4 美少女天使はスゴかった
チュンっと小鳥のさえずりが聞こえ、木々の葉の隙間を日差しが通っている。
大雑把な地図とにらめっこしながら、獣道を進んでいく。
「もうそろそろのはずなんだけど……、道に迷ってないよね?」
「た、たぶん……間違ってないと思います」
ティナは、こちらに身を寄せて、覗き込むように地図を眺めている。
しばらくして、彼女は私と肩が触れあう程、密着している事に気付く。
彼女の顔はみるみる赤く染まっていき、慌てて私から離れていった。
別にそのままでも良いのにっと、満天の空を見上げる。
ゴブリンの住みかに近付いているはずだが、一向に現れないため、本当に道に迷っているのではと疑う。
とくに何も起こらず、暇だったので私とティナの装備を確認してみる。
私は短剣と布製の大きなバック、ティナは腰に掛けている真っ白な長剣のみだ。
今更だが、二人とも鎧などの装備は着けておらず、襲われたら一溜りもなさそうな身なりだ。
しかし、肝心の短剣はボロボロで使い物にならず、飾りと言っても間違いではない。
こんな事ならケチらずに、買い替えておけば良かったかなと後悔する。
そんな時、ティナが現れた時に感じた脱力感を思い出す。
それは魔力が枯渇する時と酷似していた。
仮にそうだとして、魔力を消費するのは魔法かスキルを発動しなければならない。
心当たりならある、神々しく輝いていた光だ。
そのような効果のある魔法は聞いた事がない、よって消極的にスキル【絵師】になる。
っといった、安易な考察である事を閃く。
スキル【絵師】を使って弓を造り出してしまおうといったところだ。
成功しだいで考察が合っているのかどうか分かり、弓も手に入る。
まさに一石二鳥だ。
そうと決まれば話は早い、ポケットからペンを取り出して地図の裏側に弓を描く。
すると、例の神々しい光と共に弓が現れる。
「おぉ、本当に出来ちゃったよ!」
「あ、あの、どうしたんですか?」
ティナが心配そうに訪ねてくる。
「あぁ、弓を作ろうと思ってね。私、あんまり戦えないからさ、少しでも役に立てたらなって」
そうティナに自慢するように弓を見せた。
成功した!っと、溢れてくる喜びに口角が緩くなり、ニコっと笑みが浮かぶ。
だが、疑問が残る。
今まで数えきれない程、絵を描いてきたが何故今になって、造り出せるようになったのかという事だ。
「んん~?」
ここ最近の記憶を辿り、何かひっかかる事がないかと探してみる。
……が、とくに思い当たる事はなかった。
「ま、魔物です……!」
「えっ?」
ティナの思いもしなかった言葉に、思わず間抜けな声を出してしまった。
それを合図に背後の生い茂っている草木から、数匹のゴブリンが姿を現す。
「うわっ……ゴブリン!?」
「こ、ここは私に任せてください……!」
ティナは鞘から剣を抜くと、私を置いてゴブリンに突っ込んでいく。
「えいっ、とう……!」
可愛らしい掛け声とは裏腹に、鋭く光る剣が容赦なくゴブリンを襲う。
一匹、二匹とゴブリンが一刀両断され、倒されていく様を見て、嘘でしょっと唖然とする。
その上、切り口は綺麗な平行線を描いており、相当な技量が必要だろう。
天使とはいえ、予想の斜め上をいったため、驚きを隠せなかった。
そんなティナであったが、背後にゴブリンが忍び寄っている事に気付いていない。
このままでは彼女が危ないと直感し、弓を構える。
だが、矢が無いことに気付く。
しまったっと後悔するが、短剣がある事を思い出す。
急いで短剣を取り出し、再び弓を構えて放つ。
「お願い、当たって!」
そう願うように放たれた短剣を目で追うと、狙っていたゴブリンの頭部に命中する。
「やった」と歓喜していると、何故かティナがこちらを向いて剣を構えている。
「せいっ……!」
掛け声と共にティナの投げた剣が、私の顔をスレスレで横切り、風圧で髪が揺れる。
突然の事に驚いて腰を抜かしてしまい、地面にお尻を打ち付ける。
恐る恐る後ろを振り向くと、剣が腹部に刺さっているゴブリンの姿があった。
ティナは前屈みになり、手を差しのべる。
「け、怪我はないですか?」
「おかげ様で……」
そう差し出された手を握り、起き上がる。
その間、生きた心地がしなかったため、眉がピクッと動いてしまっていた。
ポンッとスカートに付いた土を叩き落としていると、強い風が吹く。
ティナのスカートが風に煽られて浮かび上がり、パンツが見えそうになる。
このチャンスを逃すまいと、目を凝らす。
しかし、あと少しという所でティナがスカートを押さえてしまった。
見えそうで見えないというシチュエーションに、何か気持ち良さを感じたような気がする。
いや、そもそもパンツを履いているのだろうか?
こうして、私の中でティナのノーパン疑惑が上がったのだった。
先程の出来事を誤魔化すように、ティナが聞いてくる。
「こ、これで依頼は達成出来たんですよね?」
「うん、ゴブリンも八体倒したみたいだし、バッチリだね。……私の出番なかったけど」
そう悲しげに、ボソッと呟いた。
けれど、依頼を達成できた事は紛れもない事実。
達成できた事に嬉しさが込み上げ、ティナの手を握る。
「何にせよ、私達の初依頼。無事に達成出来て本当に良かったわ!」
「そ、そうですね……!」
ティナもまた、微笑んでいる。
このまま帰りたい所だが、まだ大仕事が残っている。
それは、討伐した魔物の一部を回収する事だ。
私が唯一倒したゴブリンの元へ歩き、頭部に刺さっている短剣を抜く。
「じゃ、討伐した証拠として耳でも持ってこっか」
「わ、分かりました……!」
グロいのが苦手だったらどうしようかと思っていたが、ティナはやる気満々のようだ。
ゴブリンの耳を短剣で切り取っていると、背後から、ふ~ん、ふふ~んっと鼻歌が聞こえてくる。
振り返ると鼻歌交じりに、次から次へとゴブリンの耳を切り取るティナの姿があった。
一見、鼻歌交じりにゴブリンの耳を切り取る、ヤバい人と思われてもおかしくない。
天然なのかな?っと思うが、可愛いからいっかっと、考えるのをやめた。