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気弱な僕は、あの日助けられた君に恋をした  作者: 福留詩音
第2章 それぞれの思い
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第7話 あの日の夢

 その日の夜、僕は寝る前に奏多に言われたことを思い出していた。

「一番考えるべきは、お前がどうしたいか……。良いこと言うな奏多は......」

 多分奏多は、自分がしてしまった失敗を僕にもして欲しくないと思ってあんなことを言ったんだろう。

 当時、自分は告白を出来ずに失敗してしまった。だから、僕には色々考えて自分で結論を出して欲しいんだろう。

 少なくとも夏休み前までは、光里があの転入生に落ちる事はないと確信を持って猶予を決めている。

 僕がどんな結論を出したとしても尊重してくれると言っていたけれど、奏多も僕には後悔はして欲しくないと思っているはずだ。

 告白をしないと選択した場合、ほぼ間違いなく僕は後悔すると思う。

 かと言って、すると選択した場合、振られた時にはしない方が良かったと後悔するんだろう。

「はぁ……。やっぱり、僕ってすごくめんどくさいんだなぁ」

 苦笑いをこぼした僕は、すぐに静かな眠りについた。

 その夜、夢を見た。小学校低学年の頃の夢だ。

 寝る直前まで光里のことを考えていたからこんな、良い夢とも悪い夢とも言えるような夢を見ているんだろう。

 この頃の僕は、眼鏡のことでクラスで虐められていた。

 小学生なんて、みんなと違って眼鏡をかけている。たったそれだけの理由で虐めに来るんだ。

 今考えると、実にしょうもない理由だけど、当時の僕はそのことでかなり塞ぎ込み、一時期学校に行けなくなった。

 そんな時、僕の家にわざわざ毎日通ってくれた女の子がいた。

「ねぇハル? 今日も学校行かないの?」

 当時は当然だけれど、今より光里も僕も幼くて、虐めなんて言葉があることすら知らなかった。

 だから、学校に行くと怖い目にあうと思い込んでいた僕は、両親になにを言われようとも絶対に家から出なかった。

「学校に行っても良いことなんてなにも無いから行きたくない。ねぇ光里ちゃん。僕って……変かな?」

「え? どこが変なの? ハルはハルでしょ?」

「じゃあ、なんであの人たちは僕のことを変だって……おかしいって言うの?」

 小学校に上がってすぐ、眼鏡をかけないといけなくなってしまった僕にはなんで僕が変だと言われるのか全く分からなかった。

 それは光里も同じだったみたいで、その時は何も言わずにただ首を振るだけだった。

 2年生に上がってすぐ、僕は学校に通えなくなってしまった。

 それは3年生の6月まで続き、このまま小学校卒業まで行くのかと薄々思っていた頃だった。

 僕にちょっかいをかけてきていた人達が、僕と違うクラスになったと光里から聞いて、一度だけでも行ってみようという気持ちになったんだ。

 だけど、ほぼ一年ぶりの学校は奇妙な感じがして、行くと決めた日から結局何日経っても行けなかった。

 この頃の僕は、久しぶりに学校に行くせいで、今まで通ってなかった分、周りの目が気になって余計に行けなくなる現象に陥ってしまっていた。

「じゃあさ、キツくなったら先生に相談して帰らせてもらったらどう? 明日私が試してきて、もし大丈夫そうだったら一緒に学校行こ? 奏多も心配してるよ?」

 当時の光里は、学校を休んだことなんて僕の知る限りなかったし、勉強だって時々教えてくれるほどの優等生だった。

 そんな子が、僕の為に初めて早退をしようとしてくれている。

 幼いながらも、この時初めて光里をただの幼馴染と見れなくなったんだ。

 そして翌日、本当に学校を早退してきた光里は、その足で僕の家にやってきた。

「大丈夫そうだったよ! 明日私も一緒に行ってあげるし、奏多も来てくれるって言ってたから大丈夫!」

 その日は、部屋で閉じこもっていた僕に、初めて光が射した日だった。

 翌日学校に行ってみると、やっぱり一部の人達からは奇異な目で見られて、すぐに帰りたくなったけれど、それ以上に心配してくれた人が多かった。

 だけど、一年前のトラウマがそう簡単に消えるわけじゃない。

 最初から教室にはやっぱり入れなかった。 

 その日は保健室でプリントを解きながら過ごしたは良いものの、興味を持った同級生が何人も休み時間に保健室に押し寄せてきた。

 そのせいで僕は限界を迎えて、3限目が始まる前には早退していた。

「無理はしないでいいから、これからも学校には来い。俺と光里以外とは目も合わせないことだってやろうと思えばできるだろ?」

「私のお父さんも言ってたけど、学校が全てじゃないんだから無理に来る必要は無いよ?」

 2人はそう言ってくれて、僕は週に一回のペースで登校することにした。学校に行かない日は家で勉強をすることを条件に、父と母には承諾してもらった。

 この頃はまだ小学生だったから、今の自分が光里に抱いてる感情がなんなのか分からなかった。

 ただ、光里がそばに居ると妙に安心するというか、少しだけ気になり始めている感じだ。

 だけどそのことは、自分の胸にしまって答えが出るまで封印することにした。

 それも数年後には奏多にバレてしまったんだけど……。

 結局完全に教室に戻れるようになったのはそれから1年後とかだった。

 しかも、僕は幼馴染の2人としか会話をしなくなってしまった。2人しか信用出来る人が居ないと、幼いながらも感じ取っていたんだろう。

 中学でも同じで、幼馴染の2人以外とは目も合わせず、会話すら必要最低限で過ごしていた。

 しかも、当然のごとく中学に上がる前はちゃんと通えるのか凄く心配された。

「中学はどうすんだ? これそうか?」

「正直、分からないよ。奏多達以外とは関わらないんだから少しは楽だろうけど……」

「それは私的には少しどうかと思うけど、ハルがそれで良いならお姉ちゃんは全力で応援するよ!」

 そういえば、中学に上がるかその少し前からだった。急に光里が僕に対して、自分のことをお姉ちゃんと言うようになったのは。

 この頃はあまり深く考えなかったけど、今思い出してもなぜ急にそんなことを言い出したのかは分からない。

「ありがとう2人とも。中学でもよろしくね……」

 夢の中の奏多と光里が笑ったところで、枕元に置いてあるデジタル時計のアラームが鳴って、僕は懐かしい世界から引き戻された。

 起きた時、僕の目からは少しだけ涙が溢れていて、頬を伝っていた。

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