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第2話 不穏

流石に去年から通ってる高校だから道に迷うなんてことは無かった。

 急いで来たせいで少しだけ汗をかいていた僕は、校門前で走るのに疲れたのか歩いて追いかけて来る光里を、ハンカチで汗を拭きながら待っていた。

まだ春なのにこんなに暑いせいで少し汗をかいてしまったと太陽に無意味な愚痴をこぼし、光里がやっと追いついた所で一緒に校庭に入っていった。

 校庭には、僕と違う色のネクタイをした男子生徒が何十人も歩いていた。当然、光里と違う色のリボンを付けた女子も何人かいた。

 全員同じ水色のネクタイやリボンを付けているところを見るに、新一年生なんだろう。

 あまりの多さに、僕は今日何度目かのため息をついた。

「ねぇハル? そんなにため息ばっかりついてると幸せが逃げるんだよ?」

「仕方ないじゃん。僕はこんなに人が多いところは苦手なんだ」

 そう言った僕を、光里はどこか悲しそうに見つめていた。

 僕が今日気分が悪い理由に、人が多いところが苦手という理由もある。というか、それが一番大きな理由だったりする。

 僕が人と関わるのが苦手になったのは小学生の時からだから、光里としては何か思うところがあるのかもしれない。

 中学の時はしつこく「私達以外の友達も作りな? 将来困るよ?」なんて言って心配してくれていた。

まぁ僕はそれでも話を聞かずに光里達以外とは関わろうとしなかったけど。

なんとなく僕たち2人の間に微妙な空気が流れ始めて来た頃、靴箱のあたりでテンション高く手を振ってる人を見つけた。

「お。やっと来たな? こっちだこっち〜!」

新入生に怪訝そうな目で見られながらも、その態度を崩さないのは鈍感なのか、それともわざとなのか分からない。

見えたその男の正体は、奏多(かなた)だった。

相変わらずの若干幼さの残るうるさい声と似合ってない黒眼鏡が特徴的な奴だ。

「相変わらず元気そうだね奏多。寝坊したと思ってた」

「俺がこんな大事な日に寝坊なんてするわけないだろ? それよりさ〜新入生多すぎてちょっと引いてんだけど」

「そんな事言わないの。私達の可愛い後輩だよ?」

「去年の俺らの時より絶対多いだろ。がっつり髪染めてヤンキーみたいな奴もさっきいたぞ?」

そんな奏多も、最近銀髪に染めたじゃんというツッコミはなんとか飲みこんだ。

ていうか、髪染めてるだけでヤンキーって決めつけるのはどうかと思う......。髪染めてる人は全員ヤンキーって、偏見が酷すぎる。

「向こうに新しいクラス表出てるぞ? 早く確認しに行こうぜ〜」

「奏多はまだ確認してないの?」

「お前らを待ってたんだよ。新入生の値踏みとかしてたしな〜」

「だから値踏みとか言わないの。そんなんだから彼女できないんだよ?」

「それ今関係ないだろ!?」

 大声でそう言った瞬間、辺りを歩いていた新入生たちが再び奏多の事を怪訝そうに見た。

おまけに、今度はその中に僕達も入っている。僕は声を大にして言いたい。

「変なのは奏多であって、僕達は関係ない!」と。

それにしても、奏多は中学の頃から彼女が欲しいと嘆いているけど、その理由は未だに分からない。

別に光里に彼氏ができた事なんて無いし、もちろん僕にもそんな人はいた事がない。それなのに、1人だけ変に彼女が欲しいと嘆いている。

奏多は僕と違って明るいし、会話の輪の中に自然に入って行けるほどのコミュニケーション能力もあるからモテると思うんだけどな。

光里と僕はそんな奏多の姿に苦笑しながら、靴を去年と場所が変わった靴箱に入れて、真っ白のシューズに足を入れた。

去年と違う靴箱ってだけでなんだか変な感じがする。凄く変な違和感がある。

奏多に案内されて新しいクラス表が張り出されてるらしい場所まで向かうと、去年も見たことがある顔が何人かいた。

もちろん見たことがあるってだけで話したことがある人なんて全然いないけど。

「蒼井〜蒼井〜あ! あった! ハルと同じクラスだ!」

雨宮(あまみや)悠人(はると)は……本当だ。同じだ」

「清水〜清水〜と。お! 俺も同じじゃんか! よっしゃ! 今年も全員同じだな!」

「本当だね〜! よろしくね〜」

「おう! よろしくな〜! って、今更よろしくってなんか変じゃね?」

確かに去年も同じクラスだったし、幼稚園から一緒に過ごして来たのに、今更よろしくって言うのもなんだかむず痒い。

僕は正直、光里と同じクラスになれてすごくホッとしてる。

 告白する勇気はないくせに、光里が他の男子と話してたらやっぱりなんだか嫌だし、隣の席になれたり、同じクラスになれたりしたらやっぱり嬉しい。

「なにハル〜? 嬉しくないの? また1年一緒なんだよ?」

「嬉しいよ。光里か奏多がいないと僕は1人だからね」

苦笑いしながらそう言った僕に、今日一番心配そうなトーンで奏多が言った。

「お前そんなんで本当に大丈夫なのかよ。せめて1人くらい友達作れよ」

