2章6
グラント裏切り者説と関係しそうなことを、調停神が何か言っていたような・・・なんだったかな?
「何か悪い未来が視えたのか?」
俺が真剣な顔つきをしたまま黙ってしまったので、エールが心配そうに聞いてくる。
「いや、予言ではないけど、エールの予想どおりなら魔族がいつ攻めてきてもおかしくないのかと思って不安になっちゃってさ」
「僕が言いたかったのはそこだよリューヤン君」
急にワトソン君みたいな言い方をしてくるエール。
「僕の予想どおりなら魔族は人間の力が衰えるのをじっと待ってることになる。魔族に対抗できる戦士がいなくなったところで町を襲えば一網打尽さ。」
あーそうか、思い出したぞ!たしか、俺が呼ばれた理由は魔族と人の均衡を破るためとかだったはずだ。調停神が言っていた半身達の介入が「俺の召喚」と「グラントの守りの破棄」だったらなんとなく辻褄が合う気がする。
つまり、エールの予想どおりに魔族は町に攻撃できるようになるはずだ。過程は間違ってるけど結果が同じなのはエールらしいけど。マジで名探偵なのか?
これから人類滅亡の危機が訪れる中で、剣も魔法も使えない戦闘力10歳レベルの高校生に、魔族を討伐するミッションが課せられたということだ。それなんて無理ゲー?
「まぁキーフ族でかなり上位のはずの僕でさえ手も足も出なかったから、あんまり町の人たちの文句も言えないけどさ。とにかく町の人たちは油断しすぎなんだよ。ここ100年くらいは魔族による大規模な被害が出ていないからって、生活に必要な力以外はほとんど鍛えていないんだ。グラント様の加護が永久に続く保証なんてどこにもないのに」
「確かに、備えておいて悪いことはないよな」
「そうなんだよ。でも、すぐに加護がなくなるとも思えないし、僕は一族以外には大した影響力がないから何にもできないんだけどね。グラント様を貶めるような話を町で吹聴してたら牢屋行きだろうし」
そう言うとエールは少しさっぱりした顔をしていた。危機感を持っているというより、誰にも話せなかった厨二病的な妄想を聞いてほしかっただけなのかもしれない。でも、加護なくなるよ、多分
「それで、話を戻すけどやっぱりリューヤンは勇者だと思うんだよね。」
「どうしてそう思ったのか理由を聞かせてくれるかい?」
たのむぞ名探偵
「1つ、神様に連れてこられたこと。2つ、予言が的確すぎること。3つ、これは多分だけど勇者様が生まれてちょうど500年なんじゃないかな?確か勇者様は誕生日が同じで意気投合したって話だったし、もしかしたら3人とも異世界の人だったのかもしれない」
なんだこの名探偵ぶりは?ストーリー進行用の解説キャラか?そういうキャラは戦闘では役立たずになっていく傾向があるから、できればマスコット的な女の子を仲間にして解説はその子に頼みたいところだ。
「神様が関係してる人が勇者なら俺は勇者ってことなのかもな」
「確かにどういう人を勇者っていうか決まってないからリューヤンが勇者かどうかは・・・ってなんだあれ」
話しながら歩いていると突然前方から10cmほどの大きな蜂が数十匹群れになってこちらに飛んでくる。蜂の気持ちはわからないが、明らかに敵対している様子だ。
「近寄らせたくないな。くらえ、閃光熱」
エールが手をかざしてそう叫ぶと、まばゆい光線が蜂の群れに飛んでいき、1匹残らず焼き尽くした。槍で応戦していたら大けがを負っていたことは間違いない。エールに感謝だ。
まぁそんなことより
「必殺技の名前を叫んでやっつけるタイプの世界!」
俺のくすぶる厨二病が再燃していた。




