誰かから誰かに向けての手紙
お久しぶり。最近は寒くなってきましたが、あなたはお元気ですか?
私は町はずれの製糸所で日々を過ごしています。罪を雪ぐだなんて大層な考えを持っているわけではないけれど、以前ほどの贅沢はしなくなりました。
きっとあなたの住む町は賑やかさが金槌で叩かれた蝋燭のように家々の狭間へ広がっているのかな、と思います。そうであればいいなとも。
あの子の事は残念でしたね。私達はいつもいつも解釈を理解の形に歪めてしまうところがありますから。ああでも、こんな話を教授に話せばきっと「紅茶の色と夕空を比べるだなんて」と笑われてしまうわ。
彼は最近になって大きな犬を飼い始めたようです。羨ましい。私のような人間が噛みつかれてしまわないようにするためにはどうすればいいのでしょう?
こちらの季節は相も変わらず穏やかです。それでも先日ちょっとだけ強い風が吹いた時に、スカーフが飛んでいってしまったのには困りました。
スカーフ。スカーフですって!おしゃれなんて縁遠いと思っていた私も、そんなものを身に着けるようになったんですよ。桜色のとてもきれいな品でした。あなたに、見てもらいたかったな。
どうかこれから先、あなたがあなたの愛するべき人と出逢えますよう祈っています。
うじうじいじけてしまうところが私は嫌いだけれど、それでもそんなに綺麗な心を持っているんですもの。幸せになれるはずだわ。
それでは、この辺りで。
また金ぴかに光るリボンの日に会いましょう。
P.S.
次会う時には出来る限りのご馳走を用意して待っていますから、好きなお酒を持ってきてください。