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エピローグ

 翌日、僕は奏多と一緒に学校への道を歩いていた。

 昨日の夜中に色々と話したけれど、その時に登校とかもそこまで特別には変えたくないとのことだった。

 具体的には「別にそこまで色々変えなくてもいいんじゃ無い? 学校で噂になる方がめんどくさいし、休みの日だけいつもと違うことすればいいと思う!」そう言われた。

 僕も、奏多と音無さん以外に色々言われるのはめんどくさいのでゴメンだ。

 本音で言うなら、奏多は確実に色々いじってくるからちょっと嫌だけど、色々協力してくれたしそれくらいは目をつぶろうと2人で言ったのだ。

「なんだそれ! ふざけた約束だなおい!」

「そんなこと言っても……。本当のことじゃんか」

「本当のことでも言っていいことと悪いことがあるって前に言ってたのは誰だっけか? なぁおい!」

「まぁまぁ。帰りに光里がバイトしてるカフェでなにか奢るから許して」

「言ったな? 覚悟しとくんだな!」

 なんか、映画館で奏多のお姉さんに苦し紛れに電話すると言った時のことを思い出した。

 僕はまた、とんでも無いことを言ってしまったような気がする。なにを奢らされるか今から不安なんだけど。

 今日は光里のシフトが入ってるから、一緒に帰ろうとカフェまで行く約束だったから咄嗟に言ってしまっただけなのに……。

「まぁその奢りの件は後で話すとしてだ。音無な? どうも光里の気持ち知ってたらしいんだよ」

「うん。それは光里から聞いた。中学くらいから、僕が奏多に色々相談するみたいに、光里も音無さんに色々と相談してたみたいだよ? 本人は僕らにまで相談を持ちかけられるとはさすがに思ってなかったみたいだけど」

「なるほどな。あの時なんか変だと思ったのはそう言うことか。知ってたんなら教えてくれりゃいいのにな!」

「答えてくれないって勝手に決めつけて、相手を聞かなかったのは僕らだよ……。音無さんを責めるのは違うでしょ」

「そんなことは分かってるわ! 理屈で分かってても納得できないことってあるだろ! それで今怒ってんだよ!」

 なんでこんなことで僕が怒鳴られてるのか全く分かんないんだけど。

 音無さんを責められないからって僕に向かって怒るのはやめてほしい。

「てか、あのクソ野郎どうする? まだ光里がフリーとか勘違いしたらアタックしてくんじゃねぇの?」

「ああ。その件は多分、意外とすぐに解決すると思うよ? 今日光里が自分で説明するらしいから」

「いや、普通そう言うのって男の仕事だろ……」

「僕や奏多があの人のことを嫌ってることはなんとなく分かってたらしいから、自分が言うって。そうなったら聞かないのは奏多も知ってるでしょ?」

 ちなみに、僕は昨日光里に言われたことを結構気にしていたりする。

「男らしくも無いし、カッコよくも無い」って言われたことだ。

 自分でもその通りだと思ってるから反論はできないけれど、好きな人にそんなことを言われたら少しは傷付く。

 だから、少しでも男らしくなろうと今日から頑張ってみるつもりだ。具体的に何をすれば良いかなんて分からないけど。

 その後もくだらないことで怒られ続けた僕は、学校に着く頃には結構げんなりしていた。

 そんな時、校門前で待っている人物を見て、さらに気が重くなった。

「あいつ、あんなところで何やってんだ?」

 そう。その人物は、さっきまで話していた転入生だった。

 校門に寄りかかりながら、誰かを待っている様子だった。周りの生徒と違って、すでにカバンを持ってないから、1回教室まで行ってここで待っているんだろう。

 そして多分だけれど、待っているのは僕らだろう。

 正確に言うなら、光里に事情を聞いて僕を待っているってところだろう。

「奏多。先に行っててくれ。これはもう僕の問題だ。多分、あの人が待ってるのは僕だけだし、ここでまた奏多に頼っちゃうと、また光里から男らしく無いとか言われちゃうから」

