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第23話 告白

 放課後、光里に「先に行ってて」と言われた僕は、一足先に屋上への階段を登っていた。

一段一段を登る足が重く、教室を出る時の光里の表情から察するに、これからなにを言われるかはもう分かっているんだろう。

 先に行っててと言ったのは、まだ心の準備ができてないのかもしれない。

 急に幼馴染から告白されるんだから、やっぱり数日は心の準備期間を上げるべきだったかもしれない。

 これは、僕の勇気が足りなかったことが原因なんだから、後で謝ろう。

 そう思いながら屋上への階段を一歩、また一歩と歩いていると、制服の内ポケットに入れている携帯が震えた気がした。

 画面には、奏多からメッセージが来たとの表示が出ていた。

「お前にしては途中経過はどうあれ、ここまでよく頑張った。結果がどうなったとしても、俺はずっとお前の味方だ。しっかりやってこい!」

 そのメッセージを見て、僕は少しだけ泣きそうになった。

 だけどこれから告白するのに、泣いてるなんてカッコ悪い。なんとか我慢しないと。

 返信なんてすると、色々と耐えられなくなりそうだからあえてこのままにしとこう。一応電話なんかが来ないように電源も切っとこう。

 屋上へのドアがやっと見えて来た。このドアを開いて屋上に足を踏み入れたら、もう後戻りは出来ない。

 まぁ、光里に話をした時点で後戻りなんてカッコ悪くて出来ないんだけど。

「ふぅ。覚悟を決めるんだ雨宮悠人。ここがゴールじゃ無い。結果がどうであれ、ここはスタート地点なんだ。こんなところで躓く訳にはいかないだろ!」

 自分で自分を奮い立たせ、屋上に続くドアを引いた。

 ドアを開けた先には、夕日で照らされて辺りが全てオレンジ色に染まっている世界が広がっていた。

 グラウンドでは野球部の人たちとサッカー部の人たちが残って練習している。

 光里が来る前に手のひらに『人』という字を3回書いて飲み込むという緊張しなくなるおまじないをして、気休めでも気分を落ち着ける。

 奏多がまだ水泳をやっていた時に良くやっていた方法で、告白の前どうしてもヤバかったら使えと教わったんだ。

「よし! 頑張るぞ!」

 そう気合いを入れて3分も経たないうちに光里が屋上のドアを開けて少しだけ下を向きながら歩いて来た。

 光里がそんな顔をしているせいか、こっちもなんだか緊張が増して来る。

 心臓が昼休みの時とは比較にならないほど激しくなり始め、少しだけ冷や汗も滲み出てきた。

 ただ、こんなところでウジウジしても仕方ないし、後で奏多に笑われるようなことだけはしたく無い。

「来てくれてありがとう。それで、大事な話なんだけど……」

「ちょっと待って! もう少しだけ心の準備させて?」

「……。うん。分かった」

 深呼吸をした後、覚悟を決めたように光里は頷いて僕に話をするように促した。

 僕の方も、もう一度深呼吸をしてから話を始めた。

「僕が小学生の頃、虐められて引きこもった時があっただろ? その時、ずっと側にいてくれた光里が、あの時からずっと好きだったんだ。幼馴染としてじゃなくて、1人の女の子として、好きだった」

「うん……」

「人付き合いがあの頃から苦手だった僕が、高校で頑張れてるのは、もちろん奏多のおかげもあるけど、一番大きいのは光里の存在なんだ。光里がどんな時でも側にいてくれから、僕は頑張って来れた」

「うん……。それは、私も一緒。ハルや奏多がいてくれなかったら、とてもやって行けなかったと思う」

「だから、これからも側にいて欲しいんだ! 幼馴染としてじゃなくて、僕の彼女として。光里を他の男子に取られたくないんだ!」

 僕が冗談なんかでここまで本気になる人じゃないっていうのは光里が一番分かってるし、何より僕は嘘がここまで上手じゃない。

 最低でもこの告白が冗談だと取られる心配はないだろう。問題は、光里の答えがどうなるかだ。

 光里には好きな人がいるらしい。その相手がまだ誰だか分かってないんだから、高望みするのはあまりしない方がいいだろう。

 それでも、もしも願いが叶うなら。できればその相手が僕であって欲しい。そう願った。

「うん……。あのね? 1回顔上げて?」

 そう言われて顔を上げた僕は、夕日に照らされて顔がいつもより赤くなっている光里の顔を真剣に見つめた。

 なんて言われるかは分からないけれど、どんなに辛い答えでも受け止めると覚悟して。

「私ね? 小学校からずっと好きな人がいるの。その人は全然男っぽくなくて、カッコよくも無いんだけどね? 私が悲しい時には一緒に泣いてくれるし、辛い時には一生懸命励ましてくれるの」

