序章3
俺は息絶えた・・・はずだった
気が付くと、最初の切り株の所にいた。特徴的な真っ赤なキノコが付いているし間違いないだろう。
あれは夢か?なんだ?なにが起きたんだ?先ほどまでの痛みと恐怖でまったく頭が回らない
怖い。怖い。とにかく怖い。どうしたらいい。完全にパニックに陥った俺は切り株に寄りかかりボロボロと涙をこぼした。それから1時間ほど動けず泣きつくした。
まだ頭は回らないが、泣くことで少しは落ち着いてきた俺は、ふと背後に気配を感じた
何の気なしに振り返るとそこには槍を構えた金髪少年がいた
「う、うわ、うわぁあああああああ」
恐怖の叫び声をあげながら腰が抜けた俺は座り込んだまま後ずさりに逃げる。金髪少年はまたも訳の分からない言葉を話しながら、1歩ずつ近づいてくる
「まて、まってくれ、まって」
無駄だとは知りつつも金髪少年に手を向けて制止を試みようとする
しかし、その瞬間、金髪少年は急に目を見開いたかと思うと
「ぐわっ」
凄まじいスピードで一瞬のうちに俺の手を踏みつけて、何やら叫んでいる
「ごめんなさい、助けてください、許してください」
片手を踏み付けられたまま俺は泣きながら土下座の姿勢をとって許しを乞うた
数秒の間をおいた後に金髪少年はまた何かをつぶやいてから、どこからか出してきた紐を使って俺の両手を縛り始めた
「な、俺をどうする・・つもりですか」
俺は震えながら弱弱しくたずねると、金髪少年は少し穏やかな表情になり、何かを答えてくれている。何を言っているかさっぱりわからないが、すぐに殺されることはなさそうな気がした。
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縛られたまましばらく歩くと、最初に見つけた村に連れていかれた。俺が見つけた煙の正体は村の真ん中にある大き目の焚火だった。
金髪に連れられた俺が村に入ると、村人らしき細マッチョなおじさま2人が怖い顔でなにやら金髪と口論している。2人とも180cmくらいありそうで威圧感がすごい。金髪は俺をかばっているように見えるが身長170ちょっとの俺よりもさらに小さい金髪では明らかに分が悪そうだ。
俺の心配を余所に、金髪はおじさま2人の言葉を適当に流して、俺をどこかに引っ張っていく。
(え、いいの?おじさま達めちゃくちゃ睨んでますけど)
そんな疑問が口をつきそうになったが、余計なことをして危険な目に合うのも嫌なので黙っておいた
というかおじさまたちは金髪じゃなかったな。2人とも茶髪だった。そして金髪ほどではないものの整った顔立ちをしていた。金髪だけ人種が違うとかなのかな?
槍で突然殺されたときを考えれば、幾分かマシな対応を受けている状況で心に余裕ができて、周りのことが気になってきた。まぁ両手縛られてるんですけどね
俺がぼんやりと考え事をしながら金髪に付いて歩いていくと金髪は1つのテントの前で立ち止まり、何も言わずに中に入っていく。
テントといっても天井は3m近くあり、中はかなり広かった。さっきのおじさまたちが立ち上がっても窮屈じゃなさそうだ。作りとしては長い木の棒を組み合わせた支柱に布を縛りつけてあるだけのようで、なんとも心許ないが雨風程度は問題なく防いでくれそうだった
「なあ、俺はこの後どうなるんだ?」
2人きりの空間になって少し安心した俺は何となく金髪に尋ねる
また訳のわからない言葉が返ってくるが、雰囲気的には「悪いようにしないから大人しくしていろ」と言っているように見える。
少し困ったような少し優し気な表情をしながら、金髪は俺の腕を縛っている紐を支柱の1つに縛りつけた
金髪はまた何かを俺に話しかけるとテントを出て行ってしまった。
「えー縛られて放置プレイって高校生にはハードすぎるんだが」
手以外は自由に動くとはいえ、ほとんど移動できない状態で見知らぬテントに放置されてしまった。
小一時間経っただろうか。金髪は何かを持って帰ってきた
大きさは両手を広げたのと同じくらいで、白っぽくて平らで丸い。小さくて歪な座布団と言われれば納得できなくはないが、形状的にはナンじゃない?カレーもありますか?
「これは何ですか?」
はい、そうです。という返事を期待してしょうもない質問をしてみる。言葉は通じないわけだが
金髪は怪訝な顔をしつつも俺にナンっぽいものを差し出してくる
腹時計的にもこれがお昼ごはんということだろう。俺は受け取ったナンっぽいものにかぶりつく
ナンっぽいものはふわふわもちもちの食感で、パンというよりも芋もちのような味がした。
これは何ですか?いいえ芋もちですが正解だったか
「うまいな、コレ」
俺が嬉しそうに感想を述べると、金髪は少し嬉しそうな顔をしていた。
こいつは意外といい奴なのかもしれないなと感じた俺は、少し金髪に好意的に接するように心がけた
仲良くなれば早めに解放してもらえるかもしれないしね
しかし、それから1週間経っても俺が解放されることはなかった・・・