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第4話 険悪

 翌日、奏多と一緒に登校している時、僕達は昨日の転入生のことをまた話していた。

「で? 仮にもお前の良き相談相手として聞くんだけどよ? あの転入生がまじで光里のことを好きだったらどうするつもりなんだ?」

「良き相談相手なのは事実として、それとこれとは関係あるの?」

 奏多には、僕が光里のことを好きなことも好きになった理由も、ほとんど全部を話していた。

 その関係で、中学の頃から色々相談に乗ってもらっていた。

 毎回的確なアドバイスはくれるけど、結局僕が原因で関係にほとんど進展はなかった。

「大ありだろ! 昨日光里はあんなこと言ってたけどよ。実際問題、俺は怪しいと思ってるぞ」

「それはまたなんで?」

 僕はてっきり、昨日の「告白されても断る!」って発言で勝手に終わらせてたけど、奏多は怪しいと思ってるらしい。

 恋愛のことに関しては、悔しいけど奏多には敵わない。僕には恋愛経験なんてものは無いから。

 だけど、奏多は小学生の時から色んな人の、それこそ僕以外の人からも恋愛相談を受けていたらしい。

 それのおかげで、付き合ったことは無いけど僕より恋愛の経験値は多いらしい。

 僕は付き合ったことないんだったら大して変わらないと思ってるけど......。

 僕は小学生の時から光里意外の女の子には興味が無かったし、告白されるなんてことも無かったから奏多との恋愛経験値は変わらない気がするんだけども。

「光里が言ってんのは、相手のことをなんも知らない状態で付き合うのが無理ってだけでだろ。仮に相手のこと色々知ってから告白されたら分かんないって安易に言ってるだろ?  俺はそこを心配してんだよ。昨日も言ったけど、俺はあの転入生あんまり好きじゃねぇからな」

「なるほどね。でも、まだそうと決まったわけじゃ無いんだし、大丈夫でしょ」

 表面上は大丈夫だと装っているけれど、本当は奏多にそう言われて確かにその通りだと納得していた。

 光里の性格を1番知っているのは、間違いなく僕達幼馴染だ。

 しかも、奏多がそれを言うと妙に説得力があるのも事実で、なんだが不安になってきた。

 ただ、光里があの転入生に告白されても受けない理由を認めてしまうと、仮にあの転入生が本気で光里のことが好きだった場合、グイグイ来られると今の僕には勝ち目がない。

 だから本心では分かっていても認めたくないんだ。

「どっちにしろ、今年中に勝負決めないといい加減誰かに取られると思っといたほうがいいぞ? 新入生も入ってきてライバルが増える可能性だってあるんだ。さっさと勝負しに行かないと、本気でヤバイと思っとけ?」

