1 百合の名のもとに
金髪でいかにもチャラそうな男、彼の名はアーレス。
私が所属しているパーティのリーダだ。
彼を一言で表すなら、最低なクソ野郎がピッタリだろう。
アーレスは、豪快に酒を飲み干すと、ドンッと音を立てて力強くテーブルに置いた。
そして、向かいの席に座っている私を睨んでくる。
「何度も言わせるな。お絵描きしかろくに出来ないお前は、ただの足手まといなんだよ」
「だからって、ここで言う必要はないでしょ?」
わざとらしく大きな声で馬鹿にされたので、思わず苛立ってしまった。
今更だけど、私達が居るところは冒険者ギルド。
それも夕方と言うこともあって賑わっている時間帯だ。
アーレスは罰が悪そうに悪態をつく。
「別にいいだろ!」
「いい加減にしてよ! 私だって自分が皆の足を引っ張ってるのは分かってる。パーティを辞めろって言われたら素直に受け入れるわ。けど、あんな言い方はないでしょ! それも皆の前で!」
カチンときて、我慢できずに私も気を取り乱して感情に流されてしまった。
けど、後悔は少しもしていない。
むしろ、言いたいことを言えてスッキリした。
「役立たずの無能な癖に、口とお絵描きだけは達者なんですね」
言葉遣いだけはおしとやかな性悪女の、ミレスティーヌ。
パーティのメンバーであり、この通り私が相当嫌いなようだ。
お互い様だけど。
彼女は普段、猫を被っているため聖女なんて言われてる。
そして、その性悪女よりも私に敵意を剥き出してくる男勝りの少女、セルシャ。
「ギャーギャーうるさいな。分かってるなら、さっさとパーティ抜けなよ。お絵描きしか出来ないお子ちゃまはさ」
隠すつもりがないので達が悪い。
言いたいことを何でも言っちゃう。
それに加えて、思いどおりにならなかったら、直ぐに暴れて駄々をこねる、正真正銘のお子ちゃまだ。
まったく、鏡を見てから言って欲しい。
「……分かったよ! あなた達のお望み通りこんなパーティ、辞めてやるわ!」
今まで溜め込んでいた怒りが沸点に達して、思わず言ってしまった。
けど、言ってしまった限りは後戻りできない。
なので、そのまま流れに身を任せて冒険者ギルドを後にする事にした。
去り際に彼らの顔を見たのだが、私が辞めるとは思っていなかったのか、間抜けな顔をしていた。
宿に戻る頃には冷静さを取り戻していた。
ベットに仰向けになって、先程の行動に後悔する。
「はぁ……。パーティは辞めちゃったし、これからどうしよ……。お金だって稼がなきゃいけないし」
そう意味もなく呟いて、天井に手を伸ばす。
「考えてても仕方ないな。……イラストでも描こっかな」
ベットから降りて、椅子に腰掛けて机と向き合う。
引き出しから紙と使いなれたペンを取り出す。
そして、ペンを握り紙に大好きな絵を描いていく。
この瞬間だけが、私にとって唯一の居場所。
それと同時に、これだけは誰にも負けないという自信もある。
絵を描いている時は楽しく、家族ようなの温もりも感じる。
「あ~あ。こんな可愛い美少女が私を慰めてくれればいいのになぁ~」
完成した絵を両手で掲げて、じっくりと眺める。
「って……そんな夢みたいな話、ある訳ないよね」
そう呟いた時、何の前触れもなく絵が神々しく輝きだす。
「えっ!? ち、ちょっと、どうなってんの? 私のティナちゃんが輝き出しちゃったんだけど!」
突然の出来事にパニックになる。
そして、絵は更に強く輝き、本能が目を閉じざる得ないと判断した。
「っ眩し!」
輝きが収まると同時に、何故か全身が脱力感でだるい。
これと似たような事を、前に体験した事がある。
それは、魔力切れだ。
猛烈な眠気に襲われているなか、背後から可愛らしい声がする。
「あ、あのぉ……、私を創造してくれてありがとうございます。私、ティナって言います、よろしくお願いします……!」
振り返るとそこにはさっき絵に描いたティナと、そっくりな美少女が立っていた。
「え、えぇ……私はイリシャ。よろしく……ね?」
思わず自己紹介してしまった。
どうなってるのだろうか、サッパリ分からない。
にしても、彼女は自分が描いたティナとあまりにも似ている。
そして、女である私でも可愛いと思ってしまう程の美しさ。
おまけに、この感じ、私好みである恥ずかしがり屋だ。
間違いない。
舐め回すように、じっくりと見つめていると、ティナは恥ずかしそうにモジモジする。
「あ、あまり見つめないでください……」
「っあ、ごめんごめん。つい夢中になっちゃってさ」
堪能し過ぎたようだ。
それにしても、恥ずかしがる姿も愛おしい程可愛い。
ここまで来たら、これは神様が与えてくれた、ご褒美の夢なのではないかとまで思えてくる。
そうとなれば、やりたい放題やらせてもらおう。
「ねぇ、ティナ」
「は、はい。何ですか?」
「私の頭を撫でてくれないかな?」
「え、えぇぇぇ!? む、無理です。私には出来ません!」
ティナは両手を振りながら、頬を紅く染めて断った。
だが、簡単に引き下がる程私も甘くない。
ここは、情に訴え掛けてみる事にした。
あの性悪女がいつも使う手口である、上目遣いを真似て。
「お願い! ねっ?」
「うぅぅ、少しだけですよぉ~」
ティナは渋々、頭を撫でてくれた。
あぁ、何と素晴らしいのだろう。
体の隅々まで癒されていくではないか。
そして、私の欲望は更にヒートアップする。
「ごめん、もう我慢できない!」
ティナを抱き枕にするように、ベットへ倒し込む。
我慢しろと言うのが無茶なのだ。
「っえ? ち、ちょっと、抱き付かないでください……!」
「あぁ、私の心が浄化されていく気がするよぅ」
「ち、ちよっとぉ~……!」
「私は……幸せ者、だよぉ…………」
困惑するティナを他所に、私は優越に浸っていた。
もし私が男であれば、間違いなく事案だろう。
そんな事を考えていると、眠たくなってきてしまった。
ティナの温かい体温が直接、肌と接して伝わることもあり、眠りにつくまでに時間はかからなかった。
「あっ! ね、寝ないでください」
ティナは慌てて起こそうとする。
……のだが、気持ち良さそうに寝ているイリシャを起こす気にはなれなかった。