1章17
広場へ駆けつけると、魔族は広場の中央で悠然と突っ立っていた。自然体というやつだろう。
そこに単身でエールが飛び掛かり、魔族に1対1で戦いを挑む。隣接して攻撃を仕掛けるエールに魔族も素手で肉弾戦に対応している。距離が近すぎて魔法を放つ隙がないのだろう。
しかし、魔族の方が実力がかなり上なのか、戦い始めて間もないというのにエールは魔族の拳による強烈な一撃を喰らってしまう。槍の柄で直撃は防いだように見えたが、数m吹っ飛ばされ、広場の端の木に体を強く打ちつけられた。
だが、俺たちの反撃はここからだ。エールが戦っている間にキーフ族は魔族を包囲する形で広場に配置している。
そして、男性たちが一斉に火炎魔法を魔族に放った。
事前に聞いていた情報だと、炎を使う魔族に炎の魔法はほとんど効かないそうだ。だが、今回は火炎を浴びせる必要があるのだ。
魔族は少し眉を顰めたが、効果が薄いと判断したのか避ける様子もなく火炎の球を浴びつつ周りを警戒している。
そこで勝負は決まった。
突然大爆発が起きて広場ごと魔族を消し飛ばした。村人達は木の陰に隠れていたが、爆風に巻き込まれてあちこちケガをしたようだった。幸いにも大けがをした者はいないようだ。
「よっしゃああああああ!!!!」
そして俺は思わず叫んだのであった。村人達も呼応してはしゃぎだす。
何が起きたか説明しよう。
俺とおじさまAがせっせと掘っていた穴は、広場の中央に大釜を埋めるための穴だった。
そして、他の村人達には狩りに出てキノコの魔物を探してもらっていた。
ここまで言えば何が起きたか誰でもわかるだろう。
キノコの粉を使った地雷を作ったのだ。水と混ぜれば食料になるが、乾燥していれば爆薬のような効果があるこの粉。
大量に密閉空間に入れておけばかなりの威力になると考えた訳だ。そして、広場の中央に軽く砂を被せておき、キーフ族の魔法で火を着けた。
結果はご覧のとおり。魔族は跡形もなく消し飛び。完全勝利だ。
と思ったその時であった。
勝利の余韻に浸ろうとしていると、数十m先の方で爆炎が上がった。
キーフ族の表情が一瞬にして凍り付く。
魔族は死んでいなかった。爆発で吹き飛ばされただけだったようだ。
「いくぞ!!」
最初に判断力を取り戻したエールが村人達に叫ぶ。
ハッとした村人達はそのまま魔族の落下地点を目指す。
しかし、魔族は落下直後に広場に向けて燃え盛る火炎を放っていたようで、炎に包まれた森がキーフ族の足を止める。
女性達の魔法で消火をしつつ、なんとか火元と思われる場所にたどり着いたが、すでに魔族の姿はなかった。
エールの指揮の元、村人達は魔族を探したが見つけることはできず、すぐに日が暮れて村に引き返すことになった。魔族は逃げだしたのだ
皆はがっくりと肩を落として。誰もしゃべらなかった。
俺もあまりの落胆に何も考えることができなかった。
村に戻ってからは、エールが夜の警備を増やすとか諸々指示を出した後に、それぞれテントで眠ることになった。
翌朝になると村人達は元気を取り戻していた。
魔族を討ち取るまではいかなかったものの、1人の死者も出さず、魔族にもおそらく重傷を負わせたということで、かなりの快挙らしい。
それから数日の間、魔族の捜索や、村の復旧、ケガ人の手当などで皆忙しくしていた。
結局魔族は見つからず平和な毎日が過ぎていた。
俺はというと、悩んでいた。
確かに今までの死に戻りから考えると、最善の結果になったように思える。
だが、最高ではない。そこが胸に引っかかる。
俺が塞いでいる様子を見て、村人達が話しかけてくれるが、何となく後ろめたい気持ちがあり、うまく話すことができない。
どうにも居心地が悪く、俺は日中は村の外に散歩に出るようにしていた。
何日目かで散歩に出た際に、珍しく魔物と出くわした。キノコの魔物だ。普段は狩りで減らしているため、村の近くに魔物はほとんど出ないが、村から少し離れると時々こういうことがある。
村を出る時は槍を持たされているので、今さらキノコに怯えることはない。
だが、俺はそこで決心した。
キノコの頭を力いっぱい叩き、粉が噴き出す。そしてキノコが火の玉を飛ばし、俺は死んだ。