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気弱な僕は、あの日助けられた君に恋をした  作者: 福留詩音
第5章 久しぶりの2人
18/26

幕間 直前のアドバイス

 光里と何年かぶりのデートを翌日に控えた今日、僕は朝から奏多の家に呼ばれていた。

 理由はもちろん、明日のデートに関してだ。

 奏多の家は2階建ての一軒家で、奏多の部屋は2階にある。

 僕は部屋への階段を上りながら、妙な緊張感に襲われていた。

 明日のデートに緊張しているのか、それとも久しぶりに来た奏多の家に緊張しているのか、はたまた全く違うものに緊張しているのか。

 幸い、奏多のお姉さんがいない時間帯に僕を呼んでくれたみたいで、奏多のお母さんに「今は外出している」と聞いて少しだけ緊張が和らいだ。

 どうやら僕は、奏多のお姉さんに対して少し緊張していたらしい。奏多のお姉さんは、良い人だけど、少し苦手だから。

 その理由は……今は話さなくても良いと思うから今は無視の方向で。

 奏多の部屋の前に着いた僕は、とりあえずノックしてみる。

 この時間に来いと言ったのは奏多だけど、そう言っておきながらまだ寝てるなんて可能性が充分にある。

 奏多からの返事を待っている間、僕は相変わらずドア貼ってある『勝手に入るな!』の警告文を眺めていた。

 なんでこんなにトゲを感じる書き方をしてるんだろう......。前になにかあったのかな?