「......え?」

「そりゃ、たまには男らしいところも見せて欲しいけど、それ以上に優しくて、頭も良くて、私のわがままもちゃんと聞いてくれるのね?」

「……。うん」

「その人が側にいるだけで、私はどんなことでも頑張れるような気がしてるの。それくらい、大好きな人がいるの」

「それって……」

「私がお姉ちゃんとか言ってたあれね? ハルが虐められてたあの時、私が守ってあげなきゃって! でも、実は他にも理由があって......」

「他にも......?」

 少しだけ考えた後、光里はその続きを話し始めた。

「ハルって、小学生の頃から急に頭良くなったでしょ? だから、私の気持ちバレないか不安で......」

「光里の気持ち? え? それって!」

「うん......。私もハルのこと好き! 大好き! でもハルは私のこと、ただの幼馴染としか思ってないんじゃ無いかって不安で言い出せなかったの......」

 そこまで言うと、光里は自然と涙を流し始めた。

 僕も涙を堪えるのに必死だった。もちろん、好きな人にこんなことを言われて飛び上がるほど嬉しいけれど、それ以上に安心の気持ちの方が強かった。

 もうなにも言葉が出ない。心臓が高鳴って、今にも爆発しそうだ。

「ハル。こんな私で良かったら、よろしくお願いします……」

 涙を浮かべながら頭を下げた光里は、すぐに頭をあげると今まで見てきた中で一番の笑顔を見せた。

 僕はと言うと、喜びのあまりなんて言えばいいか分からず、ただその場に立ち尽くしていた。

 自然と溢れてきていた涙が頬を伝っていることに気付いて、慌てて拭うまでそうしていた。

「なに泣いてんのよ……」

「ごめん。嬉しくて……」

 それから2人でしばらく笑い合った後、僕らはいつものように家まで一緒に帰った。

 ただ、2人の間に流れていた空気だけはいつもとは違って、オマケに初めて手も繋ぐことが出来た。

 そこまで浮かれている僕でも、光里の家に着いた時は改めてお礼を言った。

「今日はありがと......」

「ううん! こっちこそ! 嬉しかった!」

「じゃあ、また明日学校で」

「うん。また明日ね!」

 家に帰り着くと、すぐに自分の部屋のベットにダイブして改めて喜びを噛み締めた。

 だけど、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。

 原因は、僕が机の上に置いて充電していた携帯に奏多のお姉さんから電話がかかってきたからだ。

 出なかったら出なかったで、この人は僕が出るまで電話をかけ続けてくるような人だから出ざるを得なかった。

 電話に出た瞬間に聞こえてきたのは、お姉さんの泣いている声だった。

「ハル〜! 僕に告白してくれるんじゃなかったのか〜!?」

 なんで泣いているのかはだいたい想像がつくけれど、この状態のお姉さんはかなり扱いが難しい。

 しかも、僕は別にお姉さんに告白するなんて一言も言ってない。否定する前に電話を切られたって言うのはあるけど。

「光里に告白したそうじゃんか〜! 酷い! 僕はこんなにハルのことが好きなのに〜!」

「僕は別にお姉さんに告白するなんて言ってないじゃ無いですか……」

「詩音って呼んでって言ってるじゃんか〜! ハルが僕以外の女と付き合うなんて嫌だ〜!」

 子供のように駄々をこね始めたお姉さんは、さらに大きな声で泣き始めた。

 ある意味僕が予想していたような展開なんだけど、本当にこう言う反応をされると、どうすれば良いのか全く分からない。

「おい! うるせぇぞ! いい歳でそんなわんわん泣いてんじゃねぇよ!」

「うるさい! 奏多には分からないだろ! 自分の好きな人が他の女に取られたんだぞ!? これが泣かずにいられるか!」

「俺にだってそんくらい経験あるわ! 俺は、てめぇの好きな奴に迷惑かけてんじゃねぇってことを言いたいんだよ!」

「そんなこと言ったって! 悲しいものは悲しいんだ!」

 そして、5分くらいの間ミュートになった後、急に泣き止んだお姉さんの声が聞こえてきた。

 時々しゃっくりが出てるから、まだ完全に泣き止んだわけじゃ無いみたいだけど、とりあえずは奏多に感謝だ。

「ねぇハル。1つ聞いて良いかい?」

「なんですか? お姉さ……じゃなくて、詩音さん」

「もし僕がずっと前に告白してたら、付き合ってくれた?」

 今までで一番だと思えるくらいに真剣な声で聞いてきたから、これは僕も真剣に答えないと失礼だと思い、自分の正直な気持ちを伝えた。

 気を遣って気休めを言うのではなく、本心を。

「僕は小学校の時から光里のことが好きだったので、詩音さんに告白されても他に好きな人がいると言ったと思います」

「そっか......。ボクは最初からあの子に負けてたんだね......。でも、これだけは覚えておいて欲しいんだ。ボクは、冗談でもなんでもなくハルのことが好きだったよ!」

「はい......。ありがとうございます。気持ちに答えられなくてゴメンなさい......」

「良いんだよ! ボクはハルが幸せならそれで良いんだ! 本当ならボクの手でって言うのは叶わなかったけどさ! ハルが幸せならそれで良いって自分に言い聞かせることにする!」

 さっきまで絶対嫌だと言ってた人から出てくる言葉じゃなくて、数秒混乱してしまった。

 奏多は一体何を言ってお姉さんをここまで落ち着かせたんだろう。

「ありがとうございます……」

「でも1つだけ言っとくよ!? ボクを振っておいて、光里を泣かせたら許さないから! ハルのこと嫌いになる……いや、なれるか分かんないけど! 嫌いになるから!」

「分かりました。元より泣かせる気なんてありませんから」

「ん! ならもういい! ボクは寝る!」

 それだけ言うと、また一方的に電話を切られてしまった。

 ちょっと困惑したけれど、とりあえず奏多にお礼のメッセージを入れておく。

 今日1日、特に色々してもらった。告白の直前に貰ったメッセージから、告白後結果を伝えると、自分のことのように喜んでくれたこと。

 本当に、ここ最近では特に奏多にお世話になった。

 すぐに返信が来て「気にするな。親友だからな!」と送られて来た時は、今日何回目かの涙が出た。

 奏多がこんなにいい奴だったなんて、ここまで付き合って来たのに、最近初めて知った。

 ちなみに、お姉さんを落ち着かせたのは僕にしてくれた奏多の過去の失恋話を少しだけ盛って話したらしい。

 そこで少し盛るあたり、奏多らしいと笑ったのは僕だけの秘密だ。

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