「友達は光里と奏多の2人だけで十分だよ。僕が人と関わるの苦手なの知ってるだろ?」

自嘲気味に笑いながらそう言った僕は、2人が微妙な顔をしてることに気が付いた。

 やっぱり2人とも、僕が他に友達を作ろうとしない事に何か思うところがあるらしい。

まぁそれでも僕が友達を他に作るときなんて多分来ないけど。

「ねぇ、なんだか見られてる感じしない?」

心の中で完全に開き直っていると、光里が突然そんな事を言い出した。

僕は別にそんな感じは全然しなかったけど、奏多も薄々そんな感じがしていたらしい。

改めて周りを見てみると、確かにこっちを見ている男子を見つけた。正確に言うなら、僕らじゃなく光里を見てる感じだけど。

その男子は、僕と目が合うとサッと階段の方へと歩いていった。

一瞬だったせいでネクタイの色が見えなかったからどの学年なのか分からなかったけど、少なくとも去年僕達のクラスにあんな人はいた記憶がない。

「はぁ。まぁ光里は見た目だけは良いからな。どうせ新入生か誰かが見惚れてたんじゃねぇの?」

「見た目だけってなに!? え他は?」

「私服のセンスとか微妙だろ。しかも、またボタン掛け違えてんじゃん」

 呆れながら奏多が指摘した制服を見ると、確かにボタンがズレてる事に気が付いたのか、光里は少しだけ顔を赤くしながら、小さく呟いた。

「嘘!? 後で直しとこ……」

「今気付いたの? 僕のことより光里の方がよっぽど心配だけど......」

「ちょっと! 気付いてたなら早く言ってよ! も〜!」

光里は頬を少しだけ膨らませながら怒ってたけど、僕も奏多の意見には同意する部分がある。

例えば、光里は確かに見た目は美少女と言ってもいいくらい可愛い。だけど、休日出かけたりする時に着てくる服が絶妙にダサいところは同意する。

もちろん、見た目以外にも可愛い所は沢山あるけど……。じゃなくて、光里にはとにかく、私服のセンスだけはどうにかしてほしい。

「まぁこんなどうでもいいことはさておいてだな」

「どうでもいいこと!?  奏多に彼女できないのそういうとこだよ!?」

「あ〜まぁ今年はどうにかしてみせるって。とにかく教室上がろうぜ」

 どうにかする気なんて全く無さそうな顔でそう言った奏多は、さっさと階段の方へと足を運んだ。

光里はまだ不満げだったけど教室に上がること自体には賛成みたいで、渋々といった感じで僕たちと一緒に2階へと向かった。

去年は3階だったから、1個下の2階はやっぱり変な感じがする。

階段の踊り場で喋ってる数人の女子グループや、廊下で走りながら友達とふざけあっている男子達の間を縫って2年3組の教室に着いた僕達は、教室の前のドアに貼られている席順表を見て自分達の席に向かった。

教室の中は、既に去年同じクラスだったろう人達が複数固まって喋っていた。

 光里の席は今僕らが入ってきたドアの1番近く。黒板を上にして教室の右上の位置で、僕の席は光里の真後ろだった。ちなみに、奏多は僕の左隣になった。

去年は席替えが中間テスト後だったから、今年もそうだとしたら、テスト中は奏多がうるさいだろうな〜と少し憂鬱になった。

「なんだその微妙そうな顔。あ! 今年もテストまで席替え無かったら答え見せてな?」

ほらこういうこと言い出す。去年もこんな感じで結局助けたらすごく感謝されたんだけど、今年もか。

「少しは自分で勉強しなよ。僕だって絶対に合ってるって自信は無いんだから……」

「なに言ってんだよ。全国模試一桁台のくせに〜」

「それは今関係ないだろ。光里からもなにか言ってよ......」

相変わらずな奏多に呆れながら、前の席でボーッとしてる光里に助け舟を求めた。

ただ、光里から出てきたのは僕が求めてる言葉とはまったく違った。というか、全然関係ない事だった。

「ねぇ、あの人だかりなんだと思う?」

 そう言われて光里が見てる方を見てみると、確かに人だかりが出来ていた。しかも、全員女子の。

奏多も振り向いて、羨ましそうに眺めていた。

まぁ多分、イケメンの男子が女子に囲まれてるとかなんだろう。大体新学期が始まる時はこんな事が起きやすいと奏多が前に言っていた。

「お。あれって噂の転入生じゃねぇか? イケメンって噂は本当らしいな〜」

「へ〜そうなんだ。光里も行くの? さっき興味持ってたじゃん」

僕は少しだけ声に不安を乗せてそう言った。誰が望んで自分の好きな人に違う男の方に行って欲しいと思うのか。

もちろん、僕も行って欲しくはない。

「私は良いかな〜。ああいう人って、私苦手だから」

苦笑いしながらそう言った彼女に、僕は正直ホッとした。

ただ、HRの時間に去年と同じ担任の神藤(しんどう)陽菜(ひな)先生にその転入生を紹介された時、僕は嫌な予感がした。

だってそれは、さっき靴箱のクラス表の所で光里を見ていた男だったからだ。

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