 こんな貼り紙をしたところで、お姉さんは気にせずドカドカ入り込んでくるらしいけども。

 そんなことを考えていたら奏多は幸い起きていたらしく、すぐに部屋の中から出て来た。

「んぁ? 誰だこんな朝早く!」

 なぜだか少しキレ気味に言ってきた奏多に呆れながら、いつも通り突っ込むと素直に謝ってくれた。

「あ〜すまんな。ちょっと昨日色々あってな」

「うん。別に深くは聞かないよ」

「おん。助かるわ」

 そう言うと僕を中に入れてくれた。

 奏多の部屋に入った瞬間目に入って来たのは、学習机の上に置かれたパンの残骸と、その横の透明なケースに飾られたトロフィーだった。

 奏多は幼稚園から中学まで水泳をやっていて、その時に獲得したトロフィーが飾られている。

「お邪魔します……」

「おう。で、なんでお前こんな早く来たんだ?」

「奏多がこの時間に来いって言ってたよね? もう忘れたの?」

「忘れたわ〜」

 こんなことを堂々と言い張るあたり、時間通りに来たことが馬鹿らしくなる。

 まぁこんなことは日常茶飯事だからもう慣れたけどさ。

「ねぇひとつ聞いて良い?」

「あ? なんだよ」

「そのパンはなに?」

 部屋に入って一番気になっていたものを、僕は思わず聞いてしまった。

 光里のことを話すよりも、まずはそのことがどうにも気になる。

「朝飯だ。別にありゃどうでも良いだろ。とりあえず、姉ちゃんが帰ってくる前にやることやってさっさと帰れ」

「分かった。ちなみにお姉さんは今どこに?」

「朝っぱらからカラオケ行くとか言って出て行きやがった。後2時間は帰ってこねぇだろ」

 奏多も、僕がお姉さんを苦手なのは知ってるからさっさと終わらせたいらしい。

 ならなんでわざわざこの部屋で話すのかって言う理由だけど、それは単純に奏多が朝から外に出たくないと言ったからだ。

「で、明日どこ行くんだ?」

「光里が言うには、前から気になってた映画があるらしくてね。それを観に行こうってことになってる。その後はお楽しみ〜だってさ」

 僕は昨日光里と交わしたメッセージのやり取りを奏多に見せながらそう言った。

 実際のところ、デートに直接誘って来たのは光里の方だ。まぁほとんど僕が誘ったみたいなものだけれど……。

 だって光里が「久しぶりに今度3人でどこか行きたいね〜」って学校の帰りに話したのを良いことに「なら2人でどこか行かない?」って言ったんだから。

 その提案に光里が乗ってくれて、今度の日曜日に映画に行こうって話に発展したんだ。

「なんだそれ。てかなんの映画見るんだよ」

「確かミステリーだった気がするよ。謎がネットとかで難しいって話題になってるから見てみたかったんだって」

「ふ〜ん。でもお前、それ解けても口に出して言うなよ?」

「奏多じゃないんだからそんなことしないよ。でもちょうど良かったよ。僕も見てみたいって思ってたし」

 僕は別に、ミステリーや謎解きが好きって言うわけじゃない。

 ただ、光里が好きだから興味くらいは持っているってだけだ。

 光里が好きなものならできる限り好きになれるよう努力するようにしている。僕にできることって言えば、それくらいだし。

 まぁ、それをしたところでどうなるって訳じゃないけど。

「お前は一言多いんだよ。じゃあついでに俺からの試練を与えてやる」

「なに急に。御免被りたいんだけど」

「別に明日告れとか言ってねぇだろ。できればで良いから、光里がお前に脈があるか見抜いて来い。脈がありゃそれだけ自信つくだろ。無けりゃ......知らん」

「肝心なところが適当なのが凄く不安なんだけど。っていうか、そんなのどうやって調べろっていうの?」

「俺が知る訳ねぇだろ。できるだけ自然に探れば良いんだよ。無理なら無理で、あのクソ野郎のことをどう思ってるかだけでも聞いてこい。それは出来るだろ?」

「そんなこと言っても......」

 奏多のいうクソ野郎って言うのは、あの転入生のことだ。

 喫茶店であったあの件以来、本人が聞いていないところでは奏多は彼のことをこう呼ぶようになった。

 さすがにどうかと思うけれど、僕もあの人が言ったことはどうしても許せないから黙認している。

 自分の好きな人に対して「妹の方が可愛い」なんてどうして言えるのか! 本当に分からない。

「あとは〜そうだな。お前は分かってると思うけど、待ち合わせの5分か10分前には待ち合わせ場所に着いとけよ?」

「だから奏多じゃないんだから大丈夫だって。15分前には着くようにするよ」

「だから最初の一言がよけ……」

 奏多がそこまで言ったところで、下の方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 僕と奏多は顔を見合わせて、どちらも『ヤバイ!』って顔をした。

 声だけで分かる。奏多のお姉さんが帰って来たらしい。

「話が違うじゃん! 後2時間は帰ってこないんじゃなかったの!?」

「あいつの考えることなんざ知るか! とにかくお前は隠れてろ!」

「隠れるってどこに!?」

「ベットの下とか色々あんだろ! ほら上がって来たぞ! 早くしろ!」

 鼻歌を歌いながら階段を登ってくる足音がして、僕は言われた通り急いでベットの下に隠れた。

 僕がベットの下に潜り込んだのと同時に、勢いよく部屋のドアを開けてお姉さんが入って来た。

「よ! ボクの愛しい人はどこだい?」

「あ? 悠人ならさっき出てったぞ? てか何度も言ってるよな? 部屋入るときはノックしろって」

「姉弟なんだから別に良いだろ? それより、玄関にまだ靴があったぞ? 隠したりしたらボクの拳が火を噴くよ?」

「そんなもんどうでも良いわ。てかなんだよそのストーカーみたいな発言。リアルに引くわ!」

 そう。これが僕がこの人を苦手な理由だ。

 小さい頃から「好きだ〜!」と言われ続けて、一種のトラウマみたいになっている。

 この人はやたら距離が近いから、人とあんまり関わってこなかった僕にはちょっとキツイ。

 光里以外の女の人とは全く話したこと無かった当時の僕からしたら恐怖でしか無かったし。

 僕が全く心を開いていないのに気付いているのか分からないけれど、小さい時からずっとこんな調子なんだ。

 いい加減やめて欲しいんだけども......。

「あ! 見つけた! なんだそんなところにいたのか〜」

「は? 嘘だろ!?」

「ん? なんでベットの方を見たんだ? なるほど〜ボクの愛しい人はそこか! ハル〜? 出て来なよ〜」

「あ? てめぇ! 嵌めやがったな!?」

「騙される方が悪いんだ。奏多はハルと違ってバカだから助かるよな!」

 どうやら奏多のせいで僕が隠れてる場所がバレたらしい。

 こうなったら、逆に出て行かないとなにをされるか分からない。

 仕方なくベットの下から出た僕に、お姉さんは速攻で抱きついて来た。

 大学生だからか、それとも光里があまり大きくないせいで余計大きく感じるのか。それは分からないけれど、とにかく大きい2つのものが僕の顔にダイレクトに当たってるから離れて欲しい……。

「おいストーカー。悠人見るたびに抱きついてんじゃねぇよ気持ちわりぃ」

「好きな人を見たら思わず抱きしめたくなるのは生理現象だ。仕方ないだろ?」

「黙れ。張り倒すぞ。とにかく離してやれや」

 そう言われて渋々離れてくれたお姉さんは、僕が少しだけ顔を赤くしてるのを見てなんだか嬉しそうだった。

 いくら好きな人がいると言っても、女の人に免疫がないんだから仕方ないだろ?

