2章5
「グラントってめちゃくちゃスゴイ人じゃないか」
エールの説明によるとグラントは救世主的な存在のように思える
「まぁ、いま人類が生き残っているのはグラント様のおかげと言えるね」
「どこぞの神よりよっぽど神様みたいじゃないか」
「ん?どういうこと?」
「あーいやいや何でもない。ところで、さっきグラントは弱かったとか言ってなかった?」
この世界で神様がどういう立ち位置かわからないから悪口はやめておこう。余計な事を口走ってしまったので慌てて話題を戻す。物語ではグラントは文武両道というか弱点のない優秀な戦士という話だったと思うので、エールの話と矛盾している。
「んーーそうなんだけどね。今話したのは歴史として伝わってるけど、もう1つ有名な話があるんだよね」
「それも教えてくれよ」
「いいけど、これは子供向けに教訓として教えられる絵本が元だから要所だけ説明するよ」
そう前置きするとエールが再び語りはじめた
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あるところに剣の戦士と魔法の戦士と魔法剣の戦士の3人が旅をしていました。
そこに凶悪な魔族が現れたため、剣の戦士は魔族の右腕を切り落としました。
魔法の戦士は左腕を焼き焦がしました。
魔法剣の戦士がトドメを刺そうとしたところ、剣ははじかれ、魔法は跳ね返されたそうです。
その後の魔族からの反撃により、戦士たちはやられてしまいました。
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「こんな感じかな。中途半端なことをすると役立たずになってしまうから、鍛えるなら剣か魔法のどちらかにしなさいという意味で使われることが多い。」
「なるほど。この魔法剣の戦士ってどう考えてもグラントってことだな。だから、グラントは弱かったって話か」
「そうなんだよ。一般的にはグラント様は内政と加護で貢献したスゴイ王様で他の2人の勇者が戦闘で活躍したような印象かな。今話した絵本もグラント様が作って広めたらしいし。だから強いかどうかは関係なく尊敬はされてるんだけど、うーん」
なんだかエールの歯切れが悪い。
「なんか気になることでもあるのか?」
「気になることっていうか・・何も知らないリューヤンだから話すけど、誰にも言うなよ。」
エールが少し怖い顔をしながら話を続ける
「僕はグラント様が2人の勇者を魔族に売って、魔族に降伏したんじゃないかって思ってる。魔族から小さな箱庭を与えられて、家畜のように町の中に引きこもって生きていくのを選んだ臆病者じゃないかってね」
旅は始まったばかりだというのに、物語の核心みたいな話をするのは勘弁してほしい。そういうのは紆余曲折を経て真実にたどり着くから盛り上がるのだ。