 僕のその真剣な顔を見て、奏多は一言だけ愚痴を言ってすぐに僕より先を歩き始めた。

「はぁ。どんだけ光里のこと好きなんだよお前。10分以内に教室に来なかったらダッシュで戻るからそのつもりでいろ」

「分かった。ありがとね」

 奏多を見送った後、僕は校門で待っている転入生に自分から話しかけた。

 すると案の定、待っていたのは僕だったらしく校舎裏まで連れて行かれた。

 ここは普通の生徒は滅多に入らないし、新入生なら多分知らないような場所だ。

 あちこちに上級生の仕業だと思われる落書きや、ゴミの散乱した光景が広がっている。

「それで? わざわざここまで連れてきた理由を聞いて良いかな?」

 内心はこんなところに連れて来られて正直怖いけれど、必死に自分を奮い立たせて冷静を装っていた。

 目の前の転入生は全く表情を変えず、なにを考えているか全く分からない。

「光里さんと付き合い始めたって言うのは、本当ですか?」

 唐突にそう言われて、しかもとても小さい声だったので聞き取りづらかったけど、なんとか聞き取れた僕はうんと頷いた。

 すると、急に見たことないくらい残念そうな顔をした転入生は、すぐになにを考えているか分からない顔に戻った。

「そっか。なら僕は手を引くよ。好きな人に好きな人が出来たんだ。それはめでたいことだよ」

「面倒なことにならなそうでなによりだけどさ。やっぱり、君は光里が好きなわけじゃないんだね」

「ん? それはどう言うことかな?」

「僕の親友が言ってたんだ。本当に好きなら、どんな手段を使ってでも奪い取れって。それをしないってことは、光里に対する気持ちはその程度だったってことだ」

 僕はまだ、あの喫茶店でのこの人の発言を許していない。

 本人は妹さんと似ているから光里を好きになったわけじゃないと言っていたけれど、それも怪しいものだ。

 自分では気付いていないけど、無意識に妹さんと光里を重ねているってことも考えられる。

「まぁあの時はああ言ったけど、正直な話妹と光里さんを重ねなかったかと聞かれたら嘘になるね。ただ、僕は好きな人から好きな人を奪ってでも自分のものにしようとは思わないって言うだけだよ。その人の幸せを本当に望むのなら、その人が選んだ人に任せるべきだと思うタイプの人間なんだ」

「......そうなんだ。じゃあ1つ聞いて良い?」

「なにかな? 答えられることならなんでも答えるよ」

「光里を好きになった本当の理由ってなに?」

 初めてこの人に話しかけられたあの時から、ずっと気になっていたことだ。

 奏多が言うように、光里は見た目も普通に可愛い。一目惚れでも全然不思議じゃないけれど、本当のところは本人にしか分からない。

 そこがこの転入生に関して、一番分からないところだった。

「実は、光里さんとは前に一度だけ会ったことがあるんだ。その時はちょうど、妹が死んでしまった時期でね。色々病んでた時期だったんだけど、そんな時に光里さんが顔も知らない僕を励ましてくれたんだ。そこで好きになったのが最初かな」

「じゃあ、この学校に来たのは……光里が目当て?」

「まさか。あの時は彼女の名前も学校も知らなかったんだ。転校した先にたまたま彼女がいて、君達が仲よさそうに話していたから気になって話を聞こうと思っただけさ。僕は人付き合いが苦手だから挑発みたいになってしまったことは申し訳なかったよ」

 いたって真面目に謝ってきたその姿に、僕は思わずさっきまでの毒気を抜かれてしまった。

 まさか、あの宣戦布告も人付き合いが苦手なせいで出た言葉だったとは。

 まぁ本人は初対面じゃなかったとしても、全く当時を覚えてなかった状態の光里に、いきなり好きな相手を聞く人だから、あり得なくはないんだろうけど。

「じゃあ。喫茶店でのあの発言も、人付き合いが苦手だから出た言葉だってこと?」

「ん? ああ。あれは単純に、あの時思ったことを口にしただけだよ。悪気はなかったんだけど、結果的に君達を全面的に敵に回してしまったと後悔してるんだ。あんなことをしなければ、今のこの結果は変わっていたかもしれないと思ってね」

「悪いけど、あの発言が無くても僕も奏多も君のことは嫌いだったし、君は光里が一番嫌いなタイプだよ」

「うん。なんとなく彼女の態度で察しはついてたよ。それもあってきっぱり諦めることにしたんだ。一番嫌いなタイプの人にいつまでもアタックされるのは良い気分じゃないだろうしね。仮にも好きになった人にそんな気持ちをさせるのは本意じゃない」

