと、ダニエルは手負いの状態なのに逃げ切っているみたいだから、少なくとも数日前は<聖地オラクル>に向かう道は安全だったはずなんだ。だから一旦ダニエルと合流して事情を聴いてから対策を考えたいと思う」
「もしかして、この前の魔族が待ち伏せしてる可能性もあるのか?」
「それは・・・ないと思うんだけどな。戦闘の痕跡からして、僕らが魔族と戦っているときにはすでにダニエルはここで戦っていたみたいだし。それも含めてダニエルに聞けばわかるさ」
俺たちは当初の予定どおり<聖地オラクル>を目指すことになった。