表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/26

第3話 昼休みの一時

 その日の昼休み、相変わらず人気の転入生を横目に見ながら、僕ら3人は机をくっつけてお弁当を食べていた。

 自己紹介の時ですら光里を見ていたような気がするその転入生のことを、僕はどうにも好きになれなかった。

 授業中もチラチラと見てたけど、ずっとつまらないとでも言いたげに聞いていたし、どこか怒ってるような気さえする。

「なぁ。実際どう思うよ。あの転入生」

 そんなことを考えていると、同じようなことを思ったのか、奏多が少し苛立ちながら痺れを切らしたようにそう聞いてきた。

「どう思うって言われても…。噂通りイケメンだったからあんな状態になってるんだろうな〜くらいしか思わないけど?」

「光里はあんな顔がタイプなんだ......。まぁ僕は別になんとも思わないよ。いつも通り、僕にはあまり関係ないからね」

 自分の本心を隠しながらそう言って見たけど、奏多はもちろん、光里にもその嘘はバレてるみたいだった。

 2人とも僕があの人を嫌ってることくらい容易に分かるみたいだった。

 苦笑しながら相槌をうつ姿が「全部わかってるぞ」とでも言いたげだった。

「俺もあいつのことはどうにも好きになれそうにないわ。なんか〜そう。なんか嫌いだわ」

「ねぇ奏多? 正直に言っていいことと悪いことがあるって知ってる? せめてもう少しボリューム下げたら?」

「良いじゃねぇか別に。俺は正直なだけなんだよ。光里も正直言ってああいうタイプ嫌いだろ?」

 そう言われた光里は何も答えず、ただ苦笑しながら困ってるように見えた。

 多分、図星なんだろう。朝はイケメンの人が来ると少しだけ気にしていたけど、いざ見てみるとあんまり好きになれそうになかったって感じなんじゃないかな。

 僕にとっては嬉しいけど、それは光里の気持ちであって相手がどう思うかはまた別だ。

 実際、授業中にも何回か光里を見ていた気がした。

 これに関しては僕の勘違いかもしれないけれど、朝クラス表のところで光里を見ていたのはまず間違い無いし、自己紹介の時もチラッと見ていた。

「俺の観察眼を持ってしても、あいつの真意とか中身までは分からん……」

「奏多さ、その観察眼に自信持ちすぎだって。ゲームやってるだけでその人の中身まで分かるようになるなら僕もやってるよ」

 奏多は中学の頃一時期だけではあるけれど、パソコンで出来る心理戦型のゲームにハマっていたことがある。

 ゲームの内容まではやった事がないし奏多は説明が下手だから聞いても分からなかった。

 ただ、そのゲームをやりまくった結果、ある程度その人を見ただけでどんな性格なのかが分かるようになった!なんて言い出した。

 僕も光里もそんなのは全く信じてないけど、本人はかなり自信を持ってるらしい。

「お前もやってみろって! まじで面白いぞ!? いや話逸れたけど、多分あいつ、周りの女子を鬱陶しいとか邪魔だとか思ってる気がするんだよな」

「そんなのは僕だって見れば分かるよ。明らかに嫌そうじゃん」

 そう。僕がその転入生を好きになれない理由の1つは、善意で近付いてきてる周りの女子に対してあまりいい感情を持ってなさそうなところだ。

 人それぞれ考え方は色々あるだろうし、女子に群がられて鬱陶しく思う気持ちも、僕は人と関わるのが苦手だから分かる。

 ただ、それを隠そうともしないで顔に出しているにも関わらず、一向に追い払おうとしないところが余計に好きになれない。

 嫌ならさっさと追い払えばいいと、そう思うんだ。

「珍しいよね〜。女の子にグイグイ来られて嬉しくない男子なんて。奏多なら嬉々として受け入れるでしょ?」

「その言い方......なんか棘感じるなおい。まぁ普通、っていうか大体の男子はそんな感じになるだろ。それ言うならイケメンに群がらない女子も珍しいんじゃないか?」