 やっぱり僕はこの人が嫌いだ。光里に対する暴言は本音だったらしい。こんな人に光里を取られなくて本当に良かった。

 この人と付き合うと、光里は絶対に悲しい思いをしていただろう。

 僕を好きになってくれたんだ。僕は絶対にそんな思いはさせない。

「そう。じゃあ僕はそろそろ帰らせてもらうね。奏多がそろそろ走ってくる頃だし」

「分かった。このことは誰にも言わないから安心して。後、光里さんに対する暴言は謝るよ。ごめん」

「その言葉をもう少し早く聞けていたら、奏多は許さなくとも僕は許したかもね。でも、今じゃ遅すぎるよ」

「本当にそうだよね。ただ、本当に悪いと思ってる。だから、ごめん」

 そう誠心誠意頭を下げられたら、いくら僕でも少しは怒りが和らぐ。

 もちろん好きな人を侮辱された怒りはこの程度では消えないけれど、今回だけは多めに見ることにした。

 もっとも、このことは奏多には言わないから、奏多にも許して欲しかったらもっと必死に謝ることだと少し嫌がらせもしたけど。

 教室に帰った僕は、真っ先に奏多に転入生になにを聞かれたのかしつこく聞かれた。

 ありのままを話すと、やはり光里に対する暴言が本音だったことに凄く怒っていた。

「今さら謝っても遅せぇってんだ! ふざけやがって!」

「まぁそう言わないで許してあげてよ。根は良い人らしいからさ」

 意外なところで転入生を庇ったのは音無さんだった。

 そう言えば、この人の従兄弟さんはあの転入生の幼馴染だっけ。そう言えば、音無さんにも聞きたいことがあったんだ。

「あ? 根は良い奴だ? だったらあんな暴言吐かねぇだろ!」

「いや、それは彼も言ってたでしょ? 人付き合いが苦手なんだって......」

「知るか! そんなの俺には関係ねぇんだよ! 今度あんなこと言いやがったらまじで......」

「奏多ストップ! ここ教室なんだからさ、少し抑えて。時に音無さん。聞きたいことがあったの思い出したんだけど、良いかな?」

 怒りが爆発している奏多をとりあえず光里に任せて、僕は音無さんと2人で教室の外に出た。

 廊下からでも奏多の叫び声が聞こえて、必死でなだめてる光里が大変そうだった。

 ある意味いつもの光景だから、クラスの人はあまりなにも思っていないようだけど。

「それで? 私に聞きたいことってなに?」

「音無さんが僕らと初めてまともに話した時のことだよ。あの時僕らについてきた理由が面白そうだからってのと他にもあったでしょ? アレなんのことかなって」

 初めて僕が音無さんとまともに話したのは、光里がバイトしているカフェだった。

 その日は元々、2人で転入生に対する情報集めを使用としていた時で、音無さんが勝手に着いてきたんだけど。

 その時に、着いてきた理由について奏多が尋ねると「面白そうだから」っていう意味がわからない理由だった。

 だけどもう1つ、他にも理由があるとか言っていたような気がするんだ。そのことがどうしても引っかかっていた。

 1個目の理由が適当すぎたから、さすがにこっちはまともであって欲しいんだけど......。

「別に難しいことじゃないよ? 前に言ったよね? 私は光里のことが好きだから、あの子には幸せになって欲しいって。覚えてる?」

「もちろん」

「あの時は、ずっと話に聞いてた悠人って人がどんな人なのか知りたかったって言うのが着いて行った本当の理由。光里が言ってる以上に酷い人だったら、私から諦めるように言うつもりだったの」

「え? なにそれ怖!」

「光里を泣かせるような奴に、光里は任せられないでしょ! これくらい必要悪だって。現に、私はあなた達には協力してもあの転入生には協力して無いでしょ? そういうことよ」

 要するに、僕はこの人に認められたから協力して貰えたってこと?

 じゃあ認められてなかったら?そう考えるだけで凄く怖いんですけど!

「まぁこれからも、あなたが光里を泣かせないように見守るけど〜」

「大丈夫だって。僕はそんなことしないから」

「皆最初はそう言うの。まぁ君なら本当に大丈夫だろうけど、一応ね?」

 そこまで話し終えると、中から光里が涙目で助けを求めてきた。

 なんでも、奏多を自分1人だけじゃ抑えられる自信が無いとかで僕らに助けを求めに来たらしい。

 いつまで怒ってるんだと呆れながら、僕ら3人はなんとか1時間目の授業が始まるまでには奏多をなだめることに成功した。

 だけどその日の放課後、まだ怒りが収まっていなかったらしい奏多はカフェでカレーとパフェを注文した。もちろん全て僕の奢りだ。

 そのせいで、僕の財布の中はすっからかんだ。少しは遠慮してくれたっていいのに......。

「いくらなんでも頼みすぎだって……」

「なんでも奢るって言ったのはお前だ。どうせ光里のバイトが終わるまで待ってんだろ?俺も待ってるから覚悟しとけ?」

 だけど光里のバイト終わり、3人で帰った道は今までで1番賑やかで、1番楽しい時間になった。

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