「分かってるよ……」

 自信なさげに答えた僕に、奏多は少し不安そうだったけど校門前についたことでこの話題はお開きになった。

 僕が光里のことを好きなんてことは、当然学校の人には秘密にしている。だから極力学校ではさっきのような話はしないことにしている。

 校庭に見える多くの制服姿の人を前に、思わず一度深呼吸をした。

 まるで、初めてこの学校に来た時のような緊張感で校門をくぐった僕は、昨日よりも多くなっている生徒の数に吐き気を覚えた。

「相変わらずだなお前…...。ほらさっさと行くぞ」

 そんな僕を見かねて手を引いてくれる奏多が、この瞬間だけは神様にさえ見える。

 僕は人と関わるのが苦手だけど、それよりも苦手なのが人混みだ。あまりに人が多いと吐き気が僕を襲ってくる。

 これは小学生の時のトラウマが原因だと思うけど、それは今言っても仕方ない。

 桜の花びらがちらほらと落ちている校庭を見ながらも、なんとか奏多に手を引かれて歩いていた。

 そんな調子だった僕は、奏多が急に立ち止まったことで反射的に前を向いた。

 意外なことに、僕達の前にいたのはさっきまで話題に出ていた張本人の転入生だった。

「おはよう。随分顔色が悪いみたいだけど大丈夫?」

 男子にしては少し高い、だけどどこか柔らかみのある声で喋ったその人は、見間違いでもなんでもなくあの転入生だった。

 昨日の自己紹介の時もこの声を初めて聞いた時、男子にしては高い声で驚いたからよく覚えている。

「よう。朝から何の用だ? 随分おモテの転入生さんよ」

 僕が何も言えずにボーッとしてたからなのか、代わりに奏多が喋ってくれた。

 すごく敵意が剥き出しになってるけど、僕も正直今の奏多と大差ないと思う。

 かなり敵意むき出して、お前には光里は渡さない!みたいな表情を作っている気がする。

 さっき自分でこの人が光里を好きなんて決まった訳じゃないと言いながらこの始末だ。

 なんだか自分が情けない。

「僕はずいぶん嫌われてるみたいだね。そこまで嫌われることをした覚えはないんだけどな……」

「だから何の用だって聞いてんだけど。独り言言う前に俺の質問に答えろよ」

「ちょっと奏多。もう少し抑えて」

 なんとか宥めようとしても、未だに吐き気に襲われているせいで立っているのがやっとの僕は、それだけしか言えなかった。

 もちろん奏多は聞く耳を持たず、半ば威嚇みたいなことをしてる。

「僕、君達に嫌われるようなことした覚えはないんだけど、なにかしてしまったかな?」

「いや? ただ俺は朝は特別機嫌が悪いんだよ。要件が無いならどいてくんないか?」

「そう? ならいいや。それで要件なんだけど、君はあの子とどういう関係なの?」

 あの子のことが誰なのか、昨日この人のことを見ていた僕にも、奏多にもすぐ伝わっただろう。

 それと同時に、懸念していたことがおそらく間違ってないだろうということも、ここで確定した。してしまった。

「あの子ってのは光里のことか? だとしたら俺達はただの幼馴染だ。だからなんだよ」

「そうなんだ。いや、昨日随分仲良さそうに話してたから、彼女の彼氏とかだったらどうしようか考えていただけさ」

「そりゃどう言う意味だよ」

「ん? そのままの意味だよ。君達がただの幼馴染なら、彼女を僕が狙っても構わないよね? だって、彼氏じゃ無いんでしょ?」

 その言葉が、吐き気で満身創痍だった僕の心にストレートに突き刺さった。

 この人の言ってることは何も間違ってない。僕らはただの幼馴染で、彼氏彼女の関係でも無ければ、当然姉弟関係でも無い。

 ただ、この人に光里を奪われるのは嫌だ。それだけは、絶対に嫌だ。

「てめぇ、喧嘩売ってんのか? それをわざわざ俺たちに言う必要あるか?」

「だからさっきも言ったじゃないか。彼氏かどうかの確認をしただけだって。じゃあ彼女によろしく」

 そう言って転入生、もとい織田さんは靴箱の方に走って行った。

 彼の姿が完全に見えなくなった後、奏多が小さく舌打ちしたのを僕は聞き逃さなかった。

 それから教室に上がるまで、奏多は不機嫌そのものだった。

 それでも、教室で友達と楽しそうに話している光里を見た瞬間、ガラっと態度を変えて表面上だけはいつもの調子のいい奏多になった。

「奏多〜ハルおはよ〜」

「おう光里。ちょっとこいつ頼むわ。俺はちょっと行くとこあるから」

 今にも倒れそうな僕を光里に任せ、奏多は走ってどこかに行ってしまった。

 残された僕は光里に肩を貸してもらいながら、なんとか自分の席に座ることができた。

「また〜? ねぇハル? そろそろ登校くらいまともに出来るようにならないとマズイんじゃない? 去年はこんなに酷くなかったでしょ?」

「そんなこと言われてもね......。今日はなんでか人が多かったんだよ。仕方ないじゃん......」

 教室にはさっきまで奏多と不穏な空気を出しながら会話をしていたあの転入生の姿もあった。

 ただ僕は、人酔いでそれどころじゃなくて1時間目の授業が始まるまで自分の机に突っ伏していた。

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