第22話 直前
結局告白の日は、光里のバイトがない木曜日の放課後に決定した。
2日間の猶予の中で変に緊張することはあっても、奏多と音無さんのサポートでなんとかやって行けた。
1番警戒していた転入生と奏多のお姉さんも、特になんのアクションも起こすことなく問題の木曜日の朝を迎えた。
「いよいよ今日だな〜」
「本当だね。なんかあっという間に来ちゃった感じがするよ」
いつも通りの道をいつも通り奏多と歩いているだけなのに、なぜだか凄く足取りが重い。
昨日は寝れそうにないと思ったけれど、ここ最近全く寝てなかったからなのか、良くか悪くかぐっすり寝ることが出来た。
どちらかと言えば万全のコンディションのはずなのに、妙に心臓の鼓動が早く、足が思ったように動かない。
「まぁそうなるのも分かるけどな。気合いで乗り切るしかねぇだろ。昼休みまでに光里に話しとけよ? どうせまだ話してないんだろ? 屋上で話があるって」
「うん……。伝えなきゃって思ってたんだけど、中々ね」
「まぁ、ここまで来たらしっかりやれとしか言えねぇ。俺と音無は応援してんだから、しっかりやれよ!」
奏多から励ましの言葉を貰うも、いざとなると中々伝えられないのが現実だ。
誘う口実も、どうやって誘うかも全部決めて来たのに、このままじゃ全て無駄になってしまう。
そんなことになってしまうと、ここまで手伝ってくれた奏多や、協力してくれている音無さんに申し訳が立たない。
だけど、学校に着いて教室で音無さんと話している光里を見ても、いつも通り挨拶をするのが精一杯で、とてもそんな話なんて切り出せなかった。
もちろん授業中や授業の合間の休み時間も、何度もチャンスはあったし、奏多や音無さんが何度も切り出すチャンスは作ってくれた。
だけど、その全てをモノに出来なかった僕は、午前最後の授業の間はずっと焦っていて授業の内容なんて全く頭に入ってこなかった。
「はぁ。昼休みが最後のチャンスだ。それが無理だったら今日は諦めるんだな」
「分かった……。最後のチャンス。頼むね」
「任せとけ! ひたすら話振ってやるから、お前のタイミングで言え!」
お弁当を食べる前、そんな会話を奏多と交わして、僕はラストチャンスである3人でのお昼ご飯に挑んだ。
ちなみに、なんでこの昼休みを逃すと今日の告白は諦めることになっているか説明すると、単純に光里にも心の準備が必要だと考慮してのことだ。
光里はそこまで鈍感じゃない。僕が急に「屋上で話がある」とか言いだしたら、なにを言われるかくらい察するだろう。
一番良かったのは、前日やその前に伝えられることだったけれど、それが出来なかった時用に僕達3人で決めていたルールだった。
「なぁ〜。お前のそのカバン前から思ってたけどどうにかなんねぇのかよ」
「別に良いでしょ〜? 私の勝手じゃんか〜! ほら! このナメコ星人のストラップとか激かわじゃない!?」
「全く? お前のその特殊な趣味はほんと分からんわ!」
「なにその酷い言い方〜! この前のお出かけの時ハルにも言われたんだけど!」
そして、お弁当を食べ終わった後も常にこんな感じで奏多と光里の言い合い?が続いていた。
それはつまり、僕がまだなにも言えてない状況であるのと同義であって……。
しかも、昼休みは後数分で終わる。
今日の告白は諦めたほうがいいのかもしれないと僕が思った瞬間、そのことが顔に出てたんだろう。奏多が突然トイレに行ってくると言って教室から出て行ってしまった。
時間的にも、最後のチャンスを作ってくれたんだろう。ここで言い出せなかったら、今日の告白はもう諦めないといけなくなる。
それはここまで手伝ってくれた2人に、こんなめんどくさい僕に付き合ってくれている2人に面目が立たなくなる。そんな情けない男にはなりたくなかった。
「そんなに変かな……。可愛いのに〜!」
「ねぇ光里、ちょっと良いかな?」
「ん? どうしたの? そんな真剣な顔して」
「実は、大事な話があるんだけど、人には聞かれたくないんだ。だから、放課後屋上に来てくれないかな?」
「え? なに? どうしたの急に……」
明らかに動揺している光里に、僕はここで怖気付いたら全てが台無しになると、半ばヤケ気味に続きを言った。
足はずっと震えているし、さっきから心臓の鼓動が光里にも聞こえてしまうんじゃないかってくらいドキドキしている。
そんな状況だけど、ここまで手伝ってくれた親友と音無さんを思い出して、必死で勇気を振り絞った。
「この間映画館行った時、なんでも言うこと聞いてくれるって言ってたでしょ? それ使うからさ。来てくれないかな?」
「ん〜。別にそれ使わなくても普通に行ってあげるって〜。なになに? 人に聞かれたくない話って〜」
「そう? ありがとう。内容はその時まで秘密ってことで」
「え〜? はい。なら放課後に屋上ね。分かった〜」
その話が終わったのと同時くらいに奏多が教室に帰って来た。
多分、教室の外で様子を伺っていたんだろう。僕もちょうど席を外したかったからちょうど良かった。
奏多と入れ替わるように教室を出た僕は、授業開始のチャイムが鳴るまでの3分とちょっと、トイレの個室で良くやったと自分で自分を褒めていた。
教室に帰ると、さっきまでいた光里の姿が無く、午後最後の6時間目の授業になるまで姿を見せなかった。
休み時間にどこに行っていたのか聞いても、少しだけ頬を赤く染めて首を振るだけでなにも答えてはくれなかった。