「お久しぶりです。お姉さん……」

「ハルは特別に詩音って呼んで良いよって前言っただろ〜? 呼んでくれないと、またするぞ〜?」

 そうニヤつきながら言う、僕の目の前にいる人こそ奏多のお姉さんの詩音さんだ。

 黒髪のショートカットでデニムのショートパンツとお腹をガッツリ出した白いシャツを着ている。

 奏多の2つ上のお姉さんで、今はデザインの専門学校に通ってるんだったかな。

「おい悠人。こんなバカはほっといてさっさと帰れ。やることやったんだし別に問題ねぇだろ」

「分かった。じゃあお姉さん。僕はこれで……」

「あ〜! ハル待ってよ! 全然連絡くれなかったから、話したいことが色々あるんだ!」

 後ろで切なそうにそう言っている詩音さんをなんとか無視して、僕は強引に奏多の家を出た。

 家を出てすぐに詩音さんから電話がかかって来て本当に心臓が飛び出るかと思った……。

 もちろん無視して、そのまま帰ったけど。



 そんなことがあった翌日の朝、僕は洗面所の鏡の前で妙に緊張していた。

 今日は光里との久しぶりのデートだ。なんだか変に緊張してしまって全然眠れなかった……。

 まるで遠足に行く前の晩、全く眠れない小学生みたいな感じだけれど、2人きりで出かけるのが本当に久しぶりだから仕方ないと思う。

 そこで自分の身だしなみをチェックしていると、横の棚に置いておいた携帯が震えた。

 確認してみると、光里からメッセージがきていた。

「おはよ〜! もう起きてるよね?」

 そんなメッセージを見て、僕は余計に緊張してしまった。

 これから本当にデートなんだ。って今まで女の子とデートをほぼしたこと無い人特有の思考に陥っている。

「おはよ。もちろん起きてるよ」

「良かった! 今日楽しみにしてたんだ〜! 寝坊なんてしてたら許さなかったから!」

 こんなことを言われると、たとえ画面越しだったとしても少し顔を赤くしてしまう。

 そりゃ僕だって楽しみにしてたけど、本人に言われると嬉しいし!