「そんなことないと思うけど。モテてる人を好きになれない女の子って意外と多いと思うよ?」

「そうなんだ......」

 まぁ僕にはモテるなんて縁のないことだし、そんなに関係無いけど一応覚えとこう。

 光里に告白するにしても、なにかきっかけが無いと僕には勇気が出ない。

 そのくせ嫉妬はするし、光里の言動に一喜一憂する。

 僕ってもしかして、めんどくさい……のかな。

「なぁ。あいつこっち見てないか?」

 ちょうどお弁当の中身が空になったところで、奏多がまた不機嫌そうにそう言った。

 思わず転入生の方を見ると、なにも話さないその転入生の態度に飽きたのか、それとも他の理由で離れたのかは知らないけど、さっきまで周りにいた女子はすっかりいなくなっていた。

 女子達がいなくなって自由になった転入生が真っ直ぐ光里の方を眺めてる姿が目に入ってきた。

「そう言えば、朝も光里のこと見てたよ? ほらクラス表のところで」

「あ〜見られてる気がするって言ってたアレか。なぁあいつ、光里のこと好きなんじゃねぇの?」

 冗談っぽく笑いながらそう言った奏多に、僕も薄々そんな感じがしていたと心の中で思った。

 朝奏多も言っていたけど、光里はぱっと見可愛い女子高生にしか見えない。

 でも、一目惚れで光里のことを好きになるような人に光里を奪われたくは無い。

 僕が光里を奪われても、なんとか我慢が出来るのは、真横で不機嫌そうにその転入生を見てる奏多くらいだ。

 幼馴染の奏多に奪われるなら、納得は出来ないけど他の男に奪われるよりはマシだ。

 まぁ、奏多は光里のことを幼馴染の仲のいい友達としか見れないって前に言ってたし、その心配はないけど。

「どうする光里〜。あいつに告白されてみろ? どうだ受けるか?」

「確か、織田(おだ)翔真(しょうま)君だっけ? 受けるわけ無いでしょ? 私あの人のことなにも知らないし」

 ほぼ即答だった。

 光里はそう答えると分かってたけれど、露骨に嫌そうに答えてる姿を見てなんだか安心した。

 万が一にも、あの人に取られるって事は無さそうだ。

「まぁ光里はそう言うだろうな。なぁ、話題変えないか?」

 一番最初にあの転入生の話を始めたのは確か奏多だった気がするけど......僕もあの人に関してはもう話したくなかったからちょうどいい。

「そう言えば、駅前に新しい喫茶店できたの知ってる? 今度行ってみない?」

「私はパス〜。2年になったらバイト始めるって決めてたし〜」

「あ〜そう言えばそんなこと言ってたね。奏多は?」

「おう! 俺はいつでも行けるぞ!」

「なら今度行こ。そう言えば、光里はバイト先もう決めたの?」

 そう言った僕に、光里はなぜか笑って、人差し指を頬に当てながら「内緒」と答えた。

 光里とはかなり長い付き合いだけど、こんな反応をされたのは初めてでどんな反応をすれば良いか分からなかった。

「なんだそれ。気持ち悪りぃな」

「うわ〜酷くない? つゆちゃんには可愛いって言われたんだけど!」

「お世辞だお世辞〜。背筋がゾワってきたわ!」

 自分の両肩を抑えながら少し震えてそう言った奏多は、心底楽しそうだった。

「奏多は彼女が欲しいって嘆く前にその口の悪さをどうにかしたほうがいいと思うよ!」

 心からの叫び声を上げた光里は、その内容とは裏腹に面白そうに笑っていた。

 僕ら3人の会話は、いつもこんな感じだ。

 だけど、ひとつ言うなら僕も光里の意見には同意する。奏多はまずそのデリカシーの無さをどうにかしないと、絶対彼女は出来ないと思う。

 まぁ単純に、奏多には今の光里の行動は本当に気持ち悪かったんだろう。

 光里ってあんなことをする女の子じゃないからそう思うのも分かるけどさ、言い方はもうちょっとあったでしょと。そう思えてならない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