 告白のこととか色々考えてる時期だけど、今回のデートで少しでもオッケーを貰える可能性が増えるかもなんだし、絶対に失敗できない。

 そう気合を入れたところだった。さっきまで光里とやりとりしていた画面が消えて、代わりに奏多からの着信を知らせる画面に切り替わったのは。

 慌てて電話に出た僕は、焦りすぎて携帯を落としそうになった。

「もしもし?」

「おう。今なにやってんのかなって思ってよ」

「今日の準備してるところだよ? なんだか寝れなくってさ」

「待ち合わせ昼過ぎじゃなかったか? お前ん家の時計全部壊れてんのか?」

「昼過ぎの待ち合わせなのにお昼に準備してたら間に合わないじゃん。っていうか、もう10時半だよ?」

 光里との待ち合わせは、13時にお互いの家の真ん中辺りにある公園ということになっている。

 僕の家からも光里の家からもちょうど5分くらいで着く距離にある本当に近い公園だ。

 そこから駅近くにある映画館に行って、映画を見ることになっている。その後は昨日も言った通り、僕も知らない。

「いやせめて12時とかからでも全然間に合うだろ。準備ってなにやってんだお前?」

「別に......色々だよ。身だしなみ整えたりとか色々あるだろ?」

「普段お前そんなことしないだろ。なに変に緊張してんだよ笑けてくんだけど」

「そんなこと言われても……」

 確かに変に緊張しているのは分かっているけど、奏多に笑われるとなんだか凄くムカつく。

 ずっと好きだった人との久しぶりのデートなんだから、緊張しない方がおかしいでしょ......。

「別に緊張すること自体をどうこう言う気はねぇよ。俺だって多分同じ状況なら緊張するしな」

「じゃあなにが言いたいの?」

「お前の場合、緊張しすぎて変な方向に空回りしないかを心配してんだよ。相手はあの光里だぞ? 変に気負ってたらお前の気持ちくらい気付くぞ?」

「そうかも知れないけどさ……。じゃあどうしろと?」

「答えは簡単だ! いつも通りでいろ。よく言うだろ? 変に緊張していつも通りの力が出せないんだったら、いっそのこといつも通りやれって」

「初めて聞いたよそんな言葉……」

 まぁ奏多のことだから、どうせ変なところを間違って覚えているんだろう。

 言わんとしてることはなんとなくだけど分かる。

 要するに、変に力を入れないで平常運転で行けってことを言いたいんだと思う。

 でもそれは理想論って言うか、そう出来たら良いねっていう話であって、現実の人間の心っていうのはそんなに単純じゃ無い。

「分かってるわそんくらい。じゃあ試しに、今日なに着ていこうと思ってたんだよ」

「ん? なにそれ」

「良いから答えろや」

 なにって言われても、普通の普段着で行こうと思ってた。

 それこそ奏多と出かける時みたいな、この間一緒にお墓参りに行った時着ていた様な、いたっていつも通りの服だ。

「なんでそっちはいつも通りなのに外見だけ妙に気遣うんだよ! ばっかじゃねぇの!?」

「そんなこと言われたって……」

「良いか? 服はこの際いつも通りだったらなんでも良いんだよ。変に着飾るより何倍もマシだ。態度とかが不自然にキョドッてたら意味ねぇだろ?」

「まぁ、確かに?」

「だから、あいつと2人きりって考えるより、後ろに俺がいるって考えてりゃ良いんだよ。そしたらいつも通りでいられるだろ?」

 言われてみれば確かに、今まで光里と2人きりで出かけたことはほぼ無いけれど、奏多と3人で出かけたことなら数え切れないくらいある。

 その時は別に幼い頃から変わらない顔ぶれなんだし、変に緊張することなんて無かった。

 それこそ、登校中や下校中なんかに光里を特別意識したことはない。

「な? それだと行けそうな気がするだろ?向こうもどうせあんま意識してこねぇって」

「それはそれでなんだか複雑なんだけど……」

「お前の複雑な心境はこの際どうでもいい。大事なのは今日じゃなくて告白の時なんだよ。そん時はいくら緊張しても良い。だから、今日くらいはできるだけ落ち着いて乗り越えてこい。良いな?」

「なんか微妙に傷つくこと言われた気がするけど......分かったよ。ありがとう」

「なになに? 相手ハルか!? おはようハル! 告白って聞こえたけど、もしかして僕に愛の告白でもしてくれるのかい!?」

 僕が奏多にお礼を言ったのと同時くらいに、電話の向こうからお姉さんの声が聞こえて来た。

 なんでこの人はこんな朝からテンションが高いんだろう……。っていうか、凄い勘違いをされてるんだけど。

「黙れストーカー予備軍! お前は引っ込んでろや!」

「お姉様に向かってなんて口の聞き方だ! 後で覚えてるんだな! ハル? たまには僕にも電話くれよ〜。僕は寂しいぞ?」

「なにがお姉様だ気持ち悪い! いいから黙ってろって! てか俺の部屋に勝手に入るなって言ってんだろうが!」

「なんかハルと電話してる気配がしたから仕方ないだろ? ハルは私に滅多に電話くれないし!」

「ストーカー予備軍! そりゃお前が原因だろ! じゃあな悠人!頑張れよ!」

 それだけ言って、奏多は電話を切ってしまった。僕が入り込む隙がなかったんだけど。

 あのお姉さん、色々誤解してるけど大丈夫かな。前より色々酷くなってる気がするんだけど……。

 とりあえず、あの人のことは忘れて今は目の前のことに集中しよう!

 奏多に言われたことを意識して、なるべく自然に今日は乗り越えよう。

 奏多も緊張はして良いけど、それは今日じゃないって言ってたし。

 そうだ。僕が今一番考えないと行けないのは、これからのデートのことじゃなくてこの先の告白のことなんだ。

 今日はあくまでその前哨戦なのだから